23話.オルゴラズベリーの借金返済の冒険④:魔獣という恐怖
※前回までのオルゴラズベリーの借金返済の冒険のあらすじ
ロイにオルが魔獣四王、龍王オルゴラズベリーであることがばれた。
バレた。
どうしよう。
やばい。
何であんな余計なことを言ってしまったんだろう。
ロイといると、何だか気が緩んでしまう。
自分が頭が良くない自覚はあるが、まさがここまで迂闊だとは思っていなかった。
魔獣四王の一角。
最恐と恐れられた竜王オルゴラズベリーは、街角でただの15歳の少年に問い詰められて、縮こまっていた。
しどろもどろに答える私の様子を見て、ロイはため息をつく。
そして、私を連れてカフェにきた。
そこは街外れにひっそりと佇んでいて、一瞬人がいないと勘違いするくらいガラガラだった。
話し合うのにはうってつけの場所だ。
「で、どういう意味なんだよ。お前が魔獣四王のオルゴラズベリーって」
「い、いや〜、それはなー。なんといいますか。ついうっかり口が滑った?へへっ」
何だか焦って変な口調になってしまった。
「いや急にキャラ違くない!?」
ロイは私の口調にすかさず突っ込んでくる。
スルーせずにいちいち拾ってくるのはロイっぽい。
ってそんなこと考えてる場合じゃないか。
「いやーなんというか、もう笑うしかなくて」
「…じゃあつまり、本当だってことか」
「…うん」
「…‥‥」
「…‥‥」
シュンと肩を縮こませる。
うう、気まずい。こんな気まずい思いは生まれて初めてだ。
私は大抵のことなら気にも留めないが、流石にここまでやらかして、あっけらかんとしているほどアホでもない。
セレーネの計画の邪魔をしてしまったかもしれないと不安になる。
セレーネが何を企んでいるか、それは私にも分かっていない。
だが、13年前の彼女を見ていたら分かる。その計画はセレーネの悲願で、そのためにセレーネにお願いされたことは何でもするつもりだ。だからこそ、その邪魔をすることはあってはならない。
そのためには人間に正体がバレちゃいけない、はずだ。
まして目の前の少年、ロイド・エル・ハートブルクは領主の息子で人間の中でも偉い部類だし、私ら魔獣四王のことを嫌いと言っていたし。
長らく沈黙が続いた。
ロイもあまりに突然のことに何を言えばいいか分からないのだろう。
ふとこういう時、普通の人間はどう思うんだろうかと思う。
驚き?
信じられない?
それとも怖い?
ロイが何を考えているのか、私にはわからなかった。
ただ、何故だろうか。
セレーネとの配慮とは別に、
私自身が怖いと思っている。
私の正体がバレたからといってそれで私の身に危機が起こることなんて100%ないのに。
かつて強くなるために格上に挑みまくったあの時とは全く別種類の怖さを感じるのだ。
恐怖に種類があるというのなら、これは両親に忌子だと言われ、捨てられた時のそれだ。
いや、正確にはその前。
捨てられるのではないか、禁子と言わないでと何度も心の中で祈っていたあの時の。
忌まわしい記憶が蘇る。
「ククッ、何て顔だよ。オル今捨てられた子犬みたいな顔してるぞ」
しかし、ロイはまるで普段と変わらないように軽口をたたく。
「ロイ?」
「いや、ごめん、確かに僕も魔獣四王って聞いて怖かったけど、そんなに萎縮されたら、なんて言うか、オルはやっぱりオルなんだなって思っちゃって。ってついさっき会ったばかりなのに何言ってるんだろうな」
「いや、間違ってないよ。確かに嘘ついちゃってたけど、何があっても私は私だ。だから、その、あんまり気にしないでくれると嬉しい、って難しいか。はは」
「いや、分かったよ。オル」
何でもないことのように言うロイのその様子に安堵する。
「それじゃ、聞かせてくれ。何で君がここにいるのか」
その後、私は包み隠さずロイの質問に答えた。
途中ロイはなんども大袈裟なリアクションをし、その度に話が遮られる。ちなみにこんな感じだ。
「え!?他にも魔獣四王がこの国に!!!???全員集合!?」
「か、観光のため?そんなことで!?」
「ただ仲良いから集まっただけ!!??嘘でしょ。戦争は??ない!?あ、そう。何におびえてたんだろ。僕ら」
「人化の魔法?そんな魔法があるのか!?」
正直ノリが面白い。
なんだか、からかってやりたい衝動に駆られてくる。
やっぱりロイは面白いやつだ。
先程からロイの様子を観察していたが、驚いてはいても、恐怖してる様子は特にない。
私の正体を知ってその態度は逆に大丈夫かと心配になるが。
最後に私はロイに尋ねた。
「なぁ、私たちのこと追い出さないのか?魔獣四王のことは嫌いなんだろ」
「……確かに魔獣四王は嫌いだけど、オルがいいやつってのは分かったから。追い出す必要はないだろ。それに、また忘れてるかもしれないけど、貸したお金、まだ返してもらってない!」
最後の言葉をロイは強調する。
「あはは、そうだった。忘れかけてたわ。ごめん」
「まったく君はホント…」
今まで私の正体を知った人間はみんな恐れおののいて逃げていくのに、ほんと変な奴だ。でも器がデカいのはいい領主の素質なんじゃないかと思う。
「ロイ!あのな」
さっき領主の器じゃないと落ち込んでたし、励ましてやろうかと口を開く。
「あ、ごめん少しお手洗いにいってきていいか?」
だが、ロイは私が声を発する前に、そそくさと席を立ってしまった。
「?」
いいこと言おうとしたのに残念だ。
ま、後で伝えようか。
私はカフェで頼んだジュースをゴクリと飲み干した。
うん、美味しい。
♢♢♢
ロイド視点です。
静まれ、静まれよ!
そう言って手を叩く。
深呼吸をして、やっと膝の震えは止まった。
手の震えもおさまってきた。
はぁ、何やってんだ。僕。
思わずため息をつく。
オルに言った言葉に嘘はない。
僕とさっきまでいた時はオルは常識はないが、すごくいいやつだと思っていた。
しかも、オルの話が正しければ、街の皆が恐れていた原因である魔獣四王の強襲はまずないらしい。
オルの話を聞くほど、僕たち人間はとてつもなく馬鹿馬鹿しい勘違いをしていたのではないかという疑問が湧いてくる。
それに、オルと接して人となりを見て、彼女の言うことこそ正しいのではないかと思えてくる。
なのに、なのにだ。
なぜか恐怖で震えが止まらなかった。
人間は、特に僕ら領主は魔獣の恐ろしさを骨の髄まで刷り込まれているのだ。
まして、魔王と同格の獣なんていったらその怖さは計り知れない。
だから、さっきの一問一答は死を覚悟してた。
それでいて、その事を絶対に悟らせないようにしなければならなかった。
けれど。
そんな僕の心中とは対照的にオルは優しかった。
僕たちは彼女たちを怖いと言ったのに、気さくな態度で向き合ってくれた。
だから、僕たち人間だってまずは先入観を捨て真摯に向き合うべきなのではないだろうか。
魔獣である彼女たちに。
なのに、理性かそれとも本能なのか。体は彼女が魔獣四王である事実にどうしようもなく震えてしまう。
演技をしながらでないととても彼女と向き合える気がしない。
やっぱり僕はどうしようもなくダメなやつだ。
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