三十四話 監獄なのに自由を満喫している人は大体強キャラだよね
再び、お待たせしました!
最新話、投稿です!!
『篤史さん。私は今までの人生の中で、刑務所に来たことがありません。これが初めてです。なので、刑務所の中とか見たことがありませんし、刑務所の中にいる人とどうやって面会するのか、それすらやったことがないです。それこそ、漫画やアニメ、ドラマ程度の知識しかありません。なので、何が正しいとか、そんなことが言えた義理ではないのは百も承知です』
それは当然だろう、と篤史も思う。
一般の人間、しかも一高校生が、刑務所の中について、詳細を知っているわけがない。それこそ、友里が言ったように、知識としては漫画・アニメ・ドラマ程度のものだろう。逆に、詳しく知っていた方が、おかしいというもの。
『ですが、その上で、敢えて言わせてもらいます……流石に、これは違うと思います……』
いつもの如く、無表情ながらも、しかし友里は今の現状に少し……いや、かなりドン引きの状態だった。
『え、何ですか? 刑務所に来たと思ったら、十回以上も検問とか荷物検査させられて、その上エレベーターで地下に降りるって。いや、エレベーターで降りるのは仮によしとしましょう。でも、めっちゃ降りてません? しかも、どれだけ降りてるか、階数の表示がないとか、どういうことです? さらに言うなら、もう結構な時間経ってますし。これ、地下二階とか三階じゃないですよね? 完全に二十階とか三十階とかそういうレベルですよね? え? ここはあれですか。イン〇ルダウンですか? このままLEVEL5に直行何ですか?』
『落ち着け白澤。そしてそのたとえはどうかと思うぞ』
言いながら、しかし篤史もまた、この状況に思うところはあった。
刑務所という場所が、異質なところであることは理解している。だが、それでもこれほどまでに厳重にチェックを重ね、尚且つどこに向かっているのか分からないエレベーターで移動するなど、明らかにおかしい。
『まぁお前の言う通り、これは普通じゃないな』
『いやいや篤史さん。普通じゃないな、レベルの話じゃないですよ。そりゃあ、世の中には私たちみたいな超能力者がいたり、復讐の方法として催眠術とか使ってくる人がいたり、その情報どこから仕入れてんの? と思う程色んなことを知っている委員長がいたりしますけど、流石にこれは世界観壊れますって』
『おう、それ以上はやめろや。っていうか、世界観とか言うな』
何よりも見た目と中身がこれほどまでに違う彼女が言っても全く説得力がない。
と、そうこうしている内に、エレベーターがようやく止まった。
「着いたわよ」
開かれた扉。そこから先は、澄に誘導されるがまま付いていく。
そこは文字通りの一本道。壁や天井にはいくつかの監視カメラがあるものの、それだけであり、他には何もない。
そして、一本道の果て。行き止まりには、一つの牢屋らしきものがあった。
(何だ……こりゃあ)
思わず、そんなことを思ってしまった篤史。
それもそのはず。そこは確かに鉄格子がある牢屋だ。だが、その中は、まるで超一級ホテルの一室のような環境であり、ベッド、テレビ、本棚などが揃いに揃っている。
とても牢屋とは思えなかった。
『篤史さん。前言撤回です。どうやらここは「ワ〇ピース」ではなく、「グラップラー〇牙」の世界だったようです』
『いや、たとえがわかりずらいわ』
などと返していると、牢屋の中にいた男が、顔を上げてきた。
見た目は三十代前半、ところか。長い黒髪は床まで届いており、前髪も目元を隠している。肉体はかなり細く、捻れば折れてしまうかと思ってしまうほど。
華奢。それが、篤史から見た男の第一印象であった。
「―――やぁ。ようやく来てくれたんだね、澄。会いたかったよ」
「ええ。久しぶりね、お父さん」
笑みを浮かべながら挨拶をしてくる男に対し、澄は淡々とした口調で返す。
(この男が……)
そう。
この男こそ、澄の父親であり、『父之湖』の元教祖・門黒当夜である。
「今日は一人じゃあないんだね」
「ええ。この二人には色々と迷惑をかけたし、片方はお父さんも会いたがってたでしょ」
「ほう。ということは……そっちの君があの二人の息子、というわけか。なるほどなるほど。確かにあの二人を足してわった感がすごくある」
顎に手をあて、まじまじと篤史を見てくるその様子は、まるで珍しいものを観察するかのような仕草だった。
皮肉な話である。牢屋の中にいるのは向こうだというのに、まるでこっちが見られているような感覚に陥ってしまう。
「初めまして。僕は門黒当夜。どうぞ、よろしく。山上篤史君」
「……、」
「おやおや。警戒してるね」
「当然だろ。アンタと俺の両親との間がらで、仲良くできるとでも?」
「はははっ。それは手厳しい。確かにその通りではあるがね。君の両親と僕は、敵対していたわけだし、彼らによって僕は今、ここにいる。そういう意味では僕は、君や君の両親に恨みを持つのが自然な話だろう……だが、誤解しないでくれ。僕は君や君の両親のことを恨んだことなど一度もない。むしろ、尊敬に値する人物だと思っている」
「何だと?」
予想外の言葉に、篤史は思わず疑問を口にする。
彼は、篤史の両親によって、自分が作った団体を潰されたのだ。だというのに、恨んだことがない、むしろ尊敬している、などと言われても信じられるわけがない。
「彼らは、僕が作り上げた団体をたった二人で壊滅させた。物理的にも、精神的にも。信者たちの信頼を根底から覆し、さらには僕が差し向けた『兵隊』も完膚なきまでに叩き潰した。そして、僕をここに叩き込んだ。一般的にみれば、それは確かに憎むべき行為なのかもしれない。事実、僕自身も思うところはある。けれど、それ以上に彼らの手腕は凄かった。それだけの話さ。もしよければ、こちらも彼らの現状を聞いておきたいところなんだが……」
「悪いけどお父さん。そういう話はまた今度にしてくれる? 今日は聞きたいことがあってここに来ただけだから」
当夜の言葉を、澄が遮ると、困ったような顔をしながら、両手を広げた。
「聞きたいこと、ね。何を今更。僕たちは親子だろう? 何でも質問したまえ。どんな質問にでも、娘の質問になら答えてあげよう」
笑みを受けべるその姿からは、まるで敵意を感じられない。それは娘が相手だから、というのもあるのだろうが、怪しい宗教団体の教祖とはとても思えない。
そんな父親に対して、だ。
「じゃあ単刀直入に聞くけど―――何で、私達を襲わせたのか、理由を言ってくれる?」
澄は単調直入に、そう言ったのだった。