その20
ドアを開けた瞬間。もわりとした煙が彼女の全身をおおい、驚き、腕で顔を覆い隠した。そして、その熱さにまた驚いた。おそるおそる、煙の出所を探す。両腕の隙間から、見回せばすぐに見つけた。人一人が入れるくらいの箱から。箱は黒く、石のようだ。中に入っているのはお湯。箱の隣にはちょこんと、おけがおいてある。少し離れて、壁のほうに石鹸が一つ。当然ながら刃物の類はない。
奥の部屋は小さな浴場だったのだ。
この世界ではお湯につかる、という文化があるということがわかった。とたんに、彼女はすぐに行動した。湯船につかるために。後のことなど一切考えず、ただ温かいお湯の中に入りたいと。
彼女は衣類を脱ぎ、全身を何度も洗い、湯船につかった。ざぶん、と湯が箱から流れ落ち、彼女は自分の身体がぽかぽかと温まっていくのにほころぶ。
(あったかーい)
部屋の中は冷たく、いつも筋トレするとき以外は毛布にくるまり寝るのがほとんどだった。手足が冷え、肩こり、首こり、を心配していた彼女は安心した。
そして、彼女にとって新たな発見だ。外の世界は中性ヨーロッパと酷似していると安易に想像していたために、入浴は宗教上の理由で禁止されている。もしくは、入浴の文化はないと考えていたからだ。彼女はふう、と息をつきながら、湯に顎まで沈める。
外は乾燥している気候ではなく、入浴は必要。お風呂があるということは水資源が豊富かもしれない。
風呂事情は風土、宗教、によってかわるのだ。彼女のいた国では入浴することが多い。いや、それが当たり前で常識となっている。その場合は水資源が豊富であることも入浴の条件の一つとなる。
反対に、風土の関係から風呂に入るという考えがない国もある。乾燥した気候で、風呂に入らずとも垢がぽろぽろと一人でに落ちていく。宗教の理由、サウナ、水浴び、風呂嫌い、シャワーとほかにも彼女の知らない文化がたくさんある。
(うーん、まさか誰かが伝えたとかじゃないよね?)
それに、少女と同じような境遇の誰かが入浴文化を伝えたということもありえるために難しい。彼女にとって判断をつけることができない。彼女は自分の知識、視点の能力不足に口を尖らせるも、心地よさに思考が途切れ、へにゃりとさせた。




