26話.フェルミナの冒険⑤:海戦開戦
領主の息子ロイド・エル・ハートブルクが誘拐される1時間前。
クラーケン討伐隊はその任を達成すべく、港から出航した。
セントラルフィリアは海に面した港町であり、その沿岸は弧を描くような形をしている。
そのため、上空から見た海面はさながら三日月のようになっていた。
出航した船には30人の冒険者が乗り込んでいる。
リアもフェルミナも船に乗っていた。
その船は老朽化により、劣化しているが、かなりの大型船だ。
この街の領主、カイル・エル・ハートブルクがクラーケン討伐の為なら是非協力したいと言って貸してくれたらしい。
とはいえ、いくら巨大でもこんな古い船であのクラーケンに挑むのは如何なものか、とフェルミナは思う。
クラーケンは、魔獣の中でも特に大型の部類だ。
老朽化した船など、足の一振りで大破してしまうのではないかと危惧した。
そのことをリアに聞くと、どんな船でもクラーケンの前じゃ同じよ、という返答が返ってきた。
領主カイルはもっと丈夫な船を貸してくれるよう進言してくれたらしいが、流石に無償でそんな船は借りられないとギルドマスターであるカジットとリアは断ったようだ。
確かにリアの言う通りクラーケンの前ではどんな船もスナック菓子のように握り潰されて終わりだろう。
だが、それでも耐久時間は船の強度によって変わってくる。
だからより長い時間原型を留められる船の方が好ましいはずだ。
正直私なら船が壊れる損害など、必要な対価だと思うが、リアはとにかく被害を最小限に収めたいらしい。
その点においてリアは妥協する気はないようだった。
この前聞かせてもらったリアの過去の話。
理不尽な事件だとフェルミナは思った。
貴族がそのような横暴な存在だということはフェルミナ自身もよく知っている。
昔の経験からもとてもよく。
だが、リアは、自分が理不尽な目に合ったことよりも、村人を救えなかったことのほうを
引きずっているようだ。
普通の人間ならば、貴族から追放された悲劇に傷心するだろうに。
だが。その考え方からリアの生来の気高さというか正義の心を感じた。
そういう人間の信念は嫌いじゃない。魔獣にはないものだし、応援したくなる。
だけど、強い信念が足かせになるケースがあることもまた、よく知っている。
それで剣が鈍ってしまわないか心配だ。
だからお節介かもしれないけど、ある提案をしてみることにした。
「ねぇ、リア。どっちがクラーケンを倒せるか、勝負しない?」
「え?」
何を言ってるか分からないとでも言いたげな目でリアがこちらを振り返る。
「相手は最強ランクの魔獣よ。流石にそんな余裕は」
「いいじゃない。そっちの方がリアもいい緊張感をもって戦えると思うわよ」
「フェルちゃん、確かに貴方は強いけど舐めすぎよ。相手はS級の」
「分かってるわ。でもあなたなら大丈夫でしょ?それより、私納得いかないことがあるのよね」
「え?」
リアは不思議そうに首を傾げた。
◇◇
船はしばらく海の上を走る。
船が通った軌跡は穏やかな漣が立ち、航海は順調そのものだった。
だが、突然ガクンと船が岩に乗り上げたような衝撃が走る。
あまりに大きな揺れに何人かはバランスを崩し、甲板に手をついていた。
間違いない。奴だ。
とはいえ、こんな陸に近いところで遭遇するなんて。
「クラーケンよ!全員戦闘準備!」
リアが叫ぶ。
冒険者たちもリアの号令よりも先に何が起きたか悟ったのだろう。
号令に呼応して瞬時に動き出した。
フェルミナはリアから聞いたクラーケンの情報を思い出す。
なんでもクラーケンが人を襲う時はまず、船を止めるらしい。
そして、中の人間達を船の中に蛸足を突っ込み、手探りで探し、捉えて喰らう。
船ごと大破させてしまうと、人間が粉々になった船の木片に紛れてしまい、ありつけなくなってしまうからこそのやり方だ。
だから、クラーケンはその船に乗る人間が居なくなるまで、船を壊さない。
リアはその習性を利用して作戦を立てていた。
海面から蛸の足が姿を表し、船の中にその巨大な足を突っ込む。
船が既に劣化している事を理解してか、クラーケンの足の動きに船を壊さないような慎重さを感じる。
だが、それでも充分な速度で蛸足は動き、早速冒険者を1人捉えた。
「うわあああああ」
蛸足に巻きとられた冒険者は、雄叫びを上げる。
だが、そんな悲鳴はお構いなしに、蛸の足は一気に冒険者を船の外へと引きずっていく。
「ファイアボール!」
「ウィンドカッター!」
他の冒険者達が魔法でクラーケンの蛸足を攻撃し、捕まった者を助けようとするが、蛸足はびくともしない。
足の皮が少しただれた程度だ。
人間に例えると薄皮一枚剥けた程度の損傷だろう。
そのまままずは1人目。
一気に捕まった冒険者は外に引っ張り出され、そのまま海に引き摺り込まれようとしている。
その瞬間。
冒険者を捉えていた蛸足がズバッと切り落とされた。
とても巨大な蛸足が2箇所交差して裂け、海に落ちていった。
何が起きたのかと、甲板からどよめきがあがる。
そう。クラーケンの巨大な足は、2人の冒険者によって切り落とされたのだ。
1人はリア・エリーゼ・ヴァイロン、
自由の騎士団と呼ばれる最高位冒険者の一角だ。
「まず1本目。私のポイントね」
リアが言いながら、蛸足から捕まった冒険者を救い出す。
「あら?ノリノリじゃない。けど、今の私のポイントでしょ?」
そして、もう1人が今回飛び入りの初級冒険者フェルミである。
他の冒険者が一斉にフェルミの方を凝視した。
フェルミの強さを信じていなかったものたちが、衝撃を受けたのだ。
「いいえ、私の方が早かったわ」
「へぇ。リアって意外と負けず嫌いなのね」
フェルミナは苦笑する。
クラーケンは、堪らず蛸足を海水に引っ込めた。
軟体動物でも痛みは感じているようだ。
だが、これでクラーケンが終わるとはだれも思っていなかった。
ここからが本番なのだ。
そして、海戦の火蓋は切って落とされた。
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リアのスピンオフ「ヴァイロン家の少女が探す夢の続き~名家から追放された天才女騎士が最強の冒険者を目指すまでの物語~」も投稿してるのでよかったらそちらも是非。




