第27話 告白(エーリ)
続きです。
エーリと家族の絆のお話です。
宜しければどうぞ。
2017/12/25 読みにくい箇所を修正しました。
お風呂を出た俺たちは、パジャマに着替え、髪を乾かし、水分を取って、現在リビングでソファに座っている。
荒んでいた心は、家族で風呂に入ったことによって、すっかりと落ち着いていた。
代わりに、決意は固まった。
暖炉では焚き火がパチパチと音を立てている。
ミリア、俺、ルークが三人並んで同じ方向を向いている。
「それで、話ってなんだ?」
「うん」
俺は一度二人の顔を見て、また暖炉の方を向いて話し始めた。
「俺の変化に、気づいてるだろ?」
「ああ」
「ええ。そんな言葉使いを教えた覚えはないもの」
まあ、確かにな。
「うん、教わった覚えはないよ。これは、前の記憶が残っているからなんだ」
「前の、記憶?」
「前世の記憶があるってことか?」
「そうだけど、ちょっとだけ違う。俺は、この世界の出身者じゃない。違う世界から来た、『転生者』なんだ」
「てん、せいしゃ?」
ルークはピンときていないようだ。
「そう、そういう、ことだったの」
ミリアは何か、腑に落ちたという顔をしている。
「驚かないんだな」
ミリアに聞いてみる。どこで気づいたのだろうか。
「母親だもの。理由なんてそれで十分でしょ?」
「強いんだな、お母さんて言うのは」
「ええ、あなたを愛しているから。お母さんはどこまででも強くなるわ」
そうか。
やはり、俺はいい両親に産んでもらったようだ。
「昔の話を聞いてくれるか?」
二人はこくん、と頷いた。
「俺は、元の世界では『其ノ崎衛理』という、当時33歳の男だった」
「俺より年上……」
「そうだな。産まれた時、イケメンで、美人の奥さんが居るのがわかって、ルークを爆殺しそうになったことがあったよ。前世では全然モテなかったからな」
「あれ、お前だったのか、エーリ……」
「ああ、俺もビックリしたんだ。ミルクにも怒られたしな。っと、話がそれたな。前世では、義理の両親に育てられて、親の愛ってのを知らずに育った。大人になるまでは普通に暮らせていた、とは思う。だけど、就職してブラック企業に入っちゃって……。あ〜、ブラック企業ってのは、こっちで言うところの悪徳商会、かな? 客だけじゃなくて、働いているやつにも最悪な環境だったんだ」
「なぜ、辞めなかったの?」
ミリアはよくわからないと言う顔をしている。
「そうだな。まあ、お人好しだったんだ。俺が仕事を放り出したら、他の奴らが困るし、お客さんにも迷惑がかかる。あっちの世界は雇ってもらうのも一苦労でさ、辞めると生活もままならなかったんだ。まあ、雁字搦めにされるんだよ」
「そう、なの」
「魔物とかがいるわけじゃないから、普通に暮らせればいい世界だと思うけど、普通に暮らせなくなると、途端に這い上がることが出来なくなる世界なんだ」
もう、5年も前になるのか……。
いや、その前にあの部屋で目覚めるまでに5年だから、正確には10年か? まあいい。
「そんな世界で心と身体がボロボロになってさ。生きてるんだか死んでるんだか、自分でも分からなくなってた。あの日、仕事帰りの道で呟いたんだ。『誰か殺してくれよ』って」
ルークとミリアは泣いてくれていた。
でも、話を止めることはしない。
「その時、後ろから声をかけられたんだ。『助けてあげようか?』って。それが、ミルクだった。なんかこっちの思考を読んでくるし、浮いてるし、光ってるし、異世界に転生出来るよなんて、最初危ないやつだよなーとか思ったけど、『なんで俺なんだ?』って聞いたら『好きだから』だってさ。小さい時から俺のことを見てて、好きになったから助けたいって言ったんだ。なんか嬉しくなっちゃってさ。転生をお願いしたんだよ」
少し落ち着こう。
冷たい果実水をゴクリと飲んだ。
「転生に先立って、希望を聞かれたよ。どんな種族とか、魔力の有無とか。文化とか違ったら困るだろうから人間族で、どうせ異世界だからって魔力も付けてもらって。ああ、才能はミルクに任せたら馬鹿みたいに優秀なやつばっかり付いてたよ。それに、転生者は基本的な能力が高いんだってさ。俺が今まで戦えてこれたのは、そういうのが原因だよ」
二人は俺が戦闘しているところを思い出したのだろう。
下を向き、目を瞑っていた。
「そんな凄い能力を持っててもさ。厄介な才能にも恵まれたんだ。【トラブルホイホイ】って言う名前でさ、山賊の件とか、国軍の糞野郎どもの件とか、ああいうめんどくさいトラブルが向こうからやってくる才能なんだって。もしかしたら今回の魔物退治も、そいつが関係あるかもしれない」
「魔物、退治?」
ルークが顔を強張らせている。
「ああ。俺、【雷神】に修行って言って【聖域】の外の森まで連れていかれたんだ。そこで、魔物と戦わされたんだよ。25万の大軍と」
「え?」
「にじゅう、ご……まん?」
二人はきょとんとした顔をして俺の方を見た後、顔を見合わせていた。
まあ無理もないよな。桁おかしいし。
「そう、25、『万』。俺5歳なんだけどなーって思いながら、殺されないように奴らを殺していったよ。そしたら俺、魔法もいっぱい使えるようになって、効率よく奴らを殺せるようになった。途中なんか、奴らの命を使って実験もしてさ。笑いながら殺したりもしていた気がする……。でもさ、残り1万を切って、俺も限界を迎えそうになった時、あいつが出て来たんだ。牛型の、魔物」
いつのまにか涙が頬を伝っていた。
ミリアが俺の頭を抱えてくる。
……落ち着くなぁ。流石お母さんだ。
「そいつは明らかに知性を備えてた。俺の方を見て、残った魔物の方に向かって叫んで、持ってた斧を顔の前に掲げたんだよ。『ああ、一騎打ちを望んでいる』ってわかった。俺も魔物に向かって言ったんだ。恨むなら、俺と【雷神】だけにしてくれって。俺が負けたら【聖域】は消す、俺が勝ったら森に帰ってくれって」
「魔物が、知性か……。普通ならありえないんだ。言われても信じない。でも、エーリの言葉だ、信じるよ」
ルークの手が俺の頭に乗せられる。
逞しい、俺の自慢のお父さんだ。
「ありがとう……。それで、どれくらいかな。長い間戦って、俺が、勝ったんだ。そして勝ち鬨を挙げた。決着がついたと知らせるために。そしたらさ、魔物達はちゃんと帰っていったんだよ。あいつの死体も持っていった」
パチパチと焚き火が音を立て、俺の泣き顔を赤く照らす。
「戦いが終わっても【雷神】は現れなくて、俺が殺した24万の死体と一緒にボーッとしてたら、無性にルークとミリアに会いたくなったんだ」
ミリアと、ルークの手に力が入る。
「なんか、疲れてさ。異世界に来て、トラブルに見舞われて家族を危険に晒して、俺の都合で生き物虐殺して、このままここに居ても、事情を知らない皆に迷惑をかけ続けてしまう。それは……嫌だ!」
ミリアとルークの手をほどき、暖炉の前に立つ。
二人の顔をしっかりと見つめる。
「この世界に来て、親の愛ってやつを初めて知ることが出来た。ミリアは怒るととっても怖いけど、俺のことをいつも一番に考えてくれる。言葉や行動が、俺を愛してくれているといつも言ってるんだ。ルークも、俺やミリアを大切にしてくれてるって、いつもわかるよ。国軍の糞野郎どもから俺たちを守ろうとしてくれた時は、この人が父親で良かったって、心の底からそう思ったんだ。俺と遊ぶのが楽しいって、わかるよ。俺も、お父さんと遊ぶのが初めてだから、楽しかった。……二人の子供に産まれて、本当に幸せだった」
涙を流す二人の目が、大きく見開かれる。
「エー、リ?」
「どういう……」
「俺、出て行くよ。このままここに居たら、きっと、もっと迷惑がかかるから。【トラブルホイホイ】の才能って、勝手に磨かれるんだってさ。5歳でこれだ……。これからもっと厄介で危険な事態が起きないって、誰が言える? 俺は二人が大好きなんだ。多分、愛してるんだと思う。お父さんとお母さんに、もう苦しい思いをしてほしくないんだよ。だから「「エーリ!!」」
ガバッと二人が俺を抱きしめる。
その力はとても強く、二人の思いを如実に物語っていた。
行くな、と。
「ダメ!! 絶対にダメ!! あなたが転生者だろうと関係ないわ!! エーリは私たちの子なの!! 私達と一緒に暮らすの!! もし村の皆に迷惑がかかるのが嫌なら、私達も出て行くわ!! 絶対に、絶対に離れない!!!」
「ああ、ああ!! 絶対に離すもんか!! エーリは俺の子だ!! ミリアは俺の奥さんだ!! 二人は俺の自慢の家族だ!! 家族が離れ離れになるなんて、絶対にあってはならないんだ!!」
「お、俺、二人に、迷惑かけたくないんだ……」
「何言ってるの! 親になんかいくらでも迷惑かけなさい!!」
「そうだぞ! お前は可愛い俺たちの子供なんだからな!!」
「お゛どうざん……お゛、があざん!! うわぁあああああああああああああ!!!!」
二人の頭をかき抱く。
家の中に三人の嗚咽が響く。
やがて……
『エーリ、ちょっと魔力もらうわよ』
そんな声が頭に響き……
虹色の魔法色に身を包んだ、ミルクが現れたのだった。
今回は書いていて何度か泣きました。
親って強いなあ。




