17 じいやと一緒
『なんじゃと!? 姫様はすでに島へ帰られておるのか!! ならば、儂もすぐに島へ戻らねばならぬの。きっと姫様は儂がいなくて寂しくて寂しくて泣いてるに違いないのでの』
やはりあの島はウンディーネの故郷だったようだ。じいやがすぐに戻ると言うなら、私たちもそれに便乗しない手はない。
「じいやさん、私たちも一緒に行っていいですか?」
『ふうむ。そうじゃな、おぬしらは姫様を保護してくださっていたんじゃ。よかろうて』
快諾を頂いたので、私たちは一緒に島へ行けることになった。
「よっしゃ! まさか、こんなトントン拍子に解決するとは思わなかったな」
ケントが嬉しそうに笑い、ココアも頷く。
「いったいどんな島なんだろうね。楽しみだな、世界樹を見れるなんて、夢にも思わなかったもん」
……わかる、わかるよ! 私も世界樹を見たくて見たくて、どうしようもなく気持ちが高ぶっている。
さてさて、いったいどんな素敵な世界樹が待っているのか。私のwktkはとどまるところを知らない。
『それじゃあ行くかの。おぬしら、儂の背に乗るんじゃ』
「え……背に乗れって言っても、じいやさんに全員乗るのは無理じゃないですか?」
ケントの疑問に、私も頷く。じいやのサイズ的にも、一人またがって乗るぐらいでいっぱいいっぱいじゃないだろうか。
『多少の力は使い果たしたが、まあ、もうちょっと大きくなるぐらいはできようて』
そういうと、じいやの体がぐぐぐっと大きくなった。
その体長は五メートルぐらいだろうか。私、ケント、ココア、ルルイエの四人が乗るわけなので……詰めれば、どうにかいけるかな? というところだ。ただ、お年を召しているであろうじいやの背に乗るというのが申し訳なくも思うけれど。
……でも、これも島へ行くため!!
私たちは海に浮かぶじいやの背中に乗って、島を目指すことになった。
ぎゅうぎゅうだけど、そこは我慢するしかない。ケント、ココア、ルルイエ、私の順でじいやの甲羅の上に乗り、いざ行かん――世界樹の島へ!
海の上をじいやの背に乗って進んでいくと、島の周りにある渦潮が見えてきた。
この渦潮を抜けて、さらに空中から行こうとした私たちを阻んだ霧の結界のようなものを抜けなければ島に辿り着くことはできない。
……じいやがいてくれて本当に良かったね。
じいやが亀だけに、もしかしたらあの島は竜宮城なのかもしれないなんて考えてしまった。そうなるとウンディーネは乙姫ポジションだろうか。魚たちが踊って歓迎してくれるかもしれない。違う意味でワクワクが増していく。
じいやはすいすい~っと渦潮の上を難なく通っていき、ケントが「すげえ!」と感動しっぱなしだ。
「じいやさん、どうやってこんな渦潮の上を進んでいってるんですか?」
ココアの疑問に、私も全力で頷く。もしかしたら、渦潮の上を通るスキルや魔道具といった何かがあるのかもしれない。しかし私の予想は、笑いとともに一蹴された。
『儂くらいの泳ぎのプロになれば、こんな渦潮は朝飯前じゃて』
……泳ぎでなんとかしてるんか!!
思わずツッコミたくなってしまったけれど、じいやは亀。亀にはそういう泳ぎの技術があるのかもしれない。しかもじいやはウンディーネの……おそらく側近なのだろう。その能力値は私が予想しているより遥かに高くても不思議ではない。
じいやの背中に乗ってどんぶらこ、私たちは霧がかった渦潮を越えることに成功した。
「やった、渦潮を抜けた!」
「あとは島に上陸するだけだな!」
私が喜んで声をあげると、ケントも喜びながら「早く行こうぜ!」とはしゃぐ。しかし、島に入る前にバシッと弾かれた。
『なんじゃ!?』
「「「えっ!?」」」
じいやが驚き、私たちもそれにつられる。
どうやら、渦潮を越えた先にある濃い霧が島を守る結界の役割をしているようだ。渦潮は突破できたのに、島に張ってある結界を突破できないなんて思いもしなかった。
「もしかして、入れないんですか?」
私が恐る恐る問いかけると、じいやは『そんなわけないじゃろう!』と言って、もう一度突進していくが……入れなかった。
『むむう……』
……おわー、難しそうだ。
『どうやら、儂の力がだいぶ落ちてしまったようじゃの。お主たちが攻撃を仕掛けてきたせいじゃぞ』
なぜか私たちのせいにされてしまったでござる。モンスターを大量に引き連れて攻撃してきたのはじいやだというのに。解せぬ。
「え!?」
「嘘、ごめんなさい!」
ケントとココアは素直ないい子なので、すぐに謝罪している。しかし私は、それならばとじいやに回復をかける。〈癒しの光〉〈虹色の癒し〉〈絶対回復〉〈星の光〉〈治癒〉〈聖女の加護〉とフルコース。回復であれば私の仕事だ。
「これでどうですか?」
『そんなもんじゃ回復せんわ』
「えっ」
……私、〈聖女〉なのに。
『しばらく療養しなければ、儂の力で島に入ることはできんじゃろう。ああ、姫様が待ってるというのに。儂はなんと不甲斐ないんじゃ……』
回復魔法では駄目で、しばらく休まなければいけないようだ。気力を回復する……みたいな感じなんだろうか。
しかし、じいやの回復にどれぐらい時間がかかるかわからないのはいただけない。島の中にはタルトがいるし、クエストの進捗状況も気になる。
「ほかに入る方法はないんですか?」
『む……ないわけじゃないが、人間には無理じゃ。この島の結界は、別名『力試しの結界』じゃ。修行の旅に出たケットシー一族のものが、その力を証明して中にはいるんじゃ』
なんと、ケットシーでなければ無理のようだ。じいやによると、ケットシーの戦士が強い一撃を込めることによって結界に亀裂が入り、そこから島の中へ入ることができるのだという。
「そういう結界なんですね」
せめてタルトがいればと思ったけれど、タルトの攻撃手段は〈ポーション投げ〉なので、結界を破る条件に当てはまるかはわからない。
「うーん、これは一旦街へ戻った方が良さそうだな。じいやさんの休憩も必要だろうし」
『そうじゃな。すまぬが、しばし世話になるぞ』
「おう!」
私たちは仕方がないと肩をすくめながら、アラレに滞在することにした。
***
私たちはアラレの街で宿を取った。
いつも通り女子部屋と男子部屋に分かれているので、私、ココア、ルルイエが同じ部屋。ケントとじいやが同室だ。
……申し訳ないけれど、じいやの世話はケントに任せよう。同じ男同士、きっとやりやすいだろう。多分。
ひとまず男子部屋に集まり、今後のことを軽く話す。
「私たちは冒険者ギルドに行って、ギルドマスターに大量発生のことを報告してこようか。きっと、今も念のためモンスターの大量発生を警戒しているだろうから」
「それがいいね」
私たちがその話をしていると、じいやが『儂はここで休んどってええか?』と尋ねてきた。もちろん問題ないので頷いておく。
「じいやさんは何が食べれますか? 今あるものだったら用意できるんですけど……」
そろそろお腹も空くかもしれない。亀の食べ物ってなんだろう。魚介類なのかな。
『おお、ありがたい。なんでも食えるぞい、好き嫌いはないからのう』
「生魚とかですか?」
私が聞くと、じいやは『馬鹿にするでない!』と怒った。
『きちんと料理せんか! なんだおぬし、料理のひとつもできんのか? 全く、これだから最近の若いもんは……』
どうやら普通のご飯を食べられるようだ。私は苦笑しつつ、〈鞄〉の中にストックしてあるお弁当を出した。
『いい匂いじゃ! ありがたくいただくとしよう』
本当に人間と同じ食べ物でよかったようだ。私はほっと胸を撫で下ろして、足りないといけないのでもういくつかお弁当を置いて冒険者ギルドへ行くことにした。




