1話
引き出しの上の部分を擦ってみると、やはり何かに触れた。それを剥がしてみると、ただの札だった。冬四郎覇がっかりしたように、それを机に置いた。そして、次の引き出しを開け同じように上を触ってみたが今度は何もなかった。冬四郎はむっとしながら、椅子から降りて1番下の引き出しを開けた。中にはファイルが並んでいた。パラパラとめくってみたが、どれも空だった。何のために入れてあるのか不思議に思いつつ、戻そうとしてふと違和感を覚えた。
1番下の引き出しは底が深いようで、そんなに深くはない気がした。冬四郎は使われていない隣の机の引き出しを開けてみた。見比べると、むつの机引き出しよりも底が深い。
2重にしてあるのかと冬四郎は思い、ファイルを全て出すと四隅をなぞるようにして指を滑らせた。すると、わずかな隙間を見つけた。そこに指を引っ掛けると、思った通り2重底だった。冬四郎はそれを不信に思ったものの、山上には言わなかった。中には、手帳が1冊入っていた。
山上が片車輪と共にファイルをめくっているのをちらっと確認すると、冬四郎はしゃがんだまま手帳を開いた。分厚いが中は白紙ばっかりだった。パラパラとめくっていくと、アルファベットの並んだ文字と数字が書かれているページがあった。冬四郎はそれを見ながら、手早くパソコンの画面に打ち込んだ。たんっとエンターキーを叩くと、先程とは違うトップ画面が表れた。冬四郎はその手帳をジャケットの内ポケットにそっとしまった。そして、引き出しの底を元に戻してファイルを上から置いた。




