34話.同盟
※フェルミナ視点です。
「ふわふわぁ」
領主だというカイルに案内された個室にある大きなベッドにダイブし、オルは気持ちよさそうに枕を抱いている。
その無邪気な姿は小動物を連想させた。
おそらく、オルは普段から洞窟でくらしているため、このような柔らかいベットで寝るといった経験は少ないのだろう。
どこか物珍しそうにしていたオルの姿を見て、そんなことを想像した。
ちなみに、オルの唯一の部下、執事ディアボロスはその洞窟をさらに掘り進めて大きな部屋を作り、優雅に暮らしているらしい。
無断で部屋に入ろうとすると怒られるのだとオルはぼやいていたが、あの二人の主従関係はどうなっているのやら。
「や、諸君、部屋は気に入ってくれたかな?」
その時ノックをしてはいってきたのはセレーネだ。
「いつからこの部屋はあなたのものになったのかしら」
「同盟を組んだ相手の部屋なんだから私の部屋みたいなものだし?」
「はぁ、セレーネってずうずうしいとこあるわよね。まぁいいわ。で?その同盟っていうの、今度こそ教えてくれるかしら」
洞窟では教えてもらえなかったことを聞く。
おそらくセレーネのこの行動は行き当たりばったりではなく、ずっと前から計画していたことだろう。
今回の魔獣四王が集まった同窓会。
私は昔の仲間と再開する以上の目的は持っていない。多分他の2匹も。
だけどセレーネはおそらく違う。
私たち4匹が集まることで起こる変化を利用して何かを企んでいる。
どういうつもりなのよ。セレーネ。なんで私たちを頼ってくれないの?
その言葉がでかかっては喉の奥に消えた。
「うーん、今マクラいないしねぇ。皆がそろってからの方が」
「そうそう、そのマクラはどこにいったのよ?」
そういえば忘れていた。
あの性悪娘は何をしているのやら。
「あー、どうにも私たちの古城に敵襲があったらしくて、昨日帰ったよ」
「え!?敵襲?大丈夫かしら。私たちも帰った方がいいんじゃ」
「大丈夫でしょ。マクラが行ったんだし」
「古城にはディアボロスがいるし大丈夫だと思うぞ」
オルがベットに寝そべりながら言う。
オルの部下ディアボロスはただの執事ではなく悪魔だ。それも最上位の。
強さは間違いなくSランク相当はあるだろう。しかもクラーケンくらいなら一人で難なくひねる潰せるくらい上位のだ。
正直悪魔と聞くとあまりいいイメージはないが、オルが信頼しているのだし、そこは心配ないのだろう。
それに、古城には私の右腕であるバーナードを連れてきている。
当然彼女もSランクの魔獣だ。
セレーネとマクラもそれぞれ右腕の魔獣を連れてきているそうだ。
流石に大丈夫か。
「連絡がないのは気になるけどね。それよりフェルミナは良かったの?」
「え?」
「ほら、あの騎士の彼女。あの場じゃ引き下がってくれたけど」
「…後でちゃんと話し合いはしたほうがよさそうよねぇ」
その時、私たちの会話に割り込むものがいた。
「そういうことなら同盟の話を先にしておこうか」
コンコンとノックをして部屋に入ってきていったその人物はこの館の主、カイルだった。
「同盟というより、取引のほうが近いかな」
「取引?」
「そ、まぁ簡単に言うと先日古城に集まった魔獣四王連合と私たちセントラルフィリアという都市で協力関係を組みましょうってことだ。
そちらは私たちの都市を襲わないこと。それだけじゃなく、私たちの都市に危機が迫ったときは援助すること。こちらは魔獣四王が人間に敵意はないと世間に訴えることが主な取引内容だ」
「そういうこと。だからあなたはこの話を飲んだのね」
合点がいったわ。
いくら懐が広かったとしても魔獣と同盟を組むなんて前代未聞だし。
クラーケン騒ぎのようなことがあったんじゃ、その判断もなしではない。
これ以上の国の援護は期待できないだろうし。
「どういうこと?フェルミナ」
オルは不思議そうにしている。
まぁ、オルはこういう政ごとの類は苦手でしょうね。
「この都市が衰退した理由って魔獣四王がここの近くで集まっちゃったことでしょ。でも私たちと組めば、その脅威が綺麗さっぱり無くなるってわけ。それどころか、世界一安全が保障される街になるわ。今まだ離れていった人たちも戻ってくるかもね。ま、課題は人間側からしたら私達が協定を守る保障が一切ないってとこだろうけど」
「まぁ、そうなんだけどね。結局書面とか書いても私達がそれを守る保障がないことに変わりはないし。そこは、信じてもらうしかないかな」
セレーネが言う。
「もちろん信じるとも。君たちは都市の、息子の恩人だ。それとセレーネ君の話に付け加えると、もう一つの締約。実際に危機に面した時、守ってもらえることも私たちにとってはかなり大きいのだよ。今回のクラーケン騒動のように、この都市の衰退を機に攻め入ってくる魔獣がいるかもしれない。リアくんのような強者がいつも都合がつくとも限らないしね。こちらは一つめの条件と違って実績が残る。私たちを守ってくれるんだろう?セレーネ君」
「もちろん」
「結構。そこで、リアくんに相談があるんだ。だから、同席してもらったのだよ」
領主の後ろに立っていたのはリアだった。
その表情から彼女の考えを読み取ることはできなかった。
洞窟でのやり取りを思い出す。
◇◇
「その話、私も混ぜてもらってもいいかしら」
彼女が怪我を押し除けて、あそこまで来たことには驚いたものだ。
「リア!あなた、傷はもういいの?」
「ええ」
嘘だ。
いくらヒールで回復してもらってるといっても、そんなにすぐに治るような傷ではなかった筈。
無理をしているに違いない。
「そんなことよりフェルちゃんあなた、魔獣ね」
「……」
「あの羽に心当たりがあるわ。フェルちゃん。いえ、
怪鳥王フェルミナ」
「ええ、そうよ」
リアの顔が少しこわばったのが分かった。
「やっぱり。正直、直接聞くまでは信じられなかったけど」
「それで?私が魔獣と知ってどうするのかしら?次は私に剣を向ける?」
「…ひとつだけ聞かせて。あなたは私たち人間をどうするつもりなの?」
「…何もしないわ。ただ助けたかっただけ。私は人間が好きだから。その理由に一切の嘘偽りはない」
「…そう、なのね。分かったわ」
私の返答を聞き、リアが全身の力を抜いたのが分かった。
そんな彼女の様子をみてオルも警戒を解く。
私が魔獣だと知ってリアが剣に手を取り切り掛かって来ると思ったのだろう。
あっさりと引き下がったリアを見てオルは驚いた顔をしている。
その様子を見ると、13年前に私やセレーネ、マクラを魔獣として受け入れてくれた人たちの事を思い出してなんだか懐かしくなった。
あの時は私たちも驚いたものだ。
「もう私からはいいわ。邪魔してごめんなさい。カイル様もすみませんでした。失礼します」
「いや、待ってくれこれから彼らを屋敷に招待するところなんだ。戦闘のあとで悪いが君も同席してくれないかな」
「ちょっと、リアはもうボロボロで」
「いえ、かしこまりました。是非同席させてください」
リアはフェルミナの言葉を遮り、すぐに承諾した。
◇◇
そうして、リアも今この屋敷にいるというわけだ。
「怪我をしているというのにすまないな」
「いえ、問題ありません」
リアは顔色1つ変えずに言う。かなり無理をしているだろうに、相当な精神力だ。
「この同盟を公式に発表したいと思っているんだ。その際、今回の私の息子、ロイド・エル・ハートブルク誘拐事件の解決とクラーケン襲撃事件の解決。この二つの騒動に、魔獣四王が大きく貢献してくれたと発表したい。どうかね。クラーケン討伐隊隊長、リア殿」
「ちょっと、それはダメよ」
カイルが言っているのは、クラーケン討伐の手柄を私たち魔獣四王に渡すような行為だ。
そんなことしたら、リアのクラーケン討伐伝説が霞んじゃうでしょ。
カイルが驚いたような顔をする。
「意外だな。お互いの利を考えた上での提案のつもりだったんだが。何か断る理由があるなら聞かせてくれないか?」
「別に。コルニクスランドの王として、人間と組むことを決めかねてるだけよ」
カイルは困った顔で顔に手を当てて考え込む。
「これはセレーネ君が言っていたことなんだが、私は」
セレーネは手でカイルの言葉を遮り、私から言うよとつぶやいた。
「皆んな……私は魔獣四王共同で新しい国を作りたいと考えている」
セレーネの予想外の提案に私は目を見開いた。
「それって」
「うん、あの古城を中心にして、魔獣四王とその配下。人間。そして、他の全ての種族が手を取れるような国」
「この話はほかの魔獣四王の同意が取れてから、とセレーネ君は言っていた。建国の場合、あの古城周辺の土地を正式に君達に譲渡しよう。この同盟が続く限りはね。もちろん建国自体を君たちが拒否する場合はこの話はなしだ」
カイルがセレーネの話を補足した。
建国。それが目的だったのね。セレーネ。
おそらくセレーネの建国の目的はモデルケースの作成だろう。
そして、この案を考えたきっかけは多分ルナの…
「私はいいよ。どうせ反対する部下もいないし」
オルが軽い口調で言う。
国を持っていないオルにとっては、面白そうなことくらいの認識なのだろう。
けど、私とマクラはそうはいかない。
国に住む魔獣たちの安全を守る義務があるのだから。
だが、セレーネがルナの夢の手伝いをするつもりなら、無下にもできない。
逡巡の思考のあと、私は溜息をついた。
「…ハァ、セレーネが言うなら仕方ないわね。私もいいわよ………ふふ、それに人間と交流できる場があれば人間グッズの生産も捗るわ」
決めたからには、思考を切り替えて、この同盟を最大限利用してやるわ。国の発展のためにね。
「ちょ、ちょっとあなたたち。カイル様も。正気なんですか!?人と魔獣が共存するなんてそんなことできるわけ」
先程から様子を見ていたリアがたまらずと言った顔で異を唱える。
確かに人間が魔獣を受け入れるなんてありえない選択だろう。
リアはいい子だけど、その考えを受け入れられないのは理解できる。
だけど、前例はあるのよねぇ。
「私は本気よ」
リアをじっと見て、告げる。
「それが私たちの夢。そしてあなたの主様、ルナ王女が1番望む世界だから」
魔獣と人間が共に手を取り合う。
そんな世界をルナはずっと再現したかったのだろう。
多分私たちと旅をしていた時からずっと。
そして、セレーネは今、それを叶えようとしているのだ。
読んでくださりありがとうございます。
次回更新は6月16(金)20:00です。
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