27話.フェルミナの冒険⑥ : 英雄
※リア目線です。
「この前の模擬戦、私、あれで勝ったとは思ってないから」
フェルミナ納得していないことを模擬試験の結果だと言った。リアが魔法剣を使ったことで反則負けになってしまった試合のことだ。
あの時、リアはフェルミの剣を弾き飛ばした。実際にリアが行ったことは反則なのでリア自身は納得していたが、フェルミの中では違うということだろう。
確かに不完全燃焼な決着だった。とはいえ、フェルミが得意な戦法は徒手空拳だという。
そんな相手に剣でまた勝負してもね。
再戦には気が乗らなかった。
だがリアの考えなどお構いなしにフェルミは話を続けた。
「クラーケンにトドメを刺した方が、勝ちっていうのも違うと思うから、ルールを決めましょう。足8本と考えて、1本につき10ポイント。本体にトドメを刺したら30ポイントとしましょう。トドメじゃなくても致命傷なら20ポイント。お互い妨害はなし。作戦の邪魔もなし」
今度はクラーケンに与えるダメージの多さで勝負をしたいらしい。
「ちょっと、まだやるとは」
流石に他の皆も命をかけてここに来たのにそんな勝負なんてやってる場合じゃない。
「あら、怖気付いたのかしら」
クスりと上品に笑い、憎たらしい顔でフェルミナが挑発するように言ったのだ。
…へぇ、そう。そういうこと言っちゃうんだ。いや、分かってるわよ。安い挑発だって。けど、どっちがクラーケンを倒すか勝負って剣でってことでしょ。流石に戦士系の人に剣で舐められるわけにはいかないわよ。
「いいわ。のってあげる」
「え〜、リアさん。本当にいいんですかぁ?リアさんリーダーですし、作戦に影響が出るんじゃ」
近くで会話を聞いていた冒険者、ユウくんが心配したような困ったような顔で言う。
彼はこう見えて冒険者としては私の先輩だ。
私が冒険者になったのは3年前。
その時はユウくんもかけ出しだったが、私より先に冒険者としての仕事に従事していた事には変わりない。
実際冒険者の気構えの部分について、よく教えてくれたものだ。
逆にユウくんも私を慕ってくれている。
今回のクラーケン討伐作戦にも積極的に参加してくれてた。駆け出しから3年、必死に努力して今ではA級冒険者だ。
駆け出し冒険者が3年でA級まで駆け上がるというのは滅多にない。
3年前、彼はお世辞にも強いとは言えなかった。
それが今ではクラーケン討伐の重要な任まで任せられるようになるなんてね。
私も教えてもらったお礼に剣を教えたりしたから、なんだか感慨深いわ。
「大丈夫よ。私1人で戦うわけじゃないからね」
頼りにしてるからね、と言ってユウくんに笑いかけると、照れ臭さそうにユウくんは、顔をそらした。
恥ずかしかっただろうか。相変わらずカワイイ反応だ。
私は再びフェルミの方に向き直った。
「フェルミちゃん、いいのかしら?剣の勝負で負ける気はないわよ」
「いいわね。また面白くなってきたわ」
フェルミが嬉しそうに言う。
フェルミに言ったように剣の勝負じゃ誰にも負けられない。この剣を受け継いだ瞬間から私の人生は全て剣に捧げてきたのだから。
ヴァイロン家に代々受け継がれる名剣、ミステルテインを見つめながらリアは改めて決意を決める。
剣でも負けないし、クラーケンも倒す。ヴァイロン家の名に誓って。
私の気持ちに呼応するように、ミステルテインの刀身が眩しく輝いた気がした。
◇◇
先ずは一本目。フェルミとほぼ同時のタイミングでクラーケンの足を切り落とした。
海に落ちる前に、蛸足に捕まっていた冒険者を抱え、風魔法を足から噴出し、推進力で船に戻る。
フェルミはどうやって戻るのかしらと気になり、彼女の方を見る。
すると、切れた蛸足の平面を足場がわりにジャンプし、船に戻っていた。
あんなことできるなんてやっぱりとんでもない身体能力ね。
「今のは私の得点でしょ!!」
「いーえ、私のよ」
私の主張にフェルミは食い下がってくる。
「ユウくん、どっちだった!?」
「そこの君!どっちだったかしら!?」
私もフェルミも近くにいたユウくんに判定を求めた。
「え〜〜〜!!?そんなこと言われても」
困ったという顔をして、ユウくんは叫んだ。
「私の方が根本を斬ったわ」
フェルミが言った。
私も負けじと言い返す。
「私はもっと早く斬ったし、1人助けたわ」
私とフェルミの剣幕に押されて、ユウくんは答える。
「じゃ、じゃあお互い5ポイントずつでいいんじゃないですか?」
ユウくんの提案に私もフェルミも不満気な顔をした。
「ユウくん、そういうのはどうかと思う」
「え?」
「君!、優柔不断はモテないわよ」
「え、なんかごめんなさい」
ユウくんの迫真のリアクションにクスリと笑いつつ、クラーケンに向き直る。
勝負、ね。本当はこんな時に良くないけど、確かに気持ちが乗るわ。
もちろん、勝負などしなくても当然集中してたが、それでもやって良かったかもしれないと思う。
真面目に戦うことで、確かに作戦により集中できる。だが、それでは戦い方が保守的になってしまう。この前の模擬戦で気づかせてもらった悪癖をまた繰り返すところだった。競うという遊びを入れることで、アイデアが膨らみより攻撃に集中できるとしたら、意外とありかもしれない。
メンタルっていうのは難しいものね。
先程まで憂鬱気味だった身としては、余計にそう思う。
さて、いよいよ本格的に作戦開始。
勝負よ。フェルちゃん、それにクラーケン!
◇◇
※フェルミナ視点です。
さて、リアの調子も悪くないみたいね。
勝負に負ける気はないが、あくまで、リア達人間をサポートする形で戦おうとフェルミは決めていた。
これはあくまで人間の世界の問題。
魔獣である自分ではなくて、人間のリア達が解決すべきことだ。
ふと、なぜ自分はここまで人間に肩入れしているのかと
疑問に思う。
それはきっと当時のルナと話してきたあの日々が理由なのだろう。
〜13年前〜
当時まだ、私達魔獣四王が最弱だった頃。
私とセレーネ、マクラ、オル、そしてルナと一緒に旅をしていた頃の話だ。
当時夜は野宿か、あの古城で眠ることが多かった。寝る前にルナはよく話を聞かせてくれた。
話の内容は、人間の世界に伝わる騎士や冒険者、そして勇者の英雄譚だ。
初めのうちは全員でルナの話を聞いていた。
だが、オルとマクラはすぐに興味を無くしたのか、話を聞かず先に寝るようになった。
セレーネもルナの話ならば、としばらくは一緒に聞いていたが、そのうち先に寝るようになった。
そうして、その時間だけは私とルナの2人だけのものになった。
私も初めはさほど興味はなかった。だが聞いているうちに、いつしか人間がかっこいいと思えるようになったのだ。
正確には、誰かのために頑張れる人間の意志が。
それは魔獣には決してないものだ。
欲のため、自分のためだけに他者と奪い合い、時には殺し合う。
そんな生物なのだから。
だが、物語に出てくる主人公たちは違った。
そういった英雄と呼ばれる者達は、いつも自らの欲を律する、高潔な人間だ。
彼らはいつも義理堅く、困っている誰かのために、怪物達と戦うのだ。
正直魔獣であるフェルミナには、他者のために何かをする気持ちが全く理解できなかった。
だが、だからといってその考えを突っぱねることはしなかった。
むしろ、興味を持った。
一見矛盾した思考のように見えるかもしれない。フェルミナも、そんな自分の感情を不思議に思ったものだ。
だが、分からないからこそ惹かれることもまた自然な感情なのである。
そんな夜会が続いたある日のこと。
その日もいつものように、ルナが物語を話してくれた。
この世で初めの勇者と呼ばれる人間、
初代勇者と呼ばれる女性の話だった。
その物語は、勇者が魔王を打ち倒す壮大なストーリー…ではなかった。
そういった英雄譚の王道ではなく、その逆、日常がメインの話だった。
日々の中で、初代勇者が如何に慈悲深く、高潔な人物でどのように人々を助けてきたか。
その心情がテーマとして語られていた。
いつもの困難に立ち向かう冒険譚ばかりの勇者の伝記にしては、少し異質だった。
「初代勇者って弱かったのね」
物語を聴き終わって最初に出た感想はそれだった。
私のそのいかにも魔獣らしい解釈にルナは困った顔をして、苦笑いをした。
今思えば、何故そんな浅い感想しか出てこなかったのだろうと少し恥ずかしくなる。
とはいえ、あの当時私はEランクで強さに憧れていた時期だし、しょうがないのかなとも思う。
それに、描写的に初代勇者の弱さが強調されているのもまた事実だった。
物語の中で勇者が最後のクライマックスで倒したのはAランクのモンスターだった。
それ以前でも大抵はB級やC級がほとんど。そんな弱い相手でも何度も悪戦苦闘した描写があった。
人間の水準で考えれば、それで十分に強いといえるが、勇者である彼女の立場を考えると随分と頼りない。
「そうねぇ。確かに初代勇者は弱かったと言われているわ。勇者の中じゃ最弱候補かもね。でも、誰もが彼女を頼ったわ。何故だと思う?」
「さぁ、わからないわ。なんでかしら?」
「それはね、彼女が頼りたくなる人だったから。勇者として特殊な力を持っていたけど、それ以上に、どんなピンチでも何とかしてくれそうな、不思議なカリスマがあったの。事実色んな人に好かれていて、魔獣さえも味方にしていたそうよ」
「そんなこと、ストーリーにはなかったけど」
「魔獣のことは王家にだけ伝えられてる話だからね。あ、内緒よ」
ルナは艶やかな唇に手を当てて言う。
あっさり国の機密らしい情報喋っちゃったわ、この人。
しかも魔獣である私に言うなんて。
「じゃあ、初代勇者は人間たちに求められて仕方なく英雄を演じていたってこと?なんかそれって可哀想ね」
自分の実力に見合わない運命を背負わされること。それはとても辛いことなのではないかとフェルミナは思った。
「そうかもしれないわね。初代勇者の気持ちは私も分からないわ。けど、だから私はこの本が好きだった。私にも通じるものがあるし。きっと彼女は、人々を救うために、実力差に葛藤しながらも、勇気を出したんだってね」
彼女が朗読した本を手に取り、眺めながらどこか寂しさや感慨深さを感じているような顔で言った。
「そうね。だとしたら素敵だと私も思うわ」
私がルナに同調すると、ルナは思いの外嬉しそうに言った。
「そうなの!分かってくれて嬉しいわ。こんな時世だからこそ、誰かを助けるための勇気を出せる真の英雄が必要なのよ。この初代勇者みたいにね」
その一言でルナの言いたいことに私は気づいた。
「勇者が不在、だから?」
この数十年勇者は見つかっていない。
勇者とは、世界に1人だけが授かる称号だ。
先天的に持って生まれ持つ力であるため、天からの恩恵と言ってもいい。
まるで強すぎる魔王に対抗するために、神が人に与えたかのような勇者の称号は、前任の勇者が死ねばまた次の誰かに引き継がれる。それが誰かは、勇者の力が顕現するまで誰にも分からない。
そうして、世界のバランスは保たれてきた。
しかし、この10数年。前任の勇者が死んでから新たな勇者は現れなかった。
人々は長年縋ってきた希望と呼べるものを失ったのだ。
だからこそ、ルナは誰かのために力を振るう、
そんな英雄を求めているのだろう。
「…ええ、そうね。できればあなた達にそういうふうになって欲しいわ。もちろん強制する気は無いけど」
「私たちが魔獣ってこと忘れてない?」
「関係ないわよ。魔獣でも魔族でも。強くなんてなくても。でもそうね。困ってる人がいたら手を差し伸べられる。そんな優しい魔獣になってくれたら嬉しいわ」
「無理ね。魔獣は捻くれ者なのよ」
「いいえ、大丈夫よ。あなたたち、とってもいい子だもの」
ルナは自信たっぷりにそう言った。
◇◇
私が英雄譚に興味を持ったのもその時の話がキッカケだ。ただ、なんの見返りもなく誰かを助ける人間の気持ちが知りたかった。
その気持ちは、正直今もよく分かっていない。
ただそういう考え方が好きだから、分からないまま私は私の中の英雄像をなぞっている。
それが、私が誰かを助ける理由。
今回クラーケン討伐に参加した理由もそういうことだ。
13年の時が経ち、私は強くなった。でも、どこまで強くなっても魔獣である私は英雄になれない。
魔獣は人々にとって恐怖の象徴だから。
けど、そんな私でも英雄の手助けはできる。
リア・エリーゼ・ヴァイロン。
たった1日の付き合いだけど、彼女には誰かのために剣を振るうという強い意志を感じられた。
まるで私が好きな英雄譚に出てくる主人公のように。
リア、もし貴方がそんな英雄なら。前だけ見て進んで欲しい。
そして、大勢の人を救う所を見たい。
私はそんな貴方1人を助けるから。
リアがその決意を胸に、クラーケンに剣を向けるところを見て、
私はそっと微笑んだ。
読んでくださりありがとうございます。
余談ですが、今回の話で出てきたユウくんは本作のスピンオフ、
「ヴァイロン家の少女が探す夢の続き~名家から追放された天才女騎士が最強の冒険者を目指すまでの物語~」
で登場したキャラです。
スピンオフは3年前の話で、その時彼は
駆け出し冒険者だったのですが、頑張ってA級の下位ぐらいの冒険者になりました。
3年という短期間でA級になる冒険者は滅多におらず、今後も成長が楽しみな有望株です。
ちなみにリアは(コネで)1ヶ月くらいで、S級冒険者になりました。
◇◇
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