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第78話 メッセージ

本編の続きです。


2018/02/12 読みにくい箇所を修正しました。

 優勝決定戦が終わった。


 場内は今も熱狂の渦の中だ。


 俺達もその熱の中にいた。


 Aランク、そしてAランク相当の猛者同士の死闘。

 俺達の中に、少なくない衝撃を与えている。


「あれが、Aランク、なんですね」


 オードリーが唾を飲み込みながら呟く。

 ゾラも強かったが、あの2組はそのさらに上だ。

 だけど、


「言い換えれば、あれでも(・・・・)Aランクなんだよな」

「!!」


「……頑張ろうな、皆」

「はい」「勿論」「強くなります」「私もいつか……」


 強さへの思いを皆で共有した。



「いやー、凄かったねぇ! 細かい動きとか分かんなかったけど、砲撃の人達の攻撃も、竜の人達の攻撃も綺麗だったー!」


 ステフが興奮気味に駆け寄ってくる。


「興奮したせいかお腹が空きましたね」


 信じられないことを言い出すアンジー。


「あなた今朝からどれだけ食べているか分かってますか……?」


 ドン引きのオードリーさんである。

 重量にしたら人1人分は確実に食べている。


「では、甘味処『甘粒』に行きましょう。今ならまだ空いているはずです」

「やったぁ!」

「新しい食べ物、楽しみです」


 女性陣は甘味と聞いて嬉しそうだ。

 確か、ドーラ焼だったか。十中八九どら焼きだろう。

 今から楽しみだ。


 場内の興奮を後にして、俺達は『甘粒』へと向かった。




「(めっちゃ和風だな……)」


『甘粒』を目にした俺の感想である。

 お茶屋さんを思い浮かべるか検索してみよう。そう、それだ。

 看板も墨で書かれていて、いかにもな雰囲気が懐かしい。


「ここはまた随分と雰囲気が違いますね……」

「自然と背筋が伸びますね。一体どんな甘味が待っているのか……」

「うーん、不思議な建物ねぇ」

「ドーラ焼!」

「では入りましょう」


 ガラララと音を立てて引き戸の扉を開ける。

 暖簾をくぐり、店内に入ると、日本に戻ったかのような錯覚を覚える。

 店員さんの服も、なんと和服だ。

 見た目だけのなんちゃって和服かもしれないが、それでも和服だとわかる。


 来ている人が蛇? トカゲ? の獣人女性だが……。

 結構ホラーだぞ。


「いらっしゃいませ! あ、セシル!」

「久しぶりビアンカ! 個室空いてる?」

「空いてるよ! こちらへどうぞ!」


 どうやら知り合いのようだ。

 ビアンカさんに案内され、畳のある部屋に通された。


「本日は当店をご利用いただきましてありがとうございます。仲居頭のビアンカと申します」


 三つ指ついて頭を下げる。

 うん、立派な正座だ。


「ビアンカは私の友達です。今日入っているとは知らなかったんですが」

「私も驚きました。セシルは可愛いのですが結構危ない目にあっているので、どうかよろしくお願いいたします」

「ちょっとビアンカ!」


 頭を下げるビアンカと、慌てるセシルさん。

 既にプロポーズしました、とは言えないだろうな。


「さて、茶番はここまでにいたしまして「ビアンカ?!」、ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。ではごゆっくり」


 にこやかに部屋を出るビアンカさん。


「全くもう!」


 顔を赤らめ、でも嬉しそうに怒るセシルさん。


「ふふふ。仲がいいんですね」

「あ、すみません、お恥ずかしいところを見せてしまいまして。ビアンカとは小さい時からの知り合いなので、ついいつもの調子になってしまって。さ、さあメニューをどうぞ!」

「はは。じゃあ決めようか」


 皆笑顔でメニューを見る。

 メニューは絵と解説が書かれており、初めてでも頼みやすくなっている。


 ドーラ焼(女海賊の絵が……)、超福(大福)、3兄弟(団子)と、ふざけた名前が載っているが、どれも見た目はそのままであった。

 皆各々品が決まり、後は俺だけとなってしまった。

 メニューをパラリとめくると、最後のページに気になる文章が。


「いつか来るであろう我が同胞、我が息子に捧ぐ……? なんでしょう?」

「これは……」

「ああ、それは初代店主が初代皇帝とご子息に宛てて書いたものだと言われていますよ」


 ちょうどお茶とおしぼりを運びに来てくれたビアンカさんが答えてくれた。


「そうなんですか?」

「ええ、まずこの店のメニューは建国以来変わっていないんですが、それは『アレンジも新メニューも許さない。この店は世界が滅びるまでこのままとせよ』という初代の言葉をずっと守っているんですよ」


「それはまた、硬派ねぇ」


「私もそう思います。ここの甘味を作るまでに初代は随分と苦労したそうですが、それに協力したのが初代皇帝だったと言われています。この国が出来てから2人は多忙を極めたそうなので、いつか友である皇帝に来て欲しいとの願いを込めて書いたのだろう、と言うのが定説となっていますね。ご子息は冒険者だったと伝えられていますから、世界中を渡り歩いていたのでしょう」


 と、ビアンカさんが答えてくれた。

 ただ、これはやはり俺や他の転生者に宛てたものだろう、と思う。


 ……よし。


「じゃあ俺も決まったから注文しよう。俺は全種類で! 食べきれなかったらアンジー、頼む」

「お任せください、ご主人様!」


 ビシっと敬礼で応えてくれるアンジー。

 先達の思い、受け止めてみたいからな。


「エーリ……じゃあ私も!」

「私もぉ。どうせだからいっぱい食べましょう?」


 皆何かを感じたのか、俺に倣って全種類とか言い出す。

 アンジーの目が輝いてるぞ。


「ご注文ありがとうございます。ですがテーブルが足りなそうなので、横のお部屋と繋げますね」


 ビアンカさんは驚くこともなく、襖を開けて部屋を大きくしてくれる。


「へぇ〜、機能的だね」


 ステフは和式の部屋に興味を持ったようだ。

 注文を取り終えるとビアンカさんは部屋を出て行った。


 それを見て、オードリーが右耳を触る。


『エーリ、あの言葉はもしかして……』


 ああ、恐らくこの店の初代店主は転生者なんだろうな。名前は少し違うが、ここのメニューは前世で俺が食べたことがあるものだ。あ、皆にはまだ言ってなかったけど、多分「ココア・ド・コ」の初代も転生者だと思う。向こうではチヨコレイトはチョコレートって名前だし。


『あらあらぁ。結構転生者っていたのかもしれないわねぇ』

『異世界の甘味……! ますます楽しみです!』

『お兄ちゃんのいた世界の食べ物かぁ。確かに興味あるね!』


 女性陣から喜びの感情が流れてくる。

 しかし、


『帰りたいとか……思ったりしますか?』


 オードリーからは喜び以外の色々な感情が流れてくる。

 愛、不安、期待、悲しみ……。

 俺の意見は尊重したい、でも行って欲しくない、そんな感じだろうか。


 オードリー、俺は望んでここに来た。

 帰りたいとは思っていない。

 皆とずっと、ここにいる。

 この世界はもう、俺の故郷だ。


『エーリ……はい!』


 オードリーの感情も元の愛情たっぷりに戻った。


 よし、じゃあリンク終了! 楽しもうか!

「「「「はい」」」」


 皆が笑顔になった頃、ビアンカさんが他の仲居さんとともに甘味を運んで来た。


「お待たせいたしました! 当店の甘味盛り合わせ、ざっと25人前でございます!」


 大皿に綺麗に盛り付けられたドーラ焼、超福、3兄弟、メェ羹(羊羹)、宝餅(葛餅)etc。

 そのどれもが、地球で食べたそれだった。


 うん、匂いも同じだ。


「じゃあ皆、いただきます!」

「「「「「いただきます!」」」」」


 皆それぞれに皿に盛り付けてもらい、食べ始めた。


「これは……! ふわふわのパンのような生地と、中に入った黒い何かが口の中で絡み合います。 ほのかな甘さの中にしっかりとした旨みがあり、甘さが控えめなおかげでいくらでも食べられそうです。……!? この緑のお茶との相性は……!! 余りにも良すぎて怖いくらいですね」


 ドーラ焼を食べたオードリーの感想である。


「むにゅ〜。この伸びるもちもちっとした物って何?! 口いっぱいに頬張ると幸せを食べてるみたい! この白いのはあんまり味がないけど、それがこの黒いのと合ってる! 食感も面白いから食べてて楽しい!」


 超福を食べたステフ。


「ピンク、白、緑。色合いがとても美しいわぁ。ぅん……はぁ。優しい味わいと、歯を押し返す確かな弾力。噛むほどに口の中でトロトロになって、なんだかイケナイことをしているみたぁい」


 3兄弟を咥えるルイーズ。……ふぅ。


「このメェ羹、恐らく超福やドーラ焼の中のものを漉して作っていると思われますが、舌、歯、喉を通る時の滑らかさが抜群ですね。恐らく四角い型に流し込んでそれを切っているのでしょうが、そのままガブリといきたいほどに、完成された逸品です」


 アンジーはメェ羹の魔力に取り憑かれたようだ。


「この宝餅。プルプルにこの黄色い粉と黒いトロっとしたソースをかけて食べるんですね。初めて食べますが……ん〜〜〜〜〜〜! 最初粉っぽさとソースが主張してくると思ったら、このプルプルが程よく解けて繋がっていくんですね?! あ、ソースがかかっていた粉の部分に染み込んだ所……美味しい! 最初の時とまた違った食感になりますね! 舐めとりたくなっちゃいます……」


 蜜と混じったきな粉部分をチラチラ見ながら、セシルさんが舐めようかどうか迷っている。


 皆和菓子の虜になったようだ。


「じゃあ、俺も」


 手にドーラ焼を持ち、思い切って頬張る。


 バク!


 もぐもぐ……


 ごくん


 ……





「は、はは……」

「エーリ?!」


 皆俺を見て驚いている。


 そりゃそうだろう。泣いているんだから。


 一口食べてわかった。これは間違いなくどら焼きである、と。

 そしてこれを作るために、先達がどれほど苦労したかを。


 絶対に変えてはいけないレシピ。

 あの言葉。


 ありがとうございます。

 感謝の気持ちを胸に、食べきる。


「もう! お兄ちゃんたら泣くほど美味しかったの?!」

「ん? ああ、まさかこんなに美味しいと思ってなくてな。それに、何故だかこれを作った初代店主の想いを食べている気がして。なんか涙が出ちゃったんだよ。驚かせてごめん! さ、まだまだあるから食べよう!」


「すみません。一式10人前追加で」

「アンジー?! もう20人前食べたの?!」


 皆の視線が俺からアンジーに変わる。

 そこには綺麗になった皿と、3兄弟の串だけが残っていた。

 ……舐めたな?


「きっと初代も喜ぶことでしょう。さぁ、追加注文頂きました! 少々お待ちくださいませ」

「「「お待ちくださいませ!」」」


 テキパキと皿を下げ、仲居さん達がアンジーのための甘味を運びに戻っていく。


 ありがとう、ステフ、アンジー。




 俺だけがちょっとノスタルジックになりながら、結局アンジーは50人前、その他も3人前は食べて、おやつタイムが終わった。


 当然、お土産はいっぱい買った。

 自分達の分は勿論だが、メイガード家の皆さんやアーノルドにも食べさせてあげるためだ。

 アンジーがいるから、ミルク村の分は今度買いに来よう。


 次は観劇しながらの夕食か。

 ……食べられるかな?

海外に行くと日本の食べ物が恋しくなると言いますが、地元から離れたところに住んでいると、地元でしか売ってないものとかを食べたくなりますね。


いつも見て下さってありがとうございます。

お気に召しましたらブクマ、評価をよろしくお願いいたします。

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