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魔獣少女たちは同窓会がしたい ~かつて最弱だった魔獣の王たちが再集結するようです。~  作者: カモミール
2章:セントラルフィリアの冒険

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44話. 釣り

※リア視点です。



「釣りぃ!?いや無理でしょ。あのクラーケンよ」

「いやぁ。大丈夫でしょ。ちょうどいい餌もあるし」


初めは冗談か何かの比喩だと思った。

目の前の状況を見るまでは。


「ひ、ひぁぁあ!た、助けてぇ。い、命だけはぁ」

「おい!暴れるな」

3人の男たちが逃げようと大暴れしているが、

龍王オルゴラズベリーと思われる少女が、軽く抑えている。


腕が足りない分はドラゴンのものと思しき尻尾を使っていた。


やっぱり龍王で間違いないようだ。

あのクラーケンを吹きとばした漆黒のドラゴン。

それがまさかこんなに幼い少女だったなんて。


「オル〜。糸つけるから動かさんといてな」

奥では蜘蛛王・真蜘羅と思われる怪物が釣り糸を作っていた。


あの細い糸には信じられないほど膨大な魔力が内包されている。あれなら仮にクラーケンが元の大きさでも、千切れないだろう。もっともあの巨大を引き上げられるやつなどがいるはずはないが。

…いないわよね。


この怪物少女たちに自分の常識がどんどん破壊されている事を感じた。


「流石にこのまま入れたら溺死しちゃうから、幕作っとくね」

スライム王セレーネと思われる女は、自身の手のひらから水の幕を作る。その中には空気が内包されていて、男たちの顔を覆った。水の膜が、海水を防ぐ仕組みのようだ。


スライムの水でできた肉体を操作して作ったものだろうが、

そこまで自在に自分の体の水を操作できるスライムがいるなんて聞いたことはない。

普通のスライムが水を操ると言えば、精々水魔法を口から吐くくらいのはずなのに。


次から次に起こる常識はずれな事象に頭がくらくらするのを感じた。


「私の分の餌なくないかしら?」

そして、フェルミナまで乗り気なようだ。

彼女がフェルミとして私の前に現れた時は、常識のあって頼れるお姉さんだと思ってたのに。


なんでよ!


なんだか悲しくなってくるわ。


領主の息子、ロイド・エル・ハートブルク君。

彼も今朝目が覚めて同行していた。


だけど、この少年も目の前の光景を見てかなり引いてるようだ。

よかった。常識のある仲間がまだいたみたいで。


それよりもだ、目の前の光景に圧倒されていたが、

こんなことはやっぱり止めるべきだ。


「カイルさん!民にこんな真似をしてどういうつもりなんですか!?」

笑いをこらえるようにこの光景を見ていたの領主を問い詰める。

民がこんな目にあっているのに同盟もくそもあるはずがなかった。


「ん?ああ。いいんだよ。彼らはもはや民ではないからね。領主の息子であるロイドを誘拐した罪人だ。死罪は確定。今回魔獣四王たちの提案にちょうどよかったから、クラーケンへの餌として使うことになったんだ」

代わりに無期懲役まで罪を軽くしてやったんだ、感謝してほしいくらいさ、と領主であるカイルは付け足す。

その口調は軽快だったが、どこか怒りもこもっているのを私は見過ごさなかった。

息子を攫われて怒り浸透なのだろう。けれど

「で、ですがいくら罪人でもこのような人権も何もない扱いは」

「そ、そうだ。いくら俺たちがが罪人だからといって。クラーケンに喰われるくらいなら死罪の方がマシだ」

罪人3人が私の言葉に乗っかって必死に訴える。

彼らに同情の余地はないが、これは倫理の問題だ。罪人といえど、命を弄ぶような真似が許されるわけがない。


「あー、大丈夫や。死にはせんよ。そこは気をつけるから。ただ恐怖は半端ないかもしれんけど」

蜘蛛の王・真蜘羅が、後半邪悪に笑いながら言う。

「だそうだ」

カイルは肩をすくめた。

「そ、そんなぁ」

小太りの男とスーツの男2人は顔を絶望に歪ませた。


はぁ、とため息をつく。

領主に罰の一環と言われたら返す言葉もない。

確かに、死なないのであれば、領主に罪人を労働させ、有効活用するくらいの権限は許されている。

その一環と考えれば、あり…なのか?

何にしてもカイルは止められそうもない。


それに、彼らが死ぬか否かで、同盟を結ぶ相手である魔獣四王が信頼になるか、多少の判断基準になるという思惑もあるのだろう。

私もそれ以上は何も言わなかった。


「「「うわぁああああああああああああああああああ」」」

絶叫しながら誘拐犯3人は海の中へ放り投げられた。



あーあ、可哀相に。彼らの不幸はここに魔獣四王がいたことかしら。

やっぱり悪いことはできないってことかしら。


罪人の扱いとしてこれで正しいのか、思うところがあり私は複雑な表情をしていたようだ。

「あー、引いちゃったかしら?」

フェルミナが私に気まずそうに話しかけてくる。

「…そりゃね」

「不愛想ね。やっぱり私嫌われた?」

「…」


私は返答しない。

沈黙が流れた。正直フェルミナのことはそこまで怒っていない。


なぜなら、相手の出自立場のみで敵味方を区別することは、私が最も嫌いな騎士の悪習だからだ。


彼女が善意で助けてくれたことは分かっているし、少なくとも今私たちを害する気はないのだろう。

彼女の立場なら正体を隠さなければならないことも理解できる。


ただ、短い時間ながらも肩を並べていた仲間だと思っていた相手が、

自分を欺いていたことはやっぱり気に入らない。


私は自分の過去も気持ちも全部洗いざらい話したのに。


「ごめんなさい」

すると、突然フェルミナが謝ってきた。

「え?」

私は困惑する。

「あなたに私の正体を黙っていたこと。こんなことなら早く打ち明けちゃえばよかったわね」

「別に。謝る必要はないわ。本当に私の気持ちの整理がついてないってだけだから。結局私って根が真面目なのよ。性根が騎士なんだわ」

「自分で真面目って言う?」

若干引いてるフェルミナを私は横目を細めてジトリと見る。

「言うわよ。私、そのせいで家を追い出されたようなものだし。自画自賛じゃなくて自己嫌悪。なんで私ってこうなのかしらね」

「…反応に困るわよ」

「で、そんな真面目な私だから突然信頼してた人が魔獣でした、なんて言われたら困惑しちゃうのも分かるでしょ?」

フェルミナは一瞬困ったような顔をした後、何かを考えだした。

そして、なぜか大きなため息をついた。

私は訝しんでフェルミナを見つめる。

「魔獣と人間が分かり合える世界を作りたい。それと魔族もね」

「え?」

いきなりフェルミナが信じられない発言をした。

絶句する。

魔獣と人間が分かりあう。そんなことできる筈がないことだった。

魔獣は古来より人間の敵。

そして、人間は魔獣の餌だ。魔族も生まれながらに人間に対し、侵略を繰り返している。この3種は言わば絶対に交わらない水と油だ。

いや、魔獣と魔族ならまだ交わる可能性があるかもしれない。

だが、人間とは絶対にないだろう。


「こいつ正気かって思った?私も思った。あはは」

自分の発言なのに、フェルミナは他人の発言のように言う。

「ど、どういうこと??」

「これ、私の目的じゃなくてあなたの主様の理想の世界よ」

「え?」

一瞬、意味が分からず固まる。

「昔ルナ王女から聞いたってこと」

「え、えええええええ!?うそ、うそうそ、そんなはず」

思わず叫んでしまう。ルナ様には何年も前からつかえてきたけど、そんなこと聞いたこともない。


「あなたに言ってないのだとしたら、それは立場を考えてのことじゃないかしら。魔獣と共存なんて王女様が言い出したら大問題だしね」

言われてみればルナ様は今まで人間に多大な害を為す魔獣以外は倒そうとはしなかった。


あの方の考えは底知れない。言われてみればそれくらい考えていても不思議じゃない。

「あの方なら頭ごなしに嘘って言えないわね。確かに」

「あはは。けど私は応援してるし、できると信じてる。あなたと私が一時でも仲良くできたみたいに、人間と魔獣でもお互い分かり合うことができるもの」

「フェルミナ。あなたとルナ様の関係って」


「ただの親友よ。夜遅くまで一緒に本を読んで語らい合うような普通のね」

唖然として、私にはただフェルミナを見つめる事しかできなかった。

その時、フェルミナが垂らしていた釣り糸が下がる。

「ね、ねぇ、ひいてない?」


釣り糸がどんどんと海底に下がっていく。

もしかして、クラーケン?

緊張で私は体をこわばらせた。


「よっと」

フェルミナが機敏な動きで竿を引く。


クラーケンが出てきたことを考えて、私は剣に手をやった。

だが、その行為は無意味に終わる。

そこには革製のブーツとワカメが絡まったゴミがかかっていたのだった。

「…」

フェルミナが苦い顔をする。


「ぷっ」

その様子を見て思わず吹き出してしまう。

私は剣から手を放し、口で手を抑えた。


「あ、ひどい」

フェルミナが怒った顔でこっちを見た。

だがその顔に邪悪さは一切ない。


どうやら魔獣の王でも全てが万能というわけではないらしい。


「クラーケンって人間以外も食べるのよね」

私は甲板に椅子を持ってきてドカッと腰を下ろした。

釣り竿に蜘蛛の王が作った糸をかけ、

予備の餌として持ってきた魚の口に針を通す。


「私も釣るわ。どっちが釣れるか勝負ね。フェルちゃん」


フェルミナが嬉しそうにこちらを見る。

「リア…のぞむところよ」



余談だが、その後フェルミナの愛読書、初代勇者の英雄譚が、リアのお気に入りでもあったことが発覚し、2人は夜通しで語り続けた。

そのこともあって、2人の中に残っていた僅かな蟠りは、時間をかける事もなく

完全になくなったのだった。












読んでくださりありがとうございます。


リアとフェルミナが好きな初代冒険譚を読んでいるところは「27話.フェルミナの冒険⑥:英雄」に出ています。



もし少しでも気に入っていただけたのであれば

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また、ブックマークや感想など気軽にしてくてくれると作者の励みになります。


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