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嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~  作者: 月夜乃 古狸
軍務編

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第83話 昇進って、俺悪いことしたっけ?

あとがきでお知らせがあります!

 ブランディス砦は軍事拠点であると同時に、緩衝地帯を越えてファルン王国が進行してくるのを監視するという役割がある。

 つまりなにを言いたいのかというと、監視するには見通しが良くないといけなくて、要するに周囲は何にもない、だだっ広い平原に囲まれているわけだ。

 そして砦は万を超える軍を収容できる大きさがあると言っても大規模な訓練が出来るほどに広くはない。


 分隊や兵士個人が鍛錬するくらいの練兵場はあるけど、部隊運用を訓練できるほどじゃないのでそういったことは砦の外で行うことになっている。

 なので、今日もそのために砦から1ライド(約800m)ほど離れた場所に集合しているというわけなのだけども。


「レスタール小隊長、第15、32、61、76分隊、集合しました!」

「あ、ああ、うん、ありがとう」

 第15分隊分隊長のポルスさんの報告に、俺は引き攣りながらなんとか頷いてみせた。

 ボルスさんは例の消息不明の分隊捜索で暫定的に俺の指揮下に入ってもらったベテラン兵士だ。焦げ茶色の髪にブラウンの瞳、彫りが深く兵士だけあって鍛えられてシュッとした体格の美丈夫。身長は当然俺より20カル(16cm)以上高い。羨ましい。


「レスタール小隊長、指示を」

「えっと、こういうのはオーリンドさんが」

「私は副官ですので。それと、前にも言いましたがカルーファと呼び捨てでお願いします」

 オーリンドさんに助けを求めるもにべもなく拒否されてしまった。

 あの偵察任務が終わってから随分と俺に対する態度が柔らかくなったオーリンドさん、いやカルーファだけど、厳しいのは変わらない。

 まぁ、俺がだらしないのが理由なのでそれは仕方ないし、雑談にも応じてくれるようになっただけで大進歩だ。

 お嫁さんになってくれるわけじゃなくても、女性に嫌われるのは心にクルからな。


 それは置いておくとして、なぜ俺が分隊長ではなく小隊長と呼ばれたのか、だけど。

 つい先日、例の真っ黒王子の部隊と砦の軍がついに激突したわけだけど、まぁ実際にはこちらには被害が出ないように対策した上であちらさんに華を持たせて退却させたわけ。

 で、その時に俺はというと、ただバスクに跨がって突っ立ってただけ。ホントに何にもしてない。

 それなのに、なぜかボーグ司令官とブルゲスト辺境伯に呼び出された俺は小隊長への昇格と4分隊の指揮を命じられたのだ。

 

 当然理由を聞いたのだけど、偵察任務を被害無しで撤退したことと真っ黒王子の拠点や規模なんかの情報収集を評価したとか。

 と言われても、ある意味あれは俺の個人的な動きだから部隊指揮とは何の関係もない。そもそも俺はろくすっぽ指揮してないし。

 いきなり部下を増やすとか言われても困るのだ。

 辺境伯には俺が過去にレスタールの狩人を率いてプリケスク王国の救援や火竜退治をしたことを持ち出されたけど、実際には放っておけばすぐに暴走する狩人たちを抑えてただけだし、先頭も真っ先に突っ込んで、それに他の連中が合わせてくれただけ。

 なので部隊の指揮なんてほとんどしていない。


 そもそも、軍役が終わったらレスタールに戻ることが確定しているのに昇進したところで他の連中が困るだけだろう。実際に家を継ぐことが決まっている貴族家嫡男は2年間の軍役を終えると領地に戻って領主代理として実務経験を積むのがほとんどだ。

 軍としても遠からず退役する奴を育てたところで意味がないはず。

 なにより、責任が増えるということは仕事も増える。

 もしかしたら休暇だって減るかもしれない。

 なので、固辞しようとしたのだけど、司令官と辺境伯という北方防衛のトップふたりの決定が覆るはずもなく、俺には4分隊と輜重隊1班の部下が出来てしまったのだ。


「レスタール小隊長、どうします? 模擬戦闘か、隊列移動ですかね」

 ボルス分隊長が訊ねてくる。

 俺みたいな若造が上官なのに不満そうな態度ひとつ見せない人格者だ。ちなみに妻帯者で可愛らしいお子さんもふたり居るらしい。つくづく恨め、いや羨ましい。

「う~ん、とりあえず、歩くか」

「はい?」

 少し考えてから俺が言うと、ボルス分隊長とカルーファが呆気にとられた顔を見合わせた。

 けど別に適当に言ったわけじゃなく、ちゃんと理由がある。


「76分隊もそうだけど、哨戒に馬は使うけど俺たちは別に騎士じゃない。森の中の時みたいに歩兵として動くこともある」

 騎士団は基本的に騎兵が大半を占めるけど、ブランディス砦に詰めているような兵団は歩兵が中心だ。

 哨戒任務では騎乗するから騎兵としての動きが出来ないわけじゃないけど、馬ってのはとにかく維持するのにお金と手間、場所が必要なのでとても全員分の軍馬を用意できない。

 だから、いざ部隊の移動や先頭では大多数が歩兵として自分で歩く必要があるわけだ。


「皆は甲冑を着て歩くわけだけど、今の歩き方だと長時間の移動は結構辛いでしょう。それを直せばもっと早く、もっと疲れずに歩くことが出来るようになる」

「そう言えば、レスタール小隊長の歩き方が少し独特だなとは思っていましたが」

「レスタールの狩人としては普通なんだけどね」

 レスタール領(うち)の連中は丸一日、馬並みの速度で歩いたり走ったりできるけど、それは単に身体が強靱だったり体力があるってだけじゃない。

 

 魔境(あの森)の狩人は整備されていない森の中を獲物を探したり追ったりして狩りをするけど、場合によっては数刻も走り回ることもある。

 んで、ようやく追いついても体力切れじゃどうしようもないからできるだけ体力を温存しつつ早く移動する歩き方、走り方を身につけている。

 ざっくり説明すると、身体はやや前傾で足は真っ直ぐ上から下に踏み込む。つまり前に倒れ込もうとするのを支えつつそれを前進する力に変えるって感じ。

 地面を蹴ったりしないから足音も小さくなるし、力が無駄に逃げることもない。

 俺の説明に分隊長たちはわかったようなわからないようなって顔で、それでも頷いてくれた。


 そうして全員に歩き方を見せてやらせて指摘して修正して。

「つ、疲れ、てはいないけど、足が……」

「け、けっこうキツい」

 半径1ライドの円形にグルグル行進を1刻ほど。

 休憩の合図をすると兵士たちがその場に座り込んで自分の足を揉みほぐしたり地面に転がって愚痴をこぼしている。

 まぁ、普段使わない場所を使うから慣れない内は大変かもしれない。


「た、確かに歩いた距離と足の疲れの割には息が上がりませんな」

「それに装備を担いでいるのにそこまで負担が大きくない気がします」

「結構な速さで歩きましたよ」

 分隊長たちもへたり込みながら感想を言い合っているが、少しは手応えを感じてくれたようだ。

「ですが、レスタール小隊長のように馬より速く走るのはさすがに」

 ゴメン、それはレスタールの狩人じゃないと無理かも。


 休んだ後は戦闘訓練。

 まずは個々の技量を知りたいのでひとりずつ俺と模擬戦をする。もちろん戟を使うわけにいかないので俺は木剣で、相手は刃を潰した剣と甲冑姿。

 侮辱されたと怒るかなと思ったけど誰もそんな感じじゃなくてホッとする。

 というか、なんか怯えてるようにも見えるけど多分気のせいだろう。

 さすがに最前線で戦ってきた兵士たちだけあって学院の騎士科連中とは比べものにならないくらい鍛えられているし、なにより貪欲だ。

 俺みたいなガキでも強さを認めてくれているようで、気になったことや伸ばした方が良い部分を指摘すると素直に受け入れてすぐに取り入れようとする。


「小隊長、よろしくお願いします」

「えっと、はい」

 何人かの模擬戦を終え、次はカルーファさんの番らしい。

 滅茶苦茶気合いの入った顔で剣を構えてる。

 前みたいな嫌悪のこもった目じゃないのが救いだけど、ぶっ倒してやると言わんばかりの気迫は正直ちょっと恐い。


「ハッ!」

 ギィン! ガンッ、ガギッ!

 素人なら振り回すことが出来ない重さの剣を縦横無尽に振って、的確に俺の急所を狙ってくる。

 けど、やっぱり綺麗すぎるな。

 俺が一歩下がる仕草をした瞬間、カルーファさんが踏み込もうと前に出した足を軽く踏みつける。


「な!?」

 彼女がバランスを崩し、振り抜こうとしていた剣の動きが止まったところで俺の木剣がカルーファさんの首筋に押し当てられて終了。

「参りました」

「技量は十分だけど、もう少し泥臭い戦い方を覚えた方が良い。戦場では相手だって死に物狂いで向かってくる。飛んでくるのは矢や剣だけじゃなく、砂や毒を投げつけられたり、体格の差があれば盾を構えて突っ込んでくることもある。急所を狙うのも悪くないけど、そこばかりじゃ読まれるし誘導されるから、相手の手先足先を切りつけたり相手の盾で自分の動きを見せないようにしたりもできるから」


 魔境の猿なんか普通に石やウンコ投げてきたりするからな。

 被害に遭わないように視野を広く取る癖を身につけるのだ。

 俺がそう言うと心底嫌そうに顔を顰めて睨まれた。ごちそうさまです。

 それでも言ったことには納得してくれたようで、年嵩の兵士に泥臭い、卑怯に思える戦い方の例を教わるそうだ。


 結局その後も模擬戦を続け、全員の相手をし終えてからもう一度歩法の練習をして訓練を修了した。

 砦までの帰りの道すがら、ヘロヘロになった兵士たちを後ろから見つめつつ歩く。

「お疲れさまでした」

「カルーファもお疲れさま。それと補助をありがとう」

 正式に副官に任命されていた彼女は、かなり細かなことまで色々とサポートしてくれたので助かった。


「訓練はどうでした?」

「問題無いと思います。小隊長の強さの秘密を皆知りたがっていたので。歩き方から違うとは思いませんでしたが」

 普通がわからないからなぁ。

 とにかく砦に戻ったら他の分隊長にも意見を聞いてみることにしよう。


 そして砦の門が見えてきた頃、カルーファさんが言いずらそうに口を開いた。

「あの、レスタール小隊長、その、まだ結婚相手を探していたりするのでしょうか」

「はい?」

 それって、どういう意味で言ってます?



というわけで、今回はここまでです

いよいよフォーディルトにも春の兆しが訪れるのか

それともいつものように期待だけで終わるのか!


で、冒頭に書いたお知らせですが

第7回キネティックノベル大賞で大賞をいただいた古狸の作品

「二度目の異世界は周到に」の書籍の発売が決定しました!

まだ正確な発売日は未定ですが、6月発売予定となります。

異世界に現代地球の科学製品をしこたま持ち込む極めつけのチートをどうか楽しんでいただきたいと思います

発売日が確定しましたら、改めて告知させていただきます



今週も最後まで読んでくださってありがとうございました。

そして感想を寄せてくださった方、心から感謝申し上げます。

数あるWeb小説の、この作品のためにわざわざ感想を書いてくださる。

本当に嬉しく、執筆の励みになっております。

なかなか返信はできませんが、どうかこれからも感想や気づいたこと、気になったことなどをお寄せいただけると嬉しいです。


それではまた次週の更新までお待ちください。

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― 新着の感想 ―
書籍化おめでとう御座います。購入します。
側室候補が増えてハーレム派閥が膨らんでいく
絶対に、某公爵家令嬢がやってくる案件。 最近、出て来てないし。
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