19 〈キラキラ花〉の採取
私とココアのペアが最初に見張りを、次にルルイエが見張りを、最後にケントが見張りをするという順番になった。私は支援なので、ココアと組むかたちに落ち着いた。一人で対処するのは難しいからね……。
早々に見張りを終わらせた私とココアは、見張りを終わらせ途中で合流したルルイエと三人でぐっすり眠り……あとは朝日を待つだけということになったのだけれど……「大変だ、シャロン!!」という慌てたケントの声で目が覚めた。
「ふえっ!? 何!? 敵!?」
ケントでは対応不能の事態が起きたのかもしれない!
慌てて体を起こすと、隣で寝ていたココアとルルイエも起きたところだった。着替えないままテントの外に出ると、そこには曇り空が広がっていた。
「ふぁっ?」
どうやら生命の危機的な緊急事態ではなかったようなので、私たち三人はテントに引っ込んで着替えなど身支度を済ませた。
改めて外に出てみると、どんよりした曇り空は健在だった。
「もしかしてこれ、朝日で花が咲かないパターンなのかな?」
「そもそもこの曇り空じゃ、朝日も見えないもんね」
私の懸念事項に、ココアがズバリと正論を口にする。そんなことないといいなと思ったけれど、やっぱりそうなってしまうよね。
……花は朝日の光を浴びて咲くわけでしょ? これは天気が良くなるまで待つしかないってことかな。
とはいえ、ダメ元で私たちはしばらく花の前に座って過ごすことにして――チッチッチッチ……しかし、朝日が昇るであろう時間になっても暑い雲がかかったままで、蕾が花開く様子はない。
「そもそも山の天気って変わりやすいもんな」
「確かに……」
ケントの言葉に、盲点だったなと思う。現実世界の登山であれば準備を万全にして臨んでいただろうけれど、現実となってもここはゲーム世界――上手くいくだろうといった、油断のような考えが私にあったのだろう。
……なんてこった、大誤算だ。
これはしばらく野宿をして、晴れの日を待つしかなさそうだと私たちはうなだれるのだった。
そして翌日。
ケントの「もうすぐ日が昇るぞ!」という声で私たちは目を覚ました。
待ってましたとばかりに、私は顔だけテントから出して空を見上げる。雲なし、ヨシ!
「ココア、ルル! 起きて起きて! 今日は晴れてるよ!!」
「えっ、本当!? 早く着替えて支度しないと!」
「ん!」
着替えて外に出ると、ケントが蕾の前で待機していた。
「おう、おはよ!」
「おはよう、ケント。最後の見張りありがとう。大丈夫だった?」
「ああ! 多少のモンスターは出たけど、俺一人でまったく問題なかったぞ」
頼もしいばかりである。
私たちもハサミを取り出し、いくつか見かけた〈キラキラ花〉の蕾の前でそれぞれ待機する。誰か一人でも採取できれば大成功だろう。ちなみに〈キラキラ花〉はいくつか蕾があって、私たちは好きな蕾一つを選んで各自スタンバイをしている。
「よ~し、絶対成功させちゃうもんね!」
私がウキウキで待っていると、うっすら辺りが明るくなってきた。
山の頂から遠くの空に目をやると、ゆっくりゆっくり大きな光が空へ昇り始めるところだった。
「うわ、すごい……」
圧倒的な太陽の存在感に、私は思わず言葉をなくす。その尊さに動けなくなってしまったのではと思うほどだ。生命の息吹を感じるような、そんな神々しい光景に、私はただただ目を奪われた。
……ずっと見ていたい。
しかし、そんな私の意識を引き戻したのは、ケントの「シャロン、何やってるんだ!!」という叫び声だった。
「……へ?」
思わず間抜けな声を出してしまったが、慌てて手元を見ると花が咲ききり、はらはらと散っていくところだった。
……oh、なんてこった。
「どどどどどうしよう! みんなは採取できた!? 誰か一人が採取してれば大丈夫だもん――って、みんな蕾のままだね…………?」
ケント、ココア、ルルイエの目の前にある〈キラキラ花〉は蕾のままだった。
どうやら朝日を浴びても花開く蕾と、花開かない蕾があるようだ。なるほどね、蕾だからといってすぐに咲くわけじゃないもんね。
偶然当たりを引いたのが、私の選んだ蕾だけだった。しかし私が日の出に感動してしまったばっかりに、採取の瞬間を逃してしまったらしい。
「うわあああぁぁ、ごめん、ごめんなさい。本当にごめん……」
私が土下座する勢いで謝ると、ケントとココアは声を殺して笑った。
「たく、仕方ねえな。明日にかけるしかないんじゃないか?」
「まだ蕾はいっぱいあるし。大丈夫。明日またチャレンジしよう!
「ん、問題ない」
三人とも、海よりも広い心で私のことを許してくれた。ありがとう。ありがとう……。
そして翌日。
天気は雨だった。もちろん朝日は昇らない。
さらに翌日。
私はテントにてるてる坊主を作ってかけておいた。きっとこれで晴れるはずだ。いや、晴れてくれ。頼む。
ケントの「晴れたぞ!」という声に飛び起きて、私たちはいつものように蕾の前にスタンバイする。
私たちはもう学習したので、小さな蕾ではなく、いつ咲いてもおかしくないくらい大きな蕾の前でスタンバった。これなら朝日の光を浴びて花開く可能性も高いだろう。
「シャロン、もう朝日は見るなよ。花だけを見てるんだぞ」
「わかってるよ、景色は見ない!」
景色を見たらその美しさに感動してしまい、私はまた採取を忘れてしまうだろう。
そもそも私の旅はこの世界の景色を余すところなく見るのが目的なので、ある意味目的は達成しているのだけれど、依頼は達成しなかったという試合には勝ったが勝負は負けたみたいな感じだ。
……でもまあ、美しい日の出が見れたから良しとするしかない。
ということで気を取り直して、私は蕾をじいっと瞬きひとつせず見ることに専念する。大丈夫、私ならやれる。ケントもやれる。ココアもやれる。ルルイエもやれるはずだ。
絶対に朝日は見ないぞと誓った私は、日の出を物理的に見れないように日の出に背を向けて〈キラキラ花〉の前に座った。
そして太陽が昇り、日の出の光が〈キラキラ花〉に届くはずだったのだが――私の影に遮られて光が届かないという珍事態が起きてしまった。
「えっ、嘘でしょ!?」
――なんてこった!!
私がスタンバイしていた蕾は花開くことなかった。
「みんな、どう!?」
ケントが選んだ蕾は咲いていない。どうやらまだ時期ではなかったようだ。ルルイエが選んだ蕾は咲いていない。
駄目だったと私が項垂れようとしたところ、ココアが「咲いた!」と声をあげた。全員の視線が一気にココアの元へ向かう。
朝日の光を浴びた〈キラキラ花〉は、その名の通りキラキラ輝きながらゆっくり灰色の蕾を花開かせていく。
花開く過程で、花びらの色が灰色から鮮やかな黄色へと色を変えていく。いったいどういう仕組みなのかはわからないけれど、キラキラ光るその様子はとても幻想的で……ずっと見ていたいと、そう願わざるを得ないような光景で……。
「こんな美しい光景、そう見れるものじゃないよ……」
私がうっとりしていると――パチンッ! ココアが容赦なく茎を切って〈キラキラ花〉を採取した。
「ひょっ!」
思わずびっくりして変な声が出てしまった。私は恥ずかしくなって、そっと口元を抑える。
「すごく綺麗だったね」
ココアの花が咲いて、本当に良かったと――私は心の底から思うのだった。
***
「はい、依頼の達成を受け付けました。これは依頼主に納品しておきますね」
「よろしくお願いします」
私たちは〈キラキラ花〉をギルドに納品し、無事依頼を達成することができた。あとはこれがタルトの手元に渡り、島へ入るためのポーションになるのを待つばかりだ。
「でも、当初の予定よりだいぶ時間がかかっちゃったね。じいやさん、大丈夫かな?」
「まあ、療養が必要って言ってたくらいだからね。宿でのんびりしてくれてるんじゃないかな?」
ココアは宿に残してきたじいやが心配だったようだ。確かに喋る亀を人間の街へ一人にするのは、別の意味でも心配だなと私も思う。
私たちがそんな話をしながら宿に戻ると、じいやは男子部屋のベッドに寝転がっていた。サイドテーブルに大量の果物を乗せ、フルーツの炭酸水には花をさし、まるでリゾート気分を味わいながら療養していた。
「おお、なんだかすごい贅沢そうだな」
思わずといった感じで呟いたらしいケントの言葉に、私は同意して笑う。
『おお! かえってきおったか! おぬしら、依頼は無事に終わったのか?』
「はい。じいやさんも休めたようで良かったです。回復はできましたか?」
『そうじゃな。まだしばらくかかりそうじゃな。まあ、わしも歳だから仕方がないわい』
なるほど歳か、それは仕方がないと私も苦笑する。
私たちも〈鞄〉から料理を出して、みんなで腹ごしらえだ。そしてタルトからの連絡が来るまでの数日間は、のんびり過ごすことにした。




