2話
「よく、見ていろ」
男に言われて、冬四郎はまだ微かに息をしているむつを見た。だんだんと呼吸が浅くなり、ついにしなくなった。ことんっと首を反らすようにして、完全に身体から力が抜けきった。そして、むつの身体は唐突に消えた。
冬四郎の手に残ったのは、身に付けていた服と、血のあととくったりとしている狐だった。
「どういう事だ…」
むつだったのが狐になり、冬四郎はこれがどういう事なのか聞きたかったが、目の前に居たはずの男は、居なくなっていた。冬四郎は狐を下ろして、きょろきょろと辺りを見回したが、人影はない。
「みや‼むつは…」
「山上さん、むつじゃないですよ」
駆け寄ってきた山上は、荒く息をつきながらコンクリートの上の血溜まりを見た。
「狐、でしたか…」
京井は血溜まりの中に倒れている動物を見て、はぁと溜め息を吐いた。そして、冬四郎同様に辺りを見回した。
「まだ、臭いが残ってます…」
そう言うと、ふらっと走り出した。京井が臭いを追うのだと分かると、冬四郎も後を追って走り出した。
「お、おい‼ま、みや…まで…」
「わしが行く。兄ちゃんには戻らせる」
「か…片車輪まで」
残された山上は、狐の死体と窓の割れた事務所を見上げて、溜め息をついた。




