24話.オルゴラズベリーの借金返済の冒険⑤:バイトをする龍王
※ロイ君視点です。
「じゃあ早速オルには働いてもらいます」
「おー!」
僕の号令にオルは腕を上げた。
思いの外やる気でいてくれているようだ。
やっぱりいい奴だな。こいつ。
だと言うのに、僕はまだ震えを隠している。
最低だ。
先程カフェでの話し合いで、僕はオルと2つのルールを決めた。
1つ目は正体がバレない事。さっきのように口を滑らすなんて言語道断だ。
2つ目は必要以上に力を使わないこと。
目立つのは困るし。それにうっかり街を壊されでもしたら目も当てられない。
その2つについてオルは二つ返事で了承してくれた。
オルに僕やこの街に敵対するような素振りは見られなかった。正体がバレたからといって、力で解決する様子はまったくなかった。
それどころか弱々しい一面すら見せて、一見可愛らしい女の子にしか見えない。
あるいは、それがオルの本質なのかもしれない。
そこまでわかっていて何故こんなにオルを怖いと思ってしまうのか。
いつオルが暴れだすかわからない。
心の奥でそう思ってしまうのだった。
でも、オルを信じてみるべきだという気持ちが強いことも事実だ。
僕は僕の気持ちが分からなかった。
今は結論を後回しにしてなるべく普通に装っている。
いや、実はそれさえ欺瞞で、僕は本当は無意識に魔獣四王オルゴラズベリーを怒らせてはいけないと思っているだけなんじゃないか?
脳裏によぎる思考を振り払う。
今はやめよう。
そうだ。まずは予定通りオルに働いてもらって、
そこで本当に噂通り凶暴な魔獣じゃないのか見極めたらいいじゃないか。
自分の本当の気持ちもその過程で見えてくるはずだ。
こうして、オルとの労働が始まった。
まずは、荷物運びだ。
そういえば、さっきの衝撃の告白で忘れてたけどオルはかなりのポンコツだった筈だ。
仕事できるのか?
それとも、さっきまでは実は道化を演じていた、とかありえるのか?
魔獣四王だし
「みろ!ロイ。私の仕事な振りをっ」
オルは荷物を何十個も積み重ねて持っていた。
「すご」
すごい力だ。
僕が驚いてるのを見て、オルは得意げに胸を逸らした。
あっ、でもよそ見は……
僕の懸念通り、
積み重なった荷物はグラグラと揺れ始め、ドシャッと音を立てて崩れ落ちた。
「こらー!何やってんだー!!」
近くで見ていた大人が怒鳴りつける。
「ごめんなさい!」
「ごめーん」
僕の謝罪にオルの謝罪が重なる。
まったく。やっぱり演技なんかじゃなくて素だな、これは。
僕はオルの評価を初めて会ったときに戻す。
だけど、こっちの方が、さっき迄が演技でしたって言われるより好感が持てる。
無邪気なオルを見ていたら自然と笑みが溢れてきた。
さて、気を取り直して次は皿洗いだ。
この祭り用のエリアでは多くの飲食店のシェフたちが出張して屋台を出している。
他のエリアは魔獣四王の影響で閑散として人がおらず、集客などできないからだ。
だから屋台はこのエリアに集中していた。
そして、ここで使われる皿を洗うことがオルに与えた次の仕事だ。
まぁ、皿洗いくらいなら問題なくできるだろう、と僕は思っていたがそれはケーキよりも甘い考えだった。
「ごめーん、また割っちった。何でわれたんだろーな。ちょっと強く握っただけなのに」
半分に割れた皿を手で持って、オルは不思議そうに言った。
「強くにぎるなっ!!」
結局その後、オルは3枚に1枚は皿を割った。
力加減を気を付けようとしていたことだけは伝わったけど、
これは弁償だな。
僕は呆れの溜息をつく。
次は少し趣向を変えて注文をやらせてみる。力仕事じゃないし、案外うまくいくかもしれないぞ。
そう思っていた僕の考えは、プリンよりも甘かった。
「注文入ったよー。えっとハチミツジュースと、あとなんだっけ?忘れちゃった。ごめん」
「僕がもう一回聞いてくるから、料理を運んどいて」
「おーし、まかせろ」
料理を渡すと、オルはやる気で出て行った。
だが、10秒もしないうちに戻ってきた。
どうしたんだ?
食べ終わった皿がその手に握られている。
もしかして客が食べ終わった皿を回収してきたのか。やるじゃないか。
「ごめん、あんまり美味しそうだからつい食べちゃった」
「賛辞返せ!!」
心の中で思ったことを僕は一瞬で後悔させられる羽目になった。
そうして、夕方、仕事が終わる頃にはもうクタクタだ。
僕も仕事は初めてだったが、
仕事内容よりもオルへのツッコミ疲れた。
オルが破壊した損害でかえって借金増えてるし。
これ金が帰ってくることはあるのだろうか。
まだまだこの債権者と債務者としての関係は続きそうだ。
仕事前に考えていた"オルが実は知恵者な説"なんてとんでもない愚説だ。
とても恐怖なんて感じてる場合じゃなかった。
は〜あ、大体仕事やってて思ったけど、あんな無邪気なやつを怖がれって方がおかしいんだよな。
チラリとオルの方を見る。オルはまだまだ余裕そうな顔をしている。やっぱり体力はすごいようだ。
成果なかったけどな。
けど忙しさが終わった今、やっぱりまだ少し怖さを感じる。
その理由には思い当たることがあった。
親からの教えだ。
僕たち子供は大人から如何に魔王が恐ろしい存在かを教えられて育つ。
曰く魔の王、つまり魔王は世界を滅ぼすべく生まれた天災。
その昔、初代魔王は突如として現れ、
村を踏み潰し、街を薙ぎ払い、都市を燃やし尽くしたと言われている。
その所業の数々が、僕ら人間を未だに恐怖で縛り付けているのだ。
そうして魔王の眷属である魔族は当然恐れられ、
そして、その魔族の祖である魔獣に対しても、人間は強い恐怖を持つようになった。
まして、魔獣四王は現魔王、パンドラに匹敵すると言われる怪物だ。
怖くないはずがない。
今は無邪気でも、いつ豹変するか分からない危険な爆弾。
魔獣は人間の敵という常識が、僕の心を縛っている。
だが直接オルと接することで、いい奴だっと思う自分もいるから、僕は今こんなにも思い悩んでいるのだ。
「ロイ!ロイ?」
オルからの呼び掛けでハッとする。
長考してついうわの空になってしまっていたな。
だけど、そんな中途半端な気持ちで相手に臨むことは、1番やってはいけないことだったと次のオルの発言で気づかされる。
「やっぱ怖い?私のこと?」
「え?」
オルは僕の心の内など、とっくに見透かしていた。
そうだ。こいつは普段おちゃらけてるけど、こういう核心的なことには目ざといんだった。
途端に心臓の音がやけにうるさくなる。
バレた?
どうなる?
怒るのかな。僕のことを見限るのかな。
最悪暴れられる?
いや、それとも……
僕にとって最悪の可能性が脳裏に浮かぶ。
だが、どうやらその最悪の可能性が現実になったと、僕はオルの顔を見て悟った。
気づいてしまったのだ。
今まで見たことのない寂しそうなオルの表情に。
「いや、いいんだ。分かってるさ。人間が魔獣を怖がるのは本能だって。そりゃそうだよなぁ。力が違いすぎるもん。やっぱ、セレーネやルナの夢は無謀なのかなぁ」
オルが笑って言う。でもそれは無理に笑っているだけだってすぐにわかった。
そこには、ただ友達に裏切られたような少女の姿があった。
そして、裏切ったのは……
僕だった。
最悪のケース。それは、オルが本当にいい奴で、僕の余計な恐怖でオルを傷つけてしまうことだ。
やめろよ。そんな顔されたら、
僕が悪いみたいじゃないか。
だが、そこでようやく僕は気づく。
オルが僕と接する時に魔獣と人間なんて垣根を一切気にもしていないことに。
そして、1番それを気にしていたのは僕だった。
そうやって立場を気にして態度を変えられることは、領主の息子である僕が1番嫌いでやって欲しくないことだった。
くそっ!なにやってんだよ。僕は。
そもそも考えてみれば、オルはただ僕に付き合ってくれただけだ。
街の復興を手伝ってくれようとしたし、僕のこともちゃんとロイドとして接してくれた。領主の息子としてじゃなくだ。
そんなやつは今まで1人もいなかったのに。
なのに、そんな相手に対して僕はなんてひどい事をしたんだ。
なんて馬鹿だったんだろう。自分の間違いにオルの悲しそうな顔を見てやっと気づくなんて。
まだ遅くないなら、言わせて欲しい。
まだ怖いけど、
今度こそ、ちゃんと向き合うから。
「オル!ご……」
そこまで言いかけた時だった。
突然何者かに口を塞がれる。
なんだ?一体?
自分の体が浮遊している感覚がする。とてつもない速さで移動してるのだ。なんで。
僕はオルと話し合っていただけのはずなのに!?
「む、ぐ」
口を抑えられ、うまく言葉が出せない。
「はーい!ロイドおぼっちゃまぁ。さっきはフラれてしまいましたが、商談の続き。このあとタップリさせてくださいねぇ」
かろうじて、聞こえる声から、僕を攫った男の正体に行き当たる。
昨日商談を断った怪しい男だ。なぜ彼が!?詐欺師とか?最初から僕を攫うつもりだったのか?
このままでは、父様に迷惑がかかってしまう。
領主の息子として考えるべきは、如何に父に迷惑をかけないようにこの状況を切り抜けるかだった。
そのはずなのに、今はオルに何も言えないままでいることが、
どうしよもなく、胸に杭が刺さるように心に残った。
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