21話.セレーネと真蜘羅の過去③
コボルトがスライムの体当たりによって吹き飛ばされた。
残りのコボルトは警戒して、動きを止める。
「あ、あんた。なんで」
なんと、我を助けたのは、我が狩ろうとしたスライムだったのだ。
さっきまで敵だった相手なのに、なんで。
困惑していると、スライムはピョコンと飛び跳ねてこちらを見る。
その顔はなぜか不機嫌そうに見えた。
「だってこいつらむかつくし」
そう言ってスライムは再び、コボルトたちに向き直る。
「へ?」
予想外の言葉にさらに困惑が深まる。
「これは私と君と勝負だったんだよ。私の初めての勝ちだった。なのに、勝負がついたところを狙ってくるとか、ほんとないわ。私の勝ちを汚されたみたいでむかつく」
その声には、純粋な怒りを感じた。
その様子にこのスライムの今までの苦労を感じた。最弱故の苦労。
それは、この蜘蛛にしかわからない事だろう。
彼女もその弱さ故に、真っ向から勝てず、
試行錯誤に試行錯誤を重ね、やっと今の戦い方を見出したのだから。
グサリとスライムの言葉が真蜘羅の心に刺さる。
なんて綺麗な目をするんやろ。この子は。
と同時に後ろめたい気持ちに襲われた。
ごめんなさい。我も似たような漁夫の利的な戦法は今までたくさんやってました。
それはもうやめます。
確かに、これは気持ちええもんやないな。
蜘蛛はそう心の中で誓う。
グルルとコボルトが唸り始めた。
攻撃を再開するつもりだろう。
「来るよ。動ける?えっと」
「…我の名前は真蜘羅や。よろしゅうな。スライムはん。正直動けへんけど糸で奴らの動きをとめるくらいはできる」
「じゃあ、援護は任せるよ。マクラ!あと私はセレーネ。セレーネって呼んで」
二匹のコボルトが突っ込んでくる。
コボルトたちは間違いなくセレーネよりフィジカルが強い。
そのことはさっきの一連の動きで分かっていた。
でも大丈夫だろうと真蜘羅は確信していた。
セレーネが突っ込んでくるコボルトに体当たりを仕掛ける。
スライムとコボルトは激突し、ズガンと衝撃音がした。
本来の力の差を考えれば、セレーネの方が押し負けるはずだ。
だが、セレーネは真正面ではなく、腹でコボルトの体当たりを受けたのだ。
ぶにょっと弾力のある液体の体はコボルトの勢いを一瞬止める。
「ここやな!」
「いまっ!」
我とセレーネの考えがシンクロした。
我は動きが止まったコボルトにすかさず糸を吹きかける。
蜘蛛の巣の形で飛来するそれは、セレーネごとコボルトを捉える。
2匹とも糸の網に絡めとられ、ズシンと地面に落ちた。
ギャンとコボルトが悲鳴を上げる。
だが、セレーネはすぐにその液体の体で糸を潜り抜け、戦線復帰した。
結果、蜘蛛の糸にコボルトだけが捕らえられる結果となる。
コボルトは糸を爪で引きちぎろうとするが、
粘着力と伸縮性を併せ持つ糸がコボルトの爪程度で切れることはない。
やったわ!まずは一匹。
真蜘羅は心の中でガッツポーズをとる。
やっぱり思った通りだった。
セレーネの動きは自分の弱さを分かっている動きをしていたから。
だから、真正面から敵にぶつかることはしない。
我と同じや。
二匹、三匹
学習もしないで突っ込んでくるコボルトを同じ方法で封じていく。
どさどさと蜘蛛の糸で身動きができなくなったコボルトが地面に転がっていく。
その光景を見ていると、次第に気分が高鳴ってくる。
なんだろう。なんか楽しい。セレーネとの連携が。
お互い息があってる気がする。
「危ないっ!!」
だが、そのときセレーネが叫ぶ。
なんだ?
なぜセレーネが叫んだか分からず、後ろを振り返って理解する。
一番初めにセレーネが体当たりで吹き飛ばしたコボルトが、立ち上がり、後ろから襲ってきていたのだ。
死角からの攻撃に我は気づかなかったのだ。
しまった!油断した。
満身創痍のこの体でもう一度体当たりを喰らえば弱いこの体が粉々になるのは自明の理だった。
今度こそ我は死を覚悟して目をつむった。
死ぬことに再び恐怖した。くそっ。せっかく助けてもらったのに。
その時。
「やああああああ!」
かけ声が聞こえた。
その音が途切れると同時にズパンと鈍い音を立てて、コボルトの首が宙に浮く。
さっきまで蜘蛛の糸で捕まえていた人間の女が上段から剣を振り落としたのだ。
どうやって!?
糸に拘束されていたはずなのに。
先程の罠を仕掛けた場所をみると、真蜘羅の糸はズタズタに引きちぎられていた。
有り得ない光景に目を見開く。
そうして、女を凝視した。
まさかこいつ、自力で我の糸を外したんか!?人間なのに!?
なんてやつなんや。
自身の糸の強度に絶対的な自身があった真蜘羅は戦慄を隠せなかった。
「ルナぁ!」
嬉しそうにセレーネが言う。
なんかもやっとするわ。
けど、なにはともあれ、助かったことに感謝せんといかんな。
そうやって思考を切り替える。
女はコキコキと首を鳴らして、ニイと静かに、だが凶悪に笑う。
「あー、やっと自由になれたぁ。動けないってホント気分悪い」
「あ、ありがと」
礼を言うと、背筋が凍りつくような冷たい目で見られた。
ビクっと体が震える。
なんやろう?この女さっきまでと雰囲気が全然違う。
最初はお嬢様に見えたのに、今はまるで狩人のように見えた。
それに、なんというか、ゾクリとする怖さを感じる。
まるで根源的な恐怖のような何かを。
「私、あなたのことは許してないわよ。でも今はともかく、セレーネを攻撃してくるこいつらをぶちのめすわ」
そういってルナと名乗る人間の女はコボルトの群れに突っ込んでいく。
剣を一振り、二振り、三振り。
その動作にコボルトたちは全く反応できず、一頭、二頭、三頭とコボルトは切り裂かれていく。
残ったコボルトたちは一目散にどこかへと逃げ帰っていった。
つ、つえ~~~~~~‼
無意識に口があんぐりと開いた。
この女、こんな強かったんや!?
さっきよく殺されんですんだな我。
けどなんにせよ、助かった…のか?
ルナがこちらに剣を向ける気配はない。
安心したとたん、我の意識は遠くの彼方へと消えていった。
◇◇
目覚めた時、頭がひんやりして気持ちよかった。
下を見ると頭の下にはぶよぶよと弾力のある冷たい水色の枕があった。
「あ、起きたんだね」
ムニュっと体系を変化させ、上から覗き込むように
見ていたのはセレーネだった。
枕の正体はセレーネの体だったらしい。
「あ、あれ、我生きてたんや」
「ルナが回復魔法で直してくれたからね。結構危ない所だったみたいだけど、ルナはすごいんだ」
エッヘン、と自分のことのようにセレーネは得意そうにしている。
「そう、か」
何とか生き延びれたらしい。
「あ、起きたのですね?」
安堵していると、ルナという女が話しかけてきた。
何やら後ろからいい匂いがする。
ヒッと小さく悲鳴を上げて、セレーネの後ろに隠れる。
だが、さっき感じた敵意はまるでなく、ルナはただ不思議そうに小首をかしげていた。
その様子に安堵の息が出る。
「あ、ありがとうな。我の傷治してくれたんやろ」
「まぁ、そうですね。あなたのことセレーネが気に入っちゃったらしいのですよ。なので、私たちを襲ったことは水に流してあげます、けど今後は卑怯なことばかりしちゃダメですよ?」
そういってルナという女は笑った。
え、豹変しすぎやないか?二重人格?
先程までの攻撃的で冷たい目をした女とはまったくの別人だ。
意味不明すぎて逆に怖い。
けど、おしとやかになっても目が笑ってね~!!やっぱこの女怖いわ~。
心の中で絶叫を上げる。
あんまり態度に出すと何されるか分からないから、口には絶対に出せなかったが。
話し方もさっきと違う。
けど、怖さは同じだ。
このルナとかいうやつは、得体が知れんない。
絶対に怒らせん方がよさそうだ。
「ルナ~。話し方王女様モードに戻ってるよ。私といるときは敬語やめてって言ったじゃん。
あと、マクラ!はい、これあげる」
そう言ってセレーネは紙でできた皿を渡してきた。
上に乗っているのはさっきのコボルトの肉か。
匂いで何となくわかる。
倒したコボルトを切り刻んで、火で焼いたらしい。
これが人間の料理というやつなんやろうか?
凄くいいにおいがする。この肉にかかってる液体は何やろう。茶色で何かすごいいい香りがする。
さっそく口に入れてみた。
肉を焼いているのか、ホカホカと温かさが肌から感じられる。我はいつも生で食べてるのに、こんな食べ方があるんやなと感心する。
茶色の液体も、肉の味と絶妙に合っていて、いつも食べる生肉より格段にうまい。
これが人間の食べ方なんかと感動を覚えた。
「我にこんな親切にしても何もないよ?」
「あるよ。マクラは私のライバルだからね。時には助け合いも大事でしょ」
セレーネは嬉しそうにいう。
「さっきも言ってたけどなんのことなん?それ」
「ん?マクラは最強を目指すんでしょ?だから私の競争相手だからさ。最弱から最強目指すなんて、めっちゃ燃えるし、私もやりたいんだ」
ニッコリと無邪気に笑ってセレーネが言う。
まさか、自分と同じようなことを考えている魔獣がいるなんて思いもしなかった。
しかも、それは自分と同じしゃべる魔獣がだ。
さらに、そんな理由で命まで救ってくれるなんて。
何だか泣きそうになってくる。
その理由は分からなかったが、涙をのみ込んで、ニッと笑って見せる。
「あんたもか。そら確かにライバルやなぁ」
そのまま残りのコボルトの肉を口に入れた。
牙と上顎で無理矢理噛み砕かなくても
簡単に噛めて、肉が口の中でとろける。
「うまぁ。うますぎるわこれぇ」
本当にこんなおいしい物は初めて食べた。
「あはは、幸せそうに食べるねぇ」
「ほんとです…ね」
ぎこちなくルナが言う。
どうやらルナは敬語を止めるようにしているが、それになれなくて苦戦しているらしい。
そして、改善しようとしている理由もセレーネらしい。
一体セレーネって何者なんや。
この怖ろしい女すら手玉にとってるなんて。
セレーネとルナが我を見て微笑んでいる。
確かに得体の知れない一行だ。だけど…
なんかいいな。この感じ。
あったかくて。
「じゃあ、マクラちゃん大丈夫そうだし、もう行こうか」
コボルトの肉を完食してから、しばらくしてルナは言う。
「そうだね」
セレーネも賛同する。
「あ」
2人は出発の準備をしている。
あかん。このままやと行ってしまう。
何故か焦燥にかられる。
けど、今ならまだ。
出会ってまだ1時間くらいしか経っていないのに何故か
このまま別れたらいけない気がして、
我は急いで立ち上がった。
特に頭で考えずに、考えたことが口からついて出ていた。
「ま、待って!我も一緒につれていって!お願いや。あんたはんらと一緒に行きたいんや」
我がそう言うと、2人は顔を見合わせる。
「一緒に来てくれるの?嬉しい。こっちから言い出そうと思ってたのに」
セレーネが嬉しそうにはにかむ。
セレーネは喜んでくれたけど、ルナはどうやろうか。
嫌がる、かな。我の事嫌いそうやったし。
チラリとルナの方をみる。
ルナは若干嫌そうな顔をして考えたあと、うーんと悩み、そして何か納得したように溜息をついた。
「ま、こんな危険な蜘蛛、放置して置けないわよね。色んな人に迷惑かけそうだし。でもマクラちゃん。心配しなくていいわ。あなたの捻じ曲がった性根、私がちゃんと更生させてあげるから」
ルナは親指を上げて、ウインクをする。
「余計なお世話や!!」
我は、ルナに向かって足を下げてやった。
人間でいうところの親指を下げて、抗議する仕草をしたかったのだが、蜘蛛の足でやっても伝わらなかったらしい。
こうして、王女とスライムと蜘蛛は共に旅をすることとなったのだった。
その後、とある鳥と、とあるドラゴンとの出合いがあるのだが、それは別のお話である。
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