33話.セントラルフィリアの領主
※オル視点です。
「…なに?今の演出?びしょびしょなんだけど」
セレーネが現れてから第一声を恨めしそうに言ったのはフェルミナだった。
セレーネがスライムの体でフェルミナごとロイを回復してしまったせいでフェルミナはずぶ濡れだ。
私のポーション空だし。自分のあるでしょ、とぼやいている。
「ごめん、盛り上げようとおもってさ。皆と再会した時もすべっちゃったし」
セレーネは悪びれもせず、笑いながら言う。
「バカ演出家」
納得いかなそうにじっとりした目でフェルミナはセレーネをみつける。
「そんな事より、ロイは?」
フェルミナの上で横たわっていたロイの様子を見ると、外傷は完全に消えており、気持ちよさそうに寝ている。
「はーあ、よかったぁ」
これで一安心だと思うと一気に肩の力が抜けた。
「だから、私が何とかするって言ったでしょ。でも危なかったよ。オル逆鱗発動ギリギリって感じだったし。そしたらロイド君も巻き込まれてたよ」
「う…ん、ごめん。助かった」
「ほんとよ。オル、あなた、感情に任せて暴れまわる癖はもうやめなさい」
そこは本当に申し訳ないと思う。感情のコントロールって本当に難しい。
「まぁでもなんとかなったんだし。オルに私の声が届いてよかったよ。マクラに通信用の糸貰っといたのは正解だったね」
そういって、セレーネが私の方をみて糸を救う仕草をしてウインクをする。
マクラの糸を私たち魔獣四王は耳につけていた。
この糸は、目には見えないほど細いが、音の振動を糸を通して私たちの耳に伝えてくれる。この糸は例え何十、何百キロ離れてようと伸びるし、何かにぶつかろうと切れずに空中を漂うだけ。ぶつかったものが生き物だったとしても気づくことはない。
遠距離通信を可能にする優れものだ。
「いや、ロイド君に何かあったら私も彼に合わせる顔がなかったし本当に良かった良かった」
「「彼?」」
セレーネの言う彼が誰か分からずに私とフェルミナは顔を見合わせる。
「ロイドッ!!」
その時、洞窟の外から一人の男性がこちらに駆け寄ってきた。
華やかなローブと重厚な宝石が施されたクレスト(紋章)を刻まれた優美な衣服を身にまとった男だ。その恰好からは、その男が、貴族クラスの地位にあることが容易に想像できた。
だが、その必死の形相は貴族の立ち振る舞いとはかけ離れたものだった。
「誰?」
私はセレーネに尋ねる。
「ん?ロイド君の父にして、この街の領主さま、カイル・エル・ハートブルクさん」
「え!ロイの父さん!?えっとロイド君にはいつもお世話になっております、だっけ」
私はルナの敬語を真似して初対面の目上の人に会う態度をする。
「…君は」
ロイの父は目を細めてこちらを見た。
「あ、えっと」
「竜王オルゴラズベリーくんだね」
「え!?」
バレてるし。だったら話は早い…けどいいの?
セレーネの方を見ている。この人が私のことを知っているとしたら話したのはセレーネだろう。
というか、私みたいな魔獣が自分の子供と一緒にいたって分かったらこの人はどんな反応をするんだろう。
カイルはじっと私の事を見つめている。
だが、彼が次に発した言葉は私の予想とはかけ離れたものだった。
「ありがとう」
「へ?」
「話はセレーネくんから聞いている。誘拐された息子を助けてくれたって。感謝してもしきれない。礼を言うよ」
そういってカイルは私の頭に手をのせて撫でた。
その真っすぐな瞳から私の予想に反してカイルは私を魔獣ではなく、私としてみてくれていることが分かった。
正直狂暴な魔獣扱いされて、拒絶されると思っていたのに。
「それに、息子とも仲良くしてくれてるんだって?気難しい所もある息子だと思うが、できればこれからも仲良くしてくれると嬉しい」
「…変なの」
私が魔獣と分かってその態度って。
こんな人間もいるんだ。
ロイの父親っていうのも納得かも。
この街に着いた時、人間たちは私たちを勝手に怖がって、拒絶していた。
ロイは皆が怖がっているのは知らないからだって言ってたっけ。
セレーネと話して私たちの事知ってもらえたってことなのかな。知ってもらえれば、人間とも仲良くなれるってことなのかな。
セレーネの方を見ると、笑って親指を上げていた。
いくらセレーネでもなんでもお見通して態度がちょっとムカついく。
私はフンとそっぽを向いた。
「それと、君のことも聞いている。フェルミナ君、であっているかな?」
「ちょっと!私のことも話したわけ?セレーネ」
「えへへ」
セレーネはフェルミナ睨まれ、笑ってごまかした。
「そう責めないでやってくれ。君たちに敵意はないよ。君がクラーケン討伐に助力してくれたことも聞いている。ありがとう」
「ずいぶん変わったお方ね。普通そこは怯え慌てふためくとこよ。魔獣の危険度なめすぎじゃないかしら」
「はは、変わってるとはよく言われるよ。もちろん魔獣の危険性は重々承知している。意思疎通が取れて、詐欺師のように狡猾なやつがいることも。ただ、君たちは違うんだろう?」
「本当に変わった方ね。いつかその狡猾な魔獣にしてやられないように気を付けなさい。ここにはいないけど特にマクラって子は危ないわよ」
「肝に銘じておこう。だが、私はそこにいるセレーネ君と話して君たちのことは信頼すると決めた。だから、できれば友好的な関係を築いていきたいと思っている。さっそく、私の家に招待したいと思っているのだが、どうかな?」
「あなたの家に?なぜ?」
「おや?セレーネ君から何も聞いていないのかい?」
カイルの言う通り何も聞いていなかったため、私もフェルミナもセレーネに視線をやった。
「お、カイルさん、さっきの話オッケーってことでOK?」
「ああ、この目で見たからね。息子を救ってくれたところも、クラーケンを倒すために尽力してくれたところも」
「そっか、よかったー」
「そうだね。いうのを忘れてました。ごめんね。驚くかなーって思ってこ~の~た~び~、なんと私たち、魔獣四王とこの都市セントラルフィリアは、同盟を組むことになりました!!パチパチパチ、イエーイ!」
「「…」」
しばらく洞窟のなかに沈黙が流れる。
あれ、またすべった?、とつぶやいて
セレーネは困惑した顔で首をかしげているが、それどころではない。
「「はぁ!!??どうめい!!??」」
私とフェルミナは顔を見合わせ、同時に大声で言う。
「しかも、魔獣四王とっていったわよね!ね?ってことは私のコルニクスランドとも同盟が組まれたってことになるんじゃない!?王の知らないところで勝手に決めないでよ!」
「ま、私は関係ないけどね」
ノリでリアクションしちゃったけどどうせ国なんてないし、と私は付け足した。
私は他3匹の魔獣四王と違って国なんて持ってない。
「あ、あ~、そういうことになちゃうかもだけど、大丈夫だよ。詳しくはカイルの家にいってから」
だが、事態はもっとややこしくなりそうな予感を孕んでいた。
「その話、私も混ぜてもらってもいいかしら」
そこに立っていたのは、鎧を着た女性の騎士だった。
多分フェルミナがお気に入りだって言ってた騎士さんかな?
確か名前はリアだっけ。
マクラの糸で会話していた時の事を思い出す。
なんだか修羅場の予感。
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