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出会いは芋煮会で

芋煮会。これは神聖な行事。

この街に住む皆が楽しみにしている年に一度の冬の行事。

芋煮会。それは笑顔も争いも生む行事。

味噌かしょうゆか。豚肉か牛肉か……争いは尽きない。

冒険者ってこんなこともするんだっけ?

これってギルドから依頼された正式な仕事だったはず……?

アルドは疑問を抱きながらも、今日のアルバイトの警備員に配られた白いホイッスルを吹いた。


「ちゃんと並んでください!芋煮は逃げませんから……!押さないで!うわっ……!」


見た目は冷徹冷酷非情参謀系。

よくそう言われるアルドだったが、今はただの大イベントの押しの弱い警備員であった。

押されてすっ転ぶ。

悲しい気持ちと共に、胃がキリキリと痛んだ……


「あ、アルドさん……!大丈夫ですか?回復しましょうか?」

「大丈夫です。こんなことに使ってたら、エルナさんが疲れてしまいますよ。」


現れたのは、今日のアルバイトで初めて会ったエルナという少女であった。

胸には同じく警備員の白いホイッスルをかけている。

心優しいヒーラーで、少し頼りないが、それはアルドもそうだ。人のことなど言えない。


「さっきも芋煮の言い争いで殴り合いしていた人たちを癒やしていたばかりでしょう。」

「見てたんですか!?あんな未熟なヒール……」


恥ずかしがっているが、いつも精一杯。彼女の美徳だとアルドは思った。


「ほかのアルバイトの方々はどこに行ったんでしょう?」

「ああ、一人はあそこにいますよ、ほら。」


高い屋根の上を指さす。

遠目でよくは見えないが、同じくギルドでアルバイトを紹介されたシーフ……

確か名前はネロと言っただろうか……とにかく無口で、相方のエンツォという青年としか喋っていなかった。

しかしシーフとしてはかなりの実力があるようだ。

あんな高さから、街全体を観察している……


その時、何やら騒ぎが起きた……!芋煮(味噌)の大鍋が倒れそうだというのだ!慌てて走る。

役に立てる気は(魔術師の)アルドには全然思えなかったが、火事にでもなったら大変だ……!

――そこで、アルドは目を疑うような光景を見た。

一人の少女が、ミトンとふきんで大鍋がひっくり返るのを止めているのだ!

なんて怪力だ……逆に、隣で必死に何かを語りかけている男は何をしているんだろう……?


「ミア!頼む!芋煮の中身には触れないでくれ!」

「ジオったら心配性なんだから。いくら私の料理が微妙だからって、鍋つかんでるだけじゃどうにもならないわよ?」

「微妙どころか劇物なんだよ、わかってくれ!」


2人はなんとか鍋を立て直そうとしている……

慌てて、アルドとエルナと、いつの間にかやってきていたもう一人も手伝って、鍋は元の位置に戻った。

アルドは胃薬を追加しなくて良くなったことに少しホッとした。

そして――最後の一人の警備員。


「正義の勝利だ!」


なんて叫んでいるけど、今の今までどこにいたのだろう?


「えっ?ああ、芋煮は醤油か味噌か、議論に参加していたんだよ!有意義な議論だった!!!どちらが一番正義かは、分からなかったけどな!」


――こいつはダメだ。

その認識だけは、全員一致した。

そこに集った4人の心が一つになった。その時――


ピーーーーーィ!


高らかにホイッスルの音が鳴った。見上げると、シーフのネロがある場所を指差している……?

そして――、その指した方向からのそりと現れた、小柄な子供のような影……


「ゴブリンだ!ゴブリンがでたぞ!」


誰かが叫ぶ。


「芋煮の匂いにつられてやって来たんだ!」


……その言葉に、広場の街人たちの殺気が、膨れ上がった。


「ゴブリンから芋煮を守れ!」

「ゴブリンごときに私の芋煮を渡すものですか!!!」

「ゴブリンを殺れーーー!!!」


……警備員たちは、完全に出遅れた。


「落ち着いて!落ち着いてください!警備員に任せて!」


アルドは声の限りに叫んだ。さすがにこれを街人任せにしては警備員の名が泣いてしまう。


「俺は正義の剣士、エンツォ!行くぞ、ゴブリンめ!」

「とりあえずあのゴブリンを囲みます!端から囲んで一匹ずつ叩けば、私たちでも、なんとかなるでしょう!」

「悪のような顔のくせに言うことは正しいじゃないか!」

「どうせ悪役顔ですよ!ほっといてください!」


エンツォと名乗った青年が突撃したゴブリンに、とりあえず警備員たちは的を定めることにした。


「さあ……行きますよ!」

「勝手に決めるなよ!」

「でも囲んで叩くのはアリだよね!」


……とりあえずは、アルドの指示に従ってくれるようだった。


「喰らえ!正義の一撃を!」


エンツォが突っ込んでいく。しかしゴブリンも宣言からの攻撃はさすがに避けた。

……たぶん普通に突撃したほうが当たったんじゃないのかな……。

エンツォは突撃に力を入れすぎてすっ転んでいた。何をやっているのか。

しかしゴブリンが避けた先にはミアがいた。

体を覆うような、大きな盾、そして全力のシールドバッシュ……!

ゴブリンとて負けてはいない、棍棒を振り回して、距離を取りーーそこへ、


「水よ、わが力を持って、目の前の敵をーー」


アルドの詠唱が、あと1カウントで終わる。それまで何とか持たせなくては!

ゴブリンは一番弱い所を狙うかのように、エルナに殴りかかろう……として、急に跳んできた投げナイフに体勢を崩した。

いつの間にか降りてきていたネロの一撃だった。

固まって動けないエルナの前に出たジオが、ゴブリンと切り結んでいる間に――


「氷となって討ち滅ぼさん!」


アルドの魔術が完成した。

あまり強くはないとはいえ、魔術は魔術だ、ゴブリンの手足をきり裂き、ジオがそのままとどめを刺す。


「っしゃ!一匹目!」

「でも芋煮を狙うゴブリンはまだ……あれ?」


警備員たちがゴブリンを囲んでいるうちに、街人たちは、ゴブリンたちを鍋やおたまでフルボッコにしていた……

芋煮愛、恐ろしいものである。



……正直、街人たちの方が強かった。


「俺たち、いらなかったんじゃないか?」

「そ、そんなことありませんよ!」

「正義は示された!」

「いや何もしてないのでは……?」

「そんな事ない!なあネロ!」

「そうだな」

「うわああ喋った!!!」

「とりあえず、お仕事は終わったんだし……ギルドに行こっか!」


こうして、6人の初仕事は終わった。

ゴブリン一匹にも辛勝で、ぐだぐだで、まだ弱々しいけれど。

この後、パーティになる6人はこうやって出会ったのだった……


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