2話
席を譲った山上は、すっかり冷めてしまったコーヒーをすすった。隣には晃が立っており、心配そうに冬四郎を見ていた。
「室内に居たからむつもすぐに反応出来ずにって所なんだろうな」
「でしょうね。それにしても…むつがあっさりと連れてかれるとは。マンションですから、大声出したり暴れたら物音で不振に思う人が居るはずです」
「あぁ…資料見たけど。近隣の住人は何も聞いてないって言ってたな。夜中でもないのに」
「それだけ、素早かったのか…何か色々とおかしいですよね?京井さんの推測通りなら、むつは黙ってされるがままだった」
「少なくともそうなるな。声も上げず暴れもせず…相手が人間だとしてもやばけりゃ暴れるだろ。報知器鳴るくらいの事はしそうだけどな」
山上が苦笑いを浮かべたような顔で言うと、晃も認めざるを得ないのか苦々しく頷いた。2人共、むつの力も性格もよく知っているだけに、あっさりと連れ去られた事が意外で仕方ないのだろう。そして、そこがどうしても引っ掛かっている様子だった。
「山上さん…私は冬四郎の言った通り、あまり自由が効くわけではありません。出来る限りの協力はしますので、むつの事をよろしくお願いします」
「あぁ。預かってる側からしたら、こんな事になって申し訳ないと思ってる…何とかする」
へらっとした適当さを常にまとっている山上が、今回ばかりは真剣な眼差しだった。細く鋭さの感じられる目には、本当の鋭さが宿っている。晃はそれを見て、昔一緒に働いていた頃を思い出したのかぞくっとしていた。
「えぇ、任せました。ばたばたで申し訳ありませんが、もう失礼させて頂きます」
きっちりと腰から折るようにして、頭を下げた晃はちらっと冬四郎を見て、何も言わずにそっと出ていった。




