2話.女子会
その日、世界に激震が走った。
この世の頂点に立つ魔獣達。
それぞれが魔王をも凌ぐ伝説級の力を持つとされる存在、魔獣四王が
ある日何の前触れもなく接触したのだ。
奴らが動いて何も無いなどあり得ない。
人間領は大パニックになっていた。
そして、ここ。人間領と対になる世界。
魔族領でもそれは同様だ。
「おい、聞いたか!とうとう魔獣四王が接触したらしいぞ」
「怖い、怖いわ!」
「何もなければいいが…」
「奴らが揃ってそんなわけないだろう。一説には
魔王様を亡き者にして、この魔の大地を乗っ取ろうとしてるらしいぞ」
「そんな。私たちはどうなるの。それにパンドラ様が殺されちゃう」
「馬鹿!パンドラ様が負けるはずがない」
「でも、四王の全勢力が一斉にかかってきたらいくらパンドラ様でも」
そして、似たような混乱は魔族領の全土で起こっているようだった。
「お、俺、鳥系統の魔族だし、フェルミナのコルニクスランドに移住しようかな。受け入れてくれる気がする」
「馬鹿野郎!お前魔王様を裏切るのか!?」
「想像を絶するほどの万死に値するな」
「う、うそうそ。じょ、冗談だよ。パンドラ様は裏切らないさ。ただ怖くてつい」
このような会話が人間領と同じように魔族領のそこら中に広がっていた。
ここでも着実に恐怖の渦は広がっていたのである。
同時刻。
「あはははははは!」
「ふふふふふ」
今世界を最も震撼させている魔獣四王たちは、ガールズトークをして盛り上がっていた。
「セレーネ。あなたその肩のスライムどうしたのかしら?昔のあなたみたいでかわいいわね」
怪鳥王フェルミナが、セレーネに問いかけた。
セレーネはずっと小さなスライムを乗せていたのだ。
「ああ、この子?この子は大事な子なのよ。詳細は秘密。かわいいでしょ?」
それはただのペットについての話。
その気軽な会話は王がするでも、魔獣がするものでもない、普通の女の子がするそれと変わらないものだった。
「大事ねぇ。ただのスライムにしか見えねぇけど。でもちょっとうまそうかも」
龍王オルゴラズベリーが、笑顔を浮かべ、舌舐めずりをして言う。ちなみに彼女のことは、皆オルと呼んでいる。
「ちょっとオル!」
セレーネは、肩のスライムを庇うように、後ろに回して言った。
「冗談だよ。昔のセレーネに似てるし、渡されても食べないって」
オルは肩をすくめていう。
「確かにセレちゃんには及ばんけどこの子もかわええなぁ。我にくれへん?」
真蜘羅が机に肘をついて手で顔を支え、セレーネののスライムをじっと見る。
その目は笑っていなかった。
スライムはその視線に怯えてフルフルと震えている。
「だーめ。だめだよこの子は。それにマクラにあげたら不幸になっちゃうでしょ」
「我のことなんだとおもってるんセレちゃん?」
マクラのツッコミに反して「まったくね」とフェルミナがうんうんと
頷き、セレーネに賛同する。
その場にどっと笑いが起きる。
マクラは不貞腐れた顔をした。
魔獣の頂点である、4匹の王が集まっているというのに、
その空間はまるで華やかな女子会のようだった。
彼女らが犬猿の仲と言い出したのは誰なのだろうか。
ここの場面だけ切り取って見ると全くそうは見えないだろう。
「それにしても、そのスライム見てるとほんま昔を思い出すなぁ。弱かったころのセレちゃんそっくり。ああ、昔といえば覚えとる?あの頃は我、寝る前に糸を仕掛ける習慣があったやろ?
寝てる間に獲物に罠かけてな。そんで寝てたらズシーってめっちゃでっかい振動がきてな。こりゃ大物やーって見てみたら、かかってたのはフェルミナちゃんやったの。あれは大爆笑だったわ。懐かしいわぁ」
こんなふうにフェルミナちゃんが
引っかかったってなぁ、|マクラが身振り手振りを使って表現しながら、楽しそうに言っている。
「は、はぁ!?あんたねぇ。なんでさっきまでの流れでそのはなしになるのよ!!あれは寝ぼけちゃっていい匂いに釣られちゃっただけ。ていうか、今のでなんでアンタだけは大嫌いだったのか思い出したわよ」
フェルミナが赤面し、真蜘羅に蹴りを放つ。
ひょいとそれを躱して
マクラはフェルミナに手を合わせた。
「堪忍なぁ。でも我はフェルミナちゃん好きよ。真面目で仲間思いで誇り高くて、からかったらとっても面白いタイプやわぁ」
「あなた…相変わらず最低ね」
さっきのは訂正。蜘蛛と鳥は確かに犬猿の仲だったみたい。
いえ、蜘蛛と鳥だから蜘蛛鳥の仲かしら。
ひと通り談笑を終えた後、話すことが無くなり、部屋は静まり返る。
その様子を見て、セレーネが発言した。
「さてさてぇ。じゃあ楽しい昔話もこれくらいにしてそろそろ本題入ろうーか」
「どこがよっ!?こっちは一番こっぱずな思い出蒸し返されて怒り心頭なんですけど!!」
フェルミナが怒って言う。
当然だが、マクラに昔されたことは、フェルミナにとってかなり嫌な思い出らしい。
「あっはっはー。相変わらず楽しいなぁ。4人で話すと」
呑気にオルが言う。
「楽しくないわよ!」
フェルミナが怒った顔でツッコミを入れる。
セレーネが困ったような顔をする。
それを見てフェルミナはため息をつき、言った。
「はぁ。遮っちゃってごめんなさい」
「気にせんでええで。フェルミナちゃん」
「あんたに言われたくないわよ!」
「いややね。こうやってちょっかいかけるのが我の生き方やし」
「本当あんたタチ悪いわね」
フェルミナの額に青筋が浮かぶ。
また喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。
そこでセレーネがパンだと手を叩く。
「はいはい。話進まないから。さてさて、2度目だけど早速本題っ!みんなでこうやって集まったわけだけど何をしようか」
「「「え?」」」
全員が不思議そうな顔をした。
それは、セレーネが決めてくれているものだと、全員思っていたのだ。
「いやねぇ、13年前は先の話すぎて何するか話してなかったじゃん。集まること自体が約束だったわけで。だから何するとかは全然考えてないんだ。あっはっは…やっぱまずかった?」
シーンと沈黙が流れる。
あらあら、この空気大丈夫かしら。
セレーネは相変わらず適当な子ね。そこも昔は好きだったけど。でも、流石に魔獣の王になってそれはまずいんじゃないかしら。
この子たちは昔はいい子だったけど、もう13年経って、魔獣の国とはいえ王の立場になったわけだし。
人間の世界だと何も無く王族を呼び出しなんかしたら、信用を失うだけでは済まないのだ。
「にしし、セレーネ。相変わらず適当だなぁ」
オルが言った。
「そんなん人間の国じゃ処刑やで。セレちゃん」
マクラが、私が思っていたことと同じことを言う。
「いいんじゃない?私たち魔獣だし。今回の集まりはそれ込みでの話し合いってことで。人間はそういうとこめんどくさすぎなのよ」
フェルミナが言った。
「そっか。いや、ごめんね。皆何やりたいかわかんなくて。じゃあそれから話し合おっか」
こうして四王の会合は始まった。
■四王会合、やることその1
やることを決める。
「杞憂だったみたい。
やっぱり皆昔とかわっていないんだわ」
笑いながらぼそりとそうつぶやく
そうして私は閉じていた片目を開けた。
視点が切り替わり、目に宮殿の私の部屋が映る。
太ももの上では、王が泣きながらうずくまっていた。
「ルナちゃん。どうしたの?」
王が泣き止み、私を見上げて言う。
「いいえ、なんでもないわ」
そう答えたが、それは嘘だ。
実は私はずっと集まりに参加してたのだ。
目の前の王様が非常に頭を悩ませている魔獣四王の会合に。
遠隔で、だけど。
セレーネがペットだと皆に紹介したスライム。
あのスライムには、セレーネの魔法で仕込みをしてあるのだ。
あのスライムの目は私の視神経と繋がってて、見たものを共有できるのである。
つまり、私もあの会合の様子をずっと見ていたのだ。
彼女たちは、強くなった。
昔と比べならないほどに。
私ともう再開しても全く問題ないほどに。
きっとこの13年間頑張ってくれたのは、私のためというのもあるのだろう。
そのことを思うと、とても嬉しい。
そんな彼女達が集まるのだ。私が参加しないわけがないだろう。
もっとも私の王女という立場のせいで、対面は厳しいのだけれども。
さてさて、そのうち私も合流するとしましょう。
策を考えないといけない。
それに、せっかくセレーネ以外、私が参加していると知らないのだ。
どんなサプライズをするか、今から考えないとね。
ルナはワクワクしながら、手元にあるティーカップを口に運んだ。
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次回は魔王パンドラ登場です。




