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異世界派遣社員の暗躍  作者: よぞら
焔の章
34/42

劫火

 ラニの指揮により、警護隊や民間の協力者とジルの率いていた軍人達が懸命に海水を集めて消火活動をしている。

 本来であれば消火活動に海水を使用することは稀だ。

 自然物は塩化と呼ばれる高濃度の塩分で土が死に植物が育たなくなる現象が起き、人工物は錆付き腐食してしまうため復旧作業に支障が出る。

 しかし、八番島エイヴァの植物は殆どが海水で育っている上に人工物もない。露呈した海底から消火装置を運び、残った潮だまりの海水をかき集めて消火しているが人の力ではどうにもならない。


「とにかくこれ以上広がらないように食い止めろっ。」


 ほぼ無休で指揮を執るラニは声を張り上げた。露呈した海底が乾きつつある。豊かな海藻が徒となり燃え広がる材料になっていたのだ。

 このままでは他の島まで燃え広がってしまう。

 潮だまりからかき集める海水も枯渇してきた。作業している警護隊も軍人も民間の協力者も疲弊している。消火を諦め撤退の言葉がラニの脳裏に過ったとき、ごうごうと燃える炎の音をかき消すようにエンジン音が轟いた。

 空を見上げれば、巨大魚が海を泳ぐような景色が広がった。

 地上からはドリグナと呼ばれる魔動式空中走行型二輪車が走ってくる。ラニの目前で停止し、ドリグナから1人の青年が降りた。


「ご苦労!某は帝国軍中将テリア。只今より、帝国陸軍第二軍団魔道機動師団が加勢するっ。」


 思わぬ援軍にラニを始め、作業していた者達は崩れ落ちるように膝を着く。全員が限界であり気力だけで動いていたのだ。

 空を飛ぶ多くの輸送機は円を描くように編隊を組み、八番島エイヴァを囲むように着陸する。


「全員、配置。作戦を開始する。」


 テリアと名乗った青年の号令により、輸送機に積まれた200機の魔道式戦闘機と1万人の魔導兵による消火活動が開始された。

 飛び回る魔道式戦闘機は雨を降らせ、地上を突き進む魔導兵は風を発生させ炎の勢いを鎮圧していく。

 魔道式戦闘機の機体に施された魔術が人工雨を発生させているのだ。この人工雨は粘液性があり散布することで対象に絡みつき消火する。

 魔導兵の持つ放射型魔道具が起こす風は空気を遮断し窒息消火を促していた。


「……すげぇ。」


 ラニ達では燃え広がらないようにするだけで手いっぱいであった火の勢いが見るからに弱まっていく。改めて魔力の凄さを見せつけられ感嘆した。

 魔術を駆使した大規模な消火活動であったが鎮火までは一日半にも及んだ。





。+・゜・o◯.。.o・゜secret゜・o.。.◯o・゜・+。




「ひでぇな。」


 黒焦げて木炭となり、複雑に積み重なった大木だった物の隙間をくぐりながらラニは眉を潜めた。その後にはテリア中将直属の魔導隊で編成された12人の捜索班が続く。

 ローズレイアが落とされて三日目の朝、七番島神官捜索のため六番島神官ラニの先導で八番島エイヴァの中心部へ向かう捜索部隊が編成された。

 七番島神官の候補者でもあったラニは本神殿まで何度か行ったことがある。案内くらいならば可能なのだ。

 殆どが炭と灰になり、焼けた動物の死骸が転がる。中には兵士と思われるものの残骸がいくつも見つかった。


「……変な天気だな。」


 変らない青空と燦燦と輝くレア。雲もないのに舞い降りる花弁雪。気温も変わらないというのに平然と降り積もる雪は20センチメートル程にもなっていた。

 計器を狂わす磁場は未だに健在であり、先に進むにつれて居場所を示す情報はズレていく。この磁場が八番島エイヴァの中心部である本神殿から出ているモノだとしたら無傷でなくとも形が残っている可能性がある。それならば生存者の希望が僅かにあるのだ。

 チロチロと残り火が燻る個所を避けながら悪路を進む。何度か休息を挟み、日が真上を通り過ぎた頃だった。

 開けた視界に広がる光景にラニと捜索部隊は絶句する。

 ぽっかりと穴が空いているのだ。直径が500メートルはあるだろうか。露呈している木の根は形を保ったまま炭となり、ローズレイアの破壊力に誰もが恐怖した。

 100メートル近く深さがあり、目が眩むような目下には新たな遺跡が顔を覗かせる。


「まるで街が木に飲まれたみたい。」


 隊員の言葉通り、遺跡は栄えた街中のような形状をしており中心には塔のような物が建っている。その塔も木の根が絡みついていた。


「……アレが……本神殿だ。」


 異様な光景に汗を流すラニが指差す先、そこには神官達の見慣れた光景の一部が無傷で残っていたのだ。塔の頂上付近には本神殿と崇める遺跡と赤い花畑がある。

 燃えることもなく傷つくこともなく本神殿と赤い花畑が残っているのだ。


「……スイィィィィィィっ」


 ラニは腹の底から声を張り上げた。

 原理も理解できず本神殿の状態は以上だ。しかし無傷の場所があるのならば生存者がいるという事だ。


「神官様っ。行きましょう。」


 いつの間にか用意していた魔道式空中飛行ボードを組み立てた魔導隊達はラニを両側から支え、浮遊して穴を飛び越えていく。


「ま、待てっ、心の準備がっ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。」


 突然の飛行による浮遊感にラニの野太い声が雪の舞い散る青空に木霊した。

 次々と地に降りる隊員達と連れてこられたラニ。ラニは浮遊の影響でふらつくのか支えられている。


「なんだ?ここ。」


 不自然に無傷で存在する赤い花畑と本神殿の遺跡。そして血の跡と服を残して白く崩れている兵士の体の一部、6体の白い人の形をした何か。

 明らかに奇怪な状況だ。


『捜索部隊及び神官ラニ。直ぐに向かうからどちらもクレーター内から退却して。』


 全員の魔道式無線にテリア中将の声が響く。


「全員退却っ。」


 上官の慌てた様子に尋常でない事態を察した部隊長は指示を出すが、少し遅かった。ほんの少しの間に、泡のサークルに囲まれていたのだ。捜索部隊とラニは何が起こったのかわからず困惑している。


「……なんだ?これ?」


 何かが唄っている。

 泡のサークル内に捕らわれた部隊が静かに武器を構えて迎撃態勢をとった時、地に伏していた黒い塊が蠢く。

 十数本の触手の生えた頭足類のような頭と爛れた人型の上半身と輝く鱗を持った蛇のような下半身を盛った光り輝く無数の球体を泡のように纏う巨体。

 口と思われる個所が生臭い悪臭を放ち4重の円状に配置された牙を光らせながら開く。その口が初動の遅れたラニの頭に喰いつこうとしたとき青い炎が巨体を包んだ。


 ギギギギギギギギギィィィィィィ。


 虫のような断末魔を上げながら燃えて身を縮める巨体は動かなくなった。その様子に隊員達は互いに目を合わせ首を横に振る。

 ここにいるのは魔導隊。魔術を展開した主を視線で探すが誰一人として首を縦に振らない。


「………油断大敵。」


 ぼそりと聞こえた声。

 本神殿に背中を預けるように座り込む人影が目に入る。血と煤で汚れた顔はラニと部隊長のよく知る人物だった。


「エリー中尉っ。」

「……もう、中尉じゃないから。」


 上半身だけ起こした姿勢のエリーは呆れたように笑った。エリーは停止コードプログラムの電気信号を魔力に乗せて送り歌う赤い花を停止する。泡のサークルは静かに弾けて消えた。


「胡蝶屋っ」


 疲弊して倒れこむエリーにラニが駆け寄る。かなり消耗しているようだ。


「胡蝶屋、何があった?スイはどうした?アキシオンの娘は?」

「神官様、落ち着いて。エリー中尉、お怪我は?」


 元部下であった部隊長はラニをいったん離してエリーに水を渡し、体の状態を確認する。見た限り、流血などの症状は見受けられず大きなけがはないようだ。


「貴方達、無事?」


 そこへドリグナで駆け付けたテリアが飛来した。ジェンを含む何人かの直属部下も後続して到着する。


「将軍っ。」


 敬礼をする部隊長の横に座り込む男を見たテリアは眼球が零れ落ちそうなほど目を見開いた。


「げっ……おえええぇぇぇぇぇえぇ。」

「……人の顔見て吐くなんて失礼だね。」


 簡易的に診察を受けているエリーを見たテリアは胃の内容物をその場に吐き出した。


「帰るっ。そして退役するっ。」

「将軍、お気を確かに。」


 ジェンは回れ右をして取り乱すテリアに魔力を込めて強化した腕で平手打ちすした。炸裂音が響く。


「……胡蝶屋、……胡蝶屋?将軍と知り合いか?」


 何をやらかしたんだという疑いの目でラニはエリーを身ながら問うた。乱心する上官の姿に部隊長は固まっている。


「…光速出世した軍人時代同期だよ。俺が退役するときは陸軍少将だったけど出世したんだっけ?」

「帝国陸軍中将及び帝国陸軍第2軍団魔導機動師団団長です。本日は帝国陸軍第2軍団長代理です。」


 掠れた声でラニに説明ちたついでに質問を投げるエリー。精神的なショックで再び胃の内容物を吐き出しているテリアの背中をさすりながらジェンが答えた。


「……元をただせば私のポジションはあんただったはずよ。しでかした全功績押し付けやがって。」


 テリアは口を拭いながらエリーを睨みつける。ミスを押し付けて失脚させるという話はよく聞くが功績を押し付けられても恨まれるようだ。


「だって佐官とか将官とかまで昇進したら面倒くさいでしょ。」

「こっちは能力以上の任務で常時死にかけてんのよ。クソ大将どもは面倒ごと全部押し付けてくるし、今回だって第二軍団長の野郎バックレやがって何が代理よっ。」


 テリアは這うようにエリーに近づくと睨みつけながら自身の今の状況を力説する。


「それだけ元気に生きているんだから身の丈に合った任務だよ。」

「うるせぇ、この悪魔。私の指金で本軍で出世しそうになったからって変死事件で志願者の少ないウォールの派遣軍に移りやがってこの悪魔。任期終わったら絶対に引きずり上げてやろうとしたのにそのまま退役しやがってこの悪魔。」


 エリーの襟首を締めあげるテリアの手はジェンにより外される。元軍人とはいえ民間人に将官が手を上げるのはよくない。


「語尾が全部この悪魔で頭悪そうな発言になってますよ。将軍。」

「あんたはどっちの味方よっ。」


 にこやかに告げられるジェンの辛辣な助言にテリアは更に声を荒げた。そこでジェンは少し考える素振りを見せエリーと顔を合わせるとにっこりと笑った。


「ルックスで言えばエリー元中尉がタイプです。尻の青い子供に興味ありませんから。」

「色恋じゃなくて職務で考えなさいクソババァっ。」


 両頬に手を当てて恥じらうように体をくねらせるジェンにテリアは激昂する。


「……その暴言は女性に向かって失礼だよ。」

「存在自体が失礼なあんたに言われたくないわよ。容赦しないからね。終身刑だろうと極刑だろうと私の全権力乱用してでも将官預かりに持ち込んで連れ帰って馬車馬の如く働かせるからね。」

「それは困るぜ将軍さん。胡蝶屋は今、俺たち神官の馬車馬だぜ。やすやすと渡すもんか。」

「……俺って馬車馬なの。」


 神官と帝国軍中将のそれぞれの言い草にエリーは少しだけ落ち込んだ。


「言っておくけどウォールに到着してすぐ査問委員会がひらかれてたわ。被告のあんたが見つかったから軍事法廷が開かれる。判決の審議に私も口出しさせてもらうから。」

「軍事法廷だと?」


 ラニはテリアを睨みつける。

 軍紀の維持を達成するための機関として帝国軍内には警察機関である憲兵や検察機関である法務士官、軍事刑務所及び矯正機関といった一連の刑事機構・司法機関が儲けられている。

 軍法会議の前に査問委員会が開かれて証拠集めや調書の作成などが行われ、軍法会議で審議するほどの重大な事件では無いと判断された場合は不起訴処分となり、軍法会議にかけると決定が下されたときに正式に軍事法廷が開かれる。

 軍法会議は原則として現役軍人と軍属及びそれに準じる者を対象とするが、特定の犯罪に関しては一般人も管轄するのだ。

 特定の犯罪とは軍規に著しく違反し退役軍人や軍に多大な損害を与えた民間人などが当てはまり、重罪である場合が多く基本的には弁護・公開・上告は認められない。

 今回、査問委員会の調査においてエリーは両方に当てはまる。


「私に温情かけてもらえるとか思わないでね。身柄は今から軍が拘束するから覚悟なさいこの悪魔。」

「胡蝶屋、将軍に何したんだ?おじさん怒らないから正直に言いなさい。」


 2人の暑苦しい気迫に疲れたエリーは黙秘を貫いて身柄を拘束されるのだった。

◆ドリグナ…魔動式空中走行型二輪車。


エリーさん発見。

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