32.もう一つのユニーク魔術
「転移魔術は負担が大きいだろうから……、そうだねえ、マティルド嬢。もう一つ、何か違うユニーク魔術を使ってみてくれないか?」
ジェラルド様が爽やかに無茶ぶりしてきた。
「そう言われましても……」
「私も見てみたい。マティルド、何でもいいからやってみろ」
ルーディガー様が目を輝かせて言う。
こういうところ、ルーディガー様とガブリエル様って血が繋がってるんだなーって実感する。黒髪以外は瞳の色も顔立ちも違うけど、何でもいいからユニーク魔術を見せろって同じこと言ってるし。
「転移魔術以外で、あまり体に負荷のかからないユニーク魔術ですか……。マティルド嬢、たしか炎の剣を使いたいとおっしゃってましたよね?」
ナタリー様が考え込みながら言った。
炎の剣!
「使いたいです!」
力いっぱい返事をすると、またもやジェラルド様が噴き出した。
「……失礼。しかし、そうか、マティルド嬢は炎の剣に憧れているのか」
なんだか微笑ましそうな目を向けられてしまった。
「炎の剣は通常、剣に炎の魔力をまとわせる。……このように」
ルーディガー様が腰に佩いていた剣をすらりと抜いた。と思ったら、もう剣が炎に包まれている! 無詠唱なのに!
「すごい!」
わたしは思わず、飛び上がって叫んでしまった。
だって子どもの頃からの憧れだったんだよ! 北部で炎の剣に憧れない子どもはいないと思う。建国王ハラルド様に付き従った北部の勇者様は、炎の剣でバッタバッタと敵をなぎ倒していくんだよねえ!
「……北部の人間は皆、これを見せるとなぜか大喜びするな」
ルーディガー様が不思議そうに言う。
「それはそうですよ! 北部では皆、建国神話で大活躍した勇者様のお話を聞いて育ちますから!」
「ああ、あれか。……まあ確かに北部の魔獣が相手なら、炎の剣は効果が高いな」
わたし以外、炎の剣でテンションを上げてる人はいないみたいだ。こんなにカッコいいのに!
「まあ、そんなに炎の剣が好きなら、作ってみたらどうだ。ユニーク魔術で」
「え」
「マティルドは炎の剣に思い入れがあるようだから、成功する確率は高いんじゃないか? 魔術が成功するかどうかは、本人の資質はもちろんだが、その志向も大きく影響するからな」
それが本当なら、もちろんわたしだって炎の剣を作りたい。っていうか、使ってみたい!
でもわたしの魔力属性は火ではないから、通常のやり方では無理だ。
ルーディガー様の口ぶりだと、「剣に炎の効果を付与する」のではなく、「炎の剣を作りだす」イメージを構築し、それを実体化できるよう詠唱すればいいのか。
ガブリエル様も言ってたっけ。ユニーク魔術は万能だから……、そうだ、ユニーク魔術はなんでも創造できるはず。理論上は。
それなら……。
右手を掲げ、わたしは念じた。
「……炎の剣を『創造』する」
声に魔力を乗せてイメージする。炎に包まれた大剣。子どもの頃に憧れた、勇者様のあの剣を。
すると、
「うわ……、わああ!」
掲げた右手に、紫色の炎に包まれた大剣が現れた。柄を握ってみる。わたしの背ほどある大剣なのに、ぜんぜん重くない。
え、何これ。めちゃくちゃカッコいい!
わたしは炎の剣の柄を両手で握り、構えてみた。
「ハッ!」
気合いとともに、思いきり大剣を振るう。すると、
「おい!」
慌てたような声がして、ぶわっと魔力の抵抗を感じた。
「おまえは塔を壊すつもりか! ……しかし、何という力だ……、おい、おまえ、マティルド!」
「はい! すみません!」
テンション上がってつい剣を振るっちゃったけど、人様の執務室でやることじゃないよね。わたしはルーディガー様に頭を下げた。が、
「すごいぞ!」
ルーディガー様はわたしの肩をがしっと掴んだ。と思ったら、また体を持ち上げられて、炎の剣ごとくるくると回される。
「え、え、あの」
「なんという魔術だ! 私の執務室で、これほど威力のある攻撃ができるとは! マティルド、おまえ今すぐ学院を辞めろ! 私の弟子になれ!」
なんですとー!?
「まあ、師団長」
ナタリー様が拍手した。
「素晴らしいご提案ですわ!」
ウソでしょ、何おっしゃってるんですかナタリー様!
ジェラルド様も笑ってないで止めてください!




