38話.古城の防衛戦④:解析
見破られた?わたしの幻術魔法が!?
目の前の十字架ピアスの男に切り裂かれ、トドメの一撃が来る。
避けきれない。やられる!そう感じた時、私の体は宙に浮いた。
いや、掻っ攫われたのだ。
炎の翼に抱かれ、私は空にいる。
この炎の翼に包まれても、私には何も感じない。
地味だけど、1級品の魔力操作。これって。
私を助けたのは魔獣四王、怪鳥王フェルミナの側近、不死鳥バーナードだった。
「大丈夫っすかぁ?シオンちゃん」
ゆっくりとバーナードは地面に降り立つ。
「なんとかおかげさまで。あ、ありがとうございます」
私はたどたどしく礼を述べる。
その後私とバーナードに追撃を喰らわそうとした
魔法部隊を私と同じく魔獣四王の側近、スカルスライム・マナフが襲った。
マナフのスライム体の液体に触れると生気を吸い取られるという。まぁ生気と言っても体力が根こそぎ奪い尽くされるだけで、命に別状はないようだが。
マナフはスライムの体から戻り、言った。
「私のデータでは奴らは王国最強の冒険者集団、自由の騎士団です。十字架ピアスの男は死神タナトス・アルティミス。白い金箔のコートの男は狂犬モア・アウグスモンド。タナトスは見ての通り大鎌使い。厄介なのはあの身軽な身体能力でしょうね。ですが、この場で最も厄介になるのは狂犬の方でしょうね。彼は一流のサポーターです。兵の能力値の底上げ、搦め手への対処。ほっとくと面倒な相手ですよ」
「へぇ。情報共有ありがとうっす。そういうことでしたら連携されると厄介っすね。分断しましょうか?ところで、シオンちゃん。けがはしてないですか?」
バーナードがタナトスの大鎌を私を掴んでギリギリでかわしてくれたから、私は今無傷で済んでいる。
もしあれがなかったら致命傷だっただろう。
「あ、はい。ほんと助かりました。正直やばかったかも。ありがとう、ございます」
あの2人。
自由の騎士団って言ったっけ。
強かった。
これが人間の最大戦力。
私1人で撃退できると思ってたけど甘かった。
2対1じゃ勝ち目がないことはよく分かった。
だけど、こっちにもSランク相当の魔獣2匹の加勢がある。
これなら充分に勝機はあるはず。
十字架ピアスの男がまたしても突っ込んでくる。
バーナードが前に立ち、炎の翼を大鎌にぶつけた。
予想どおり、バーナードの炎は、ビアスの男の鋭い一撃を通さない。
初めて見る者にとっては衝撃的な光景なはずだ。
炎に物理的な攻撃を受け止める性質などないのだから。
炎は、大鎌を受け止めた後、タナトスごと弾き飛ばす。
「うっそ。どうなってるの?その炎」
案の定、タナトスも不思議そうな顔をしている。
…いや、あの顔は不思議というよりも好奇心でワクワクしてる顔だ。
このタナトスってやつ、思った通り相当な変わり者だ。
「エル・ファイア!」
バーナードはすかさず翼の炎から火炎の攻撃魔法を発射した。
それは炎上網となり、人間達を閉じ込める。
ナイスです。バーナードさん。これで少しは時間ができるはず。
「さて、どうしましょうか?」
生け捕りにしろと主から命令がある以上、必要な相談だ。
バーナードも同じことを思ったからこそ炎上網で時間を稼いだのだろう。
「真蜘羅様の命令は2つ。
人的、いえ魔獣的被害を最小限に抑える事です。
それと人間が攻めてきた場合は生け捕りにする事」
マナフが2本の指を立てる。
「えぇ~。あれ相手に生け捕りはクソ難しくないっすか?そりゃフェルミナ様は人間が好きな方ですし、できたらいいなぁとはおもうっすけど」
バーナードが嫌そうな顔で返答する。
やっぱりバーナードさんもそう思うんですね、と紫苑は心の中で共感した。
敵の強さもまた尋常ではない。
正直、紫苑も生け捕りの余裕はないのではないかと思っていた。
「いえ、おそらく生け捕りはセレーネ様が言い出した命令でしょう。あの方はそういう方です。ですから、我が主の計画のためにもご協力いただけると幸いです」
マナフが深々と頭を下げる。
自身の主の命令に対し、妥協する気は一切ないようだ。相変わらず真面目な奴である。
「そりゃもちろん四王様方の命令は絶対っすから。従いますけど…結構きついのも事実なんっすよねぇ。あ、そうだ。ディアボロスさんはどうっすか?彼が加わってくれたら」
魔獣四王の配下の中で最強だと話したことを思い出す。
だが、辺りを見渡してもあの悪魔の姿は見えなかった。
「…いない…ですね」
この状況でこないのだ。恐らく来る気はないのだろう。
「いったいどういうつもりっすか!?あ!も、もしかして逃げたんじゃ。これだから悪魔なんて信頼ならないんっすよ」
バーナードが苦々し気に言う。
「彼の実力なら逃げるということは考えづらいんですが…なんにせよ加勢は期待できそうにありませんね」
マナフが溜息をつく。
「まじっすかぁ。私たちだけでやるしかないんですねぇ。マジだるいっす」
その時。
バーナードが張った炎上網が吹き飛ばされた。
前に出たのは大鎌を振り回すタナトスとその後ろからついてくるモアだ。
炎上網はタナトスが鎌を振り回し生まれた風で吹き飛ばされたのだろう。
さながら鎌鼬だ。
敵2人の背後には一万ほど人間の軍勢がいるが、ずっと待機している。動く様子は今もない。
どういうつもりか知らないが、そこは好都合だ。
雑兵が何人攻めてきても、S級魔獣である3匹にとっては、問題がない。
だが、配下の魔獣たちの間の被害は大きくなるだろう。
その場合、被害を出さない、という命令を達成できない。
まったく、ひどい無茶ぶりだと紫苑は改めて思う。
「…もう、ですか」
こんなに早く炎上網を突破されるとは思っていなかった。あれは相当な魔力が込められていた。
火力も相当だったはずだ。
「やるしかない…っすね」
「そうですね。作戦をまとめますよ。ひとまずあちらは手勢を使わない様子。自由の騎士団のお2人を分断するというバーナード氏の作戦で行きましょう。バーナード氏はタナトスの相手をお願いします。私はモアを。シオン氏は幻術で私とバーナード氏の援護をお願いします」
「了解っす!」
「…りょ、了解…です」
確かにマナフの判断通り、タナトスの相手はバーナードが適任だろう。
タナトスを真正面から止められるのはこの中じゃバーナードさんだけだし。
私もマナフさんも搦め手で戦うタイプだから。
逆にモアとかいう男の相手は私たちの方が適任だ。
そうして、再び戦いが始まる。
例のごとく初めに突っ込んでくるのはタナトスだった。こいつ猪かと心の中で突っ込みを入れる。
そうなれば止めるのは。
「私の役目っすねぇ」
バーナードは両腕に炎を大きく展開してタナトスに突っ込む。
ガキィンと鈍い音がして、タナトスの大鎌とバーナードの炎の翼が交差した。
「やっぱりいいね。君のその羽。切り落としたくなる♪」
ニヤリと大きく笑い、嬉しそうにタナトスが言う。
あ、こいつやっぱり変態の部類だ、と紫苑は思った。
「やってみるといいっすよぉ」
バーナードも笑い返し、さらに翼の炎の勢いを増やした。
クルンとバーナードは空中で一回転してそのまま蹴りを繰り出す。
空中でのかかと落としだ
辛うじてタナトスは大鎌の長い柄でその蹴りを防御した。
蹴りの勢いに飛ばされてタナトスは後ろに吹っ飛んでいく。
流石鳥系の魔獣なだけはある。空中戦じゃ絶対負けないな。
「要はパワーがたりねぇんだろ」
モアが魔法の杖を片手に取り、タナトスに駆け寄ろうとする。
そのセリフからおそらく、バーナードの炎を打ち破るため、タナトスの攻撃力を上げる高位バフ魔法をかけるつもりだ。
「おっと、行かせませんよ」
マナフがモアの進行方向に陣取り、行く手を遮った。
モアは、足を止めてマナフとの間合いを保った。
「ちっ、どけよ」
悪態をついたが、モアは動けないでいるようだ。
よし!分断完了。あとは私の幻術で。
「タナトス!!」
紫苑がそう思ったとき、モアが叫び声をあげた。
「おっけー。まかせろい!」
バーナードとの衝突を躱し、タナトスが今度はマナフの方に突っ込んできたのだ。
やられた!!
タナトスはバーナードに攻撃するふりをして、彼女を身構えさせ、動きを止めた隙に抜き去ったのだ。
うまい、と紫苑は思う。
「ごめん、そっち行かれたっす!!」
バーナーとが大声で叫ぶ
しまった。分断したつもりが、こっちが分断された。
今マナフはモアとタナトスに挟まれている形だ。
正面にモア。後ろにタナトス。
この挟み撃ちの攻撃をかわすのは至難の業だ。
「マ、マナフさんっ!逃げて!!」
紫苑は叫ぶ。
「まずは一匹だね」
舌なめずりをし、タナトスが大鎌を構えてマナフに飛び掛かった。
モアも杖を構え、魔法を唱えようとしている。
だが、マナフは表情を変えなかった。
「甘いですよ。このシチュエーションはまだ」
マナフは人間の体を液体のスライム形態に変える。
まさに流水のごとくしなやかな動きで液体はタナトスとマナフの間を潜り抜け、タナトスの鎌の一撃とモアの土魔法の攻撃を躱した。
「データ上、予測の範囲内です」
「うぇ、当たんねぇ」
「ちっ!ちょろちょろと」
タナトスとマナフが再度攻撃を繰り出すも、マナフは全て躱しきった。
「すばしっこいだけではありませんよ」
マナフが通り去った水の軌跡。その中にバチバチと光る何かが置き去りにされていた。
「やばっ!」
「くっ」
それは雷の魔法だった。エル・エレクトロ。人間たちが使う魔法だ。
これはマナフの魔法というより、さっきマナフが生命力を吸い取った人間たちの魔法か。
スライム王セレーネの側近、スカルスライム・マナフの能力は解析。
自身の体で飲み込んだ相手を解析して、能力をコピーできる力だ。
といってもコピーできるのは、マナフ自身が使える可能性がある能力だけだ。
例えば真蜘羅様の糸の生成能力のように、生まれつきの身体の機能に由来する能力をコピーすることはできない。
だが、魔力と技術次第で使用可能な能力であれば、いくらでもコピーできる。
例えそれが人間の魔法であったとしても。
そもそも人間の魔法は魔獣にも習得できる。
火、風、土、水、雷と使用者の適正問題はあるが、マナフは関係なくコピーできるらしい。
人間の魔法を魔獣が使えない理由は、その技術を魔獣という知能の劣る存在が再現できないからだ。
だが、Sランクレベルの高度な知能がある魔獣ならば、理論上人間の魔法を行使できる。
ちなみに、先程バーナードが先程使った炎上網も人間の火属性の魔法だ。
そんな魔法技術のある魔獣は規格外だと言わざるを得ないが。
人間マニアのフェルミナの部下だからという面が大きいのだろう。
マナフがコピーした雷魔法、エル・エレクトロが広範囲で放電した。
避けきれず、電撃が2人の自由の騎士団に直撃する。
「く」
「ぐっ」
自由の騎士団2人は苦痛に顔を歪める。
「やった」
「まだまだっす!」
追撃にバーナードが燃える右翼を前に振りかざした。
すると翼から大きな炎が燃え広がり、タナトスとモアのある場所を広範囲で燃やし尽くそうとする。
業火が天高く燃え上がり、確実に中の2人を撃退したと思われた。でも。
「ちょ、ちょっと。やりすぎじゃ。生捕りって命令が」
「大丈夫っすよ。こいつら鬼強いっすから、このくらいがちょうどいいくらいっす」
確かにこいつらは強かったけど、でも人間だ。
人間の弱点はその耐久力の低さ。本当に大丈夫だろうか。
そこにあるすべてを焼き尽くす勢いで炎は燃え盛っていた。
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