1話
午前中にある程度の仕事を終え、昼休憩を取った颯介は、こっそりともう1度むつに電話をかけた。だが、やはり出なかった。電話に気付かずに、寝ているのかもしれないと思ったが、何度電話しても折り返しもないとなると、やはり心配だけが募っていく。
夕方も近くなり、颯介は腕を上に上げて伸びをして、腰をひねった。座り仕事ばかりのせいか、身体がぼきぼきと鳴る。そろそろ片付けようかと思っていると、とんとんっとドアがノックされた。颯介と山上は顔を見合わせた。山上の顔は、帰る直前にかよと、明らかに嫌そうな表情が浮かんでいた。
「はい?」
颯介は仕方ないと思いつつ立ち上がり、ドアを開けた。すると、そこにはどこかで見たような顔があった。髭面でがっちりとした体型の男は、じろっと颯介を見ると無言で入ってきた。そして、室内を見渡した。
「むつはどうした、むつは」
「玉奥とお約束でも?」
「あぁ、一昨日連絡して。今日の夕方。仕事の終わる頃、17時に来てくれって言われてたんだが…何も聞いないんか?」
「えぇ…玉奥は生憎、体調不良で昨日から休みを取っておりまして。わたくどもも玉奥からは何も聞いておりませんが…」
髭面の男はふぅんと言いながら、首を傾げていた。だが、ふんっと鼻を鳴らすと出ていこうとした。
「あ、待った」
素知らぬ顔をしていた山上が立ち上がり、髭面の男を引き止めた。髭面の男は、じろっと山上を睨んだ。なかなかの威圧感だが、そんな事に負ける山上ではない。




