72話.処刑
「くそっ、ヒィ、こんなことしてただで済むとヒィ、思っているのかぁ!!」
鼻を抑えながらカルシュウムと呼ばれていた男は叫ぶ。
鼻血がドバドバとしたたり落ちていた。
「私を蹴るとは。それに魔獣をかばうなど。どちらも大罪だぞ!」
魔獣をかばうのが、大罪?
思わずルナの方を見る。
ルナは、どこか引け目を感じるような顔でいた。
人間にとっては魔獣といる事は罪だった?
じゃあ、ルナはなんで私を助けてくれたの?
次々と疑問が湧き出てくる。
私は…
「…別に魔獣と一緒にいる事が犯罪なんて法律はありません」
「そっ、そんなこと関係あるか!貴族が罪と判断すれば罪。
まして、魔獣は人類の敵なのだぞ。誰だって同意を示すに決まってる」
話の成り行きを見守る。だが、人間のルールを知らない私でも今、ルナが追い詰められているのは分かった。
だが、私は無力だ。
まして、人間のルール間の争いに介入なんてできるわけがない。
「……」
無言でいる事しかできなかった。
「あー、そのあたりにした方がいいと思いますよぉ。えっとカルシュウム男爵…でしたっけ」
その時、この複雑な空間に割って入るものが現れた。
女だった。ピンクの髪をツインテールでまとめ、灰色の目をした女だった。
女は気まずそうに言った。
「あなたは確か」
カルシュウム男爵の隣にいた男が呟く。
「ええ、あなた達の雇い主と手を組んでるものですよー。ミリーナとお呼びください。そこのオークをテイムしたのも私です」
女は不気味に笑う。
隠すことなくあっさりとテイムしたことを認めたためか、カルシュウム男爵はバツの悪そうな顔をする。
だが、次の女の爆弾発言で場の空気は一変した。
「というわけなんでね。そこのバカ男の非礼をお詫びしますよ」
場が凍り付く。
カルシュウム男爵は意味がしばらくつかめないという顔をしていたが、
すぐに顔をひきつらせる。
「馬鹿だと!貴様!誰に向かって」
カルシュウム男爵は顔を真っ赤にして激高した。
だが、そんな声は聞こえないというふうに平然とした顔でミリーナという女は続けた。
「ね!王女、ルナ・リリベスティ・クリスティナ様」
先程とは比べ物にならないほど、その場の空気が凍りつく。
「え!?」
私は思わずルナの方を見る。
王女!?
それって女の中で頂点のことだったよね。
本当に?何かの嘘なんじゃないの?それとも作戦?
もう意味が分からない。でも、この場面で嘘をつく意味なんてある?
ルナが人族のトップ…
本当にこの人はどういう人なんだろう。
王女なのに、1人で旅をしていた。
その中で魔獣を助けるし、その魔獣と同伴して今度は村を助けようとしている。
とても強くて単身で化け物オークにも突っ込んでいく。
ルナと王女という言葉を結びつけられるものが一切ないことに困惑する。
カルシュウムと名乗る男と隣の男もあんぐりと口を半開きにしていた。
そして、言葉の意味が飲み込めてきたのか、
段々と蒼白な顔になっていく。
先程までの傲慢な発言をすべて王女に言ったものとして捉え直しているのだろう。
青くなるのも分かる。
でもさっきまでのムカつく態度を考えると少し笑えるかも。ふふっ、
笑ったら少し落ち着いてきた。
「あのルナ様がこんなところにいるはずが…そうだ!貴殿がルナ王女殿下であるという根拠はあるのか」
「おやおやぁ、貴族さまともあろうものが、一国の王女様のご尊顔も存じ上げないとは。少々不勉強なんじゃありませんかぁ。プクク」
女は手で口を押さえ、笑いを堪えながら言う。
黙れ!とカルシュウム男爵は怒鳴る。
「そうですね。根拠と言われても難しいですが…これで分かりますか?」
そう言ってルナがバックから取り出したのは光り輝く銀のティアラだった。
「そ、それは!、王家に代々伝わる…」
数秒固まった後カルシュウムは急いで跪いた。
「さっ!先程のご無礼を何とぞお許しください。暗くて顔が見えなかったのです」
「忠誠が足りてないんじゃありませんのぉ?」
女はケタケタと笑いながらチャチャを入れる。
カルシュウム男爵は恨めしそうな顔でミリーナを見る。
だが、ルナはミリーナに一瞥もくれずに言った。
「黙っていてください。私が今彼と話しています」
「にはっ、怒られちゃった。サーセン」
ミリーナのふざけた態度に不快感を覚える。
突然出てきてこいつはなんなのだ。
だが、ルナはミリーナの存在に一切触れずに、まっすぐにカルシュウムを見つめる。
「なぜあのようなことをしたのですか」
「そ、それは…」
カルシュウム男爵は何かを逡巡しているようで、言葉に詰まっていた。
だが、ルナはその曖昧な態度を許さない。
「答えられないのですか?」
少し冷たくなった声でさらに詰め寄られ、カルシュウム男爵は徐々に震え始めた。
「い、いえ。その、命令…です」
「誰の?」
カルシュウム男爵は、なぜかミリーナをちらりと見た後、答えた。
「ゼイ伯爵様の…です」
「ゼイ伯爵!?」
ルナが少し驚いた顔で復唱する。
その態度から、ゼイ伯爵とやらがかなりの地位にいることを
私は推測した。
カルシュウム男爵がか細い声で絞り出すように答えたところを見るに、
ルナとゼイ伯爵どちらを天秤にかけるべきか、結局決められないまま流されるままに
言っているのだと推測できる。
ルナは手を緩めることなく質問を続ける。
「あなたはその命令に納得していたのですか?それをすれば村びとたちがどうなるのかは知っていたのでしょう」
「え、それは、その…それがゼイ伯爵の命でしたから。お許しください。確かに私はベルドール領主を陥れるためと命令を受け実施しました。ですが、それはこの国を守るために必要なことだったのです」
なんだろう。今の会話は。
質問の答えになってないような。
「私は村びとたちの命のことを聞いているんです!知ってますよね。あの田畑を荒らされたら彼らの生活が脅かされることくらい」
ルナは、カルシュウム男爵の胸倉をつかんだ。
先程まで冷静に語っていたルナの声には明らかに怒りが含まれていた。
すると、カルシュウム男爵は、まるでルナの言葉の意図を今得心したといったような、ハッとした顔をして言った。
「あ、あ~、それは…必要な、犠牲かと。もともとベルドール領のあの村あたりに対魔族の軍事拠点を立てようという計画でしたから。この計画の先に救える人間を考えれば下賤な民の数十人など」
カルシュウム男爵は、突破口を見つけたとばかりに顔に自信を浮かべ、力説を始める。
ゼイ伯爵とかいうやつがいかに正しいか。自分たちの行いの正当性。
領主ベルドールという人間は、下民の生活を優先して対魔族軍に備えた軍事発展を後回しにしており
、間違っているなどの内容だった。
私は彼の発言を聞いているうちに、先程からずっと感じていた違和感の正体に気づいた。
カルシュウム男爵は、命令を遂行した理由を答える時、村びとの犠牲を全く考慮にいれていないのだ。
ルナに指摘されて初めて気づいたといったふうだった。
彼らがどうなろうとまるで興味がないように。
そして、指摘された後も、ずっと村びとの命より軍事力の増強の方が大事だと言っている。
そこで私はやっと気づいた。
あの村人たちは、私たちスライムと同じなんだ。
抗い得ない強大な力に理不尽に搾取される存在。
そう考えると、不思議とこのカルシュウム男爵という男に腹が立ってきた。
だが、ルナのつぶやきに私はすぐに冷静にさせられる。
「…そう。もういいわ」
驚くほどに冷たい声だった。ぞっと背中に悪寒が走る。
ルナは胸倉をつかんでいたカルシュウム男爵を地面へ捨てるように放った。
そして、剣を抜き、そして…
読んでくださりありがとうございます。
下にある☆☆☆☆☆から、評価をくださると嬉しいです。
よかったらブックマークや感想お願いします。
◇◇
告知です。
短編『悪役令嬢は悪役令嬢と出会う 』を投稿しました。
よければそちらもお願いします。




