2話
落ちそうになりむつは、もがくように手を伸ばしたが、何も掴む事は出来ずに落ちていった。そして、どさっと音がした。
それをじっと見ていた冬四郎だったが、はっとなると窓に駆け寄った。
「む、むつっ‼」
むつではないと京井に言われても、見た目はむつそのものでしかない。冬四郎は窓枠に手をかけて、身を乗り出して下を見ている。そして、くっと歯を唇を噛むと、走って事務所から出ていった。ばたばたと階段を駆け下りる音が、響いてきた。
覆面の者は再び口元を覆うと、ナイフの血を拭って鞘におさめた。そして、ドアから出ていこうとしたが、男が前に立ちふさがった。男は、覆面の者を逃がす気はないようだが、覆面の者はもう用はないとばかりに、肩をすくめて見せた。そして、窓に向かって走っていくと新たに窓を割って出ていった。
男が窓に近寄り外を見ていたが、もう覆面の者の姿はないのか、軽く首を振った。だが、もう1度外を見ていた。下には冬四郎が居た。窓から突き落とされたむつを抱き起こしていた。男は窓枠に足をあけると、するっと外に出た。くるくると回転しながら落ちていき、だんっとコンクリートの上に着地をした。
「お前、何者なんだ?」
冬四郎は5階から飛び降りても、平然としている男を睨みながら聞いた。
「それは、むつじゃない」
くぐもった声は、冬四郎の問には答えなかった。




