86/542
2話
それに気付いた京井が、素早く細身のナイフを叩き落として、覆面の者の襟を掴むようにして後ろに投げた。どんっと背中から壁に当たって、倒れる時にほどけかけていた布がぱらっと取れて顔が覗いた。
「あっ‼」
投げた京井が1番驚いていた。
「むつ…?」
冬四郎が駆け寄った。抱き起こして、布を全て取ると見慣れた顔がそこにあった。
「おい、むつ‼」
「本当にむつなのか?」
冬四郎の隣にしゃがみこんだ山上が、目を閉じてぐったりとしている顔を覗き込んでいる。顔のあちこちに、腫れや切り傷が出来ているが、その顔を見間違える事はなかった。
「むつ、だな…どういう事だ?」
「分かりませんが…とりあえず…」
抱き抱えて下がろうとすると、苦しげに眉間にシワを寄せて、ゆっくりと目を開けた。焦点があってないのか、ぼんやりとした目だったが、徐々に見えてきたのか冬四郎と山上の顔を見た。だが、驚く素振りも何もない。
ばしんっと手のひらで冬四郎の顔を叩いて、冬四郎が手を放すとするっと抜け出した。
「むつ?」
手を伸ばして、むつを捕まえようとするとそれを京井が制した。行方不明になっていたと思っていた妹が、目の前に居るのにそれを邪魔され、冬四郎は京井を睨んだ。




