18 タルトからの手紙
冒険者ギルドへ行くと、中にいた冒険者たちが私たちを見るなりざわついた。一体なんだなんだと思ったら、「おい、噂のSランク冒険者じゃないか?」「海岸での戦闘がすごかったんだぜ! ドラゴンに乗って、モンスターを一掃してたんだ!」……と、私たちのことを話している。
海岸のモンスター大量発生の際に私たちを見ていた冒険者と、Sランクになったという噂を聞いた話で持ちきりだったようだ。
「うわ、俺たちめっちゃ注目されてないか?」
ケントがソワソワしながら冒険者ギルドの中を見回している。今まではケントがほかの冒険者に注目し、教えを請う立場だったので、逆転してしまっているのが恥ずかしいのかもしれない。
私たちが受付カウンターに行くよりも先に、ギルドマスターのオーランが顔を出した。どうやら騒がしかったので、私たちが来たことに気づいたようだ。
「お前たち、来たのか!?」
驚いているオーランの顔には、モンスターに狙われている卵を持って街へ入ってきて大丈夫なのか!? と書いてあるのが見てわかる。
私は笑って頷き、「少し時間はありますか?」と尋ねた。
「む……。応接室を用意しよう」
私たちは早速応接室に行くと、オーランに今回のモンスターの大量発生と顛末を話した。じいやが犯人だったので、今後モンスターが大量発生することはないだろうということを伝えておく。
「なんだって、海のモンスターの大量発生にそんなカラクリがあったのか! 信じられないような話だが、Sランクになったお前たちが言うなら本当なんだろうな……。情報、感謝する」
「いえ」
ひとまず、モンスターのことを冒険者ギルドと共有できたので良しとしよう。私がホッと胸を撫でおろしていると、オーランがほかの職員を呼んだ。
「お前たちに指名依頼と、冒険者タルトから手紙を預かっている」
「! ありがとうございます」
まさか、こんなにも早くタルトから連絡が来るとは思ってもみなかった。島へ入る手段が何かわかったのかもしれない。
さっそくタルトからの手紙を読んでみると、サンゴが私たちのパーティーに指名依頼を出しているので受けてほしいということが書かれていた。
……なるほど、指名依頼はタルトに繋がってたのか。
依頼内容は、〈きらめき花〉の採取。
知らない材料だ。手紙によると、私たちが島へ入るために必要なポーションを作る材料になるのだと書かれていた。
……あの島には、私が知らない錬金術のポーションのレシピがあったようだね。
タルトが着実に〈錬金術師〉としての腕を上げ、クエストを進めているということがわかる。私たちは全員で顔を見合わせて頷き、依頼を承諾した。
***
見渡す先は岩肌の山。ゴツゴツした足元に命綱のない登山。辺りはうっすら霧がかっていて視界も悪い。さらに時折モンスターが現れ、不安定な足場での戦いを強いられる。
地元の人でも近づかないとオーランが言っていた。
「これはなかなか大変な依頼だね……」
私は手足を使いながら、慎重に岩山を登っていく。
タルトからの依頼があったのは、むき出しの岩山の山頂に咲くという〈きらめき花〉の採取。
しかもこの花、朝日が昇った瞬間の光を受けた時にしか咲かないらしい。必要なのは花が咲いている状態ということなので……山頂に行ったらまず花を見つけ、野宿をし、朝日とともに花を採取するというのが依頼内容になる。
この岩山には私、ココア、ルルイエ、ケントの順番で登っている。ケントが最後尾なのは、誰かが落ちた際にカバーしてもらえるのではと考えたからだ。体力もケントが一番あるだろうからね。
「大丈夫か? 休憩するか?」
ケントの声に私は首を振る。
「このまま休憩するより、もう少し登って広いところに出るのを待った方がいいと思う。不安定だし、休憩してる間に滑落とかあっても嫌だからね」
「わかった!」
すぐに了解してくれたケントは、代わりに「頑張れ~!」と声援を送ってくれる。
「ドラゴンで飛んでいけたらよかったんだけど、難しそうだもんね……」
「ぴゅーっと飛んでいきたかったねぇ」
私とココアがそんな雑談をしつつも、ひいこら登っている横で、ルルイエが軽やかに登っていく。まるで野生動物なみだ。
今は〈料理人〉だけれど、元々のポテンシャルと戦闘センスがあるからか、こういった岩場でもものともせず身軽に動くことのできるのがルルイエの強みだろう。羨ましい。
「あ、シャロン! 上に何かいる!!」
「ん? ……〈ゴロゴロン〉だ!! 避けて避けて!! 回避~~!」
ココアが気配に気づき、私が回避の指示を出す。岩のモンスターだけど、急斜面をごろごろ転がってくるのを相手にするのは大変だ。私とココアが避けると、ルルイエが避けつつ〈ダークアロー〉で倒してくれる。さすがの運動神経だ!
私とココアでルルイエに拍手を送っていると、最後尾のケントが「なあ」と声をかけてくる。
「やっぱり、俺が先頭の方がよくないか? モンスターだって、俺にも倒せるぞ?」
「でも殿も大事なんだよ~~! 上で戦闘があって岩が落ちてきたりしても、ケントならへっちゃらでしょ?」
「それは……確かに」
もし私やココアがスキル使用中に岩が落ちてきて避けられなかったらと思うと、ちょっとぞっとする。モンスターの攻撃パターンは読めるけれど、自然物の落石まで読むことは難しい。
「わかった! もしシャロンたちが落ちてきても受け止めるから! 頑張って登ってくれ!」
「はーい!」
それから私たちは休憩を取りつつ慎重に進み、だいたい五時間ほどで山頂にやってきた。
五時間とは言うけれど、私たちは高レベルの冒険者パーティだ。一般人が登る五時間と一緒にしてはいけない。つまり、一般人だったら倍以上の時間がかかっていたということを忘れてはならないわけです。
「道中は岩しかなかったのに、山頂になった途端ちょっと植物が生えてるんだな」
ケントが面白そうに周囲を見回して、どれが〈きらめき花〉かなと目を凝らしている。ちなみに私とココアは息も絶え絶えでぐったり休憩中だ。
タルトにスケッチをもらってきたので、おそらく当たりの目処はつけられるだろう。私は持っていた図をケントに渡して、探すのを頼んだ。
〈きらめき花〉は割と特徴的だ。葉がまるみを帯びていて、上に向かって生えている。花の色は蕾のときは灰色で、咲くと鮮やかな黄色になるのだという。背はどちらかといえば高く、五〇センチほどあると書かれていた。
「……あ、もしかしてあれじゃない?」
岩に座って休んでいたココアが指差したのは、灰色の蕾に、丸みをおびた葉っぱが空に向かって生えている花だった。
「本当だ! タルトが教えてくれた特徴と一致するね」
今はまだ蕾の状態だけれど、きっとこれがきらめき花だろう。
「よっしゃ。じゃあ、あとは朝日が昇る時にこれを採取すればいいんだな! 楽勝な依頼だね」
……本当にそう。
採取依頼ですぐに見つかるというのは、かなり簡単な依頼だ。たとえ、その場所がモンスター溢れるダンジョンの中や、ものすごい山の山頂だったとしてもだ。なんせ、もしこれがドロップ品だったら――レアなものであれば、一〇〇〇匹倒しても手に入らない可能性があった。
……ドロップ求めて一週間もモンスターを倒し続ける……なんて、大変だからね。
今の時間はもう夕方を過ぎて、夜。標高が高い山頂ということもあって、かなり肌寒くなってきた。
早くテントを設置して、温かいものを食べて、朝日に備えて寝るのがいいだろう。ただ、モンスターも出現するので、交代で見張りをすることも必要になってくる。
「じゃあ、テントを張って野宿の準備をしようか」
「その間にわたしが夕食を作る」
「出来立ての料理は嬉しいね。ありがとう、ルル。じゃあ、ルルがご飯を作ってる間に、私たちはテントを張ろうか」
「「おおー!」」
「ん!」
各自役割分担をして、私たちは野宿の準備を開始した。




