三十三話 伏線は必ず回収されるとは限らない
すみません!!
本当に、本当にお待たせしました!!
爆弾を無事解体した後は、何事も起こることなく、警察がやってきた。
篤史たちを襲った連中は無事、全員逮捕されたものの、爆弾犯についてはまっていない。どうやら、かなり用意周到な奴だったらしく、これといった証拠は何一つ残していなかった。
澄に恨みを持つ人間を集め襲わせようとしたり、爆弾をつかったりなど、かなり大胆な行動をしているにも関わらず、証拠をつかませないところを見ると、かなり厄介な相手だ。
また、何かの拍子に襲われるかもしれない……などと思う篤史に対し、澄ははっきりと言い放つ。
『私が言うのもなんだけど、それはないわね。あの男がどこの誰なのかは分からないけれど、少なくとも、今回の件で絡んでくることはもうないわ』
事情聴取が終わったその後に言われた言葉。
不思議、というか、不可解極まりない、と篤史は思う。相手の正体は分からない。けれど、もう絡んでくることはないと断言する澄の表情には、ある種の確信があった。
そして、だからこそ思う。
澄は今回の騒動の根本を知っているのだ、と。
そして、その予想は的中していた。
『色々と聞きたいことがあると思うけど、それはまた後日に説明するわ。ちょっと時間が欲しいの。色々と……心の準備もしたいし。大丈夫。逃げようとかは考えないから。どうせ、今回の騒動のケリをつけるためにも、貴方たちにも付き合ってもらわないとだし』
その言葉に、篤史は一言、「分かった」と告げた。
そして、数日後。
『―――いやおかしいですってこれは』
澄に指定された集合場所に来ていた篤史の隣で、友里はそんなテレパシーを送ってきた。
「何だよ、急に」
『何だよ、じゃありませんって。え? 何ですかこの状況は。あれだけの事件があって、あの後旅館では何もなかったって、そりゃあないでしょ。あり得ないでしょ。普通、あそこから、「犯人はこの中にいる」っていう展開のはずなのに、犯人捜しどろこか、事件の一つも起こらないって、あり得ないでしょう!? それこそ、皆がほっとした時をうかがって、第二、第三の事件が起こるはずだというのに!!』
「白澤。いつも言ってるが、俺は時々、お前が何を言ってるのか分からなくなる」
いつものように無表情でありながら、意味不明な言葉を送ってくる友里に対し、篤史は呆れながら言葉を返す。
しかし、そんなもの知ったことかと言わんばかりに、彼女の熱は高まっていた。
『っていうか、幽霊のくだりは一体何だったんですか!? 私、もしかするとこの後、幽霊が事件を起こすのかもって想像しながら色々と対策をしていたというのに!! いや、まぁ結果的にあの状況でマジの幽霊が事件を起こしたら、怖いというか、逆に「おいおい、どんだけジャンル混ぜてんだよ。もうお腹いっぱいだよ……」みたいな感じになったので、それはそれでよかったですけれども!!』
「それについては……まぁ若干俺も思ったが」
旅館での覆面達の奇襲、それから時限爆弾と続いて、幽霊が出た、なんてことになったら、それはもうサスペンスやホラーを通り越して、最早コメディである。
……いやまぁ、それこそ今更な話ではあるが。
『っというか、金田さんと江川さんは一体なんだったんですか!? いやまぁ、江川さんは爆弾の解体してもらったので助かりましたけど!! でもそうじゃないじゃないですか。あの二人がいたら、それこそ、事件の百や二百は起こるものでしょう!?』
「おーし、それまでにしておけ。そろそろ本気で意味が分からないことになってくるから」
あまりにも風評被害を及ぼす発言に、篤史は待ったをかけた。
いや、友里が言わんとしていることは分かる。とても分かる。だが、あの二人はただの小説家と漫画家。それ以外の何者でもないのだから。
というより、それこれ以上言えば、流石にまずい。いや本当に。
「事件が起こらなかったんだから、別にいいだろ。っつか、あの後本当に第二、第三の事件とかあったら、本当に俺らじゃ手に負えなくなる」
『まぁそれはそうですけど……』
未だ納得しきれていない友里。しかし、篤史の言い分は尤もであり、それ以上言っても仕方ないと思った彼女は別の話題を振ってくる。
『で、霧島さんに言われるがまま、ここに来たわけですが……』
「何だよ、歯切れが悪いテレパシーだな」
『いや、歯切れが悪いとか、そういう問題じゃなくてですね……っというか、篤史さん。よく霧島さんの誘いに乗りましたね。罠とか思わなかったんですか?』
それは、当然の疑問であった。
篤史と澄の関係性を考えれば、それは十分にあり得る話。
けれど、篤史はその言葉を即座に否定する。
「それはねぇだろ。あいつの反応を見るからに、明らかに霧島も今回の事件に関しては被害者だ。あれで全部が全部、アイツが書いたシナリオ通りで、ここに来るのも罠だったんなら、相当な演技力だよ」
『それはそうかもですが……じゃあ何ですぐに話さないんだー、ってなりません? 真相を後回しにするとか、そういうもったいぶる展開は、個人的にどうかと思うんですよ』
「気持ちは分かるが、アイツの気持ちも理解してやれ。人には言いたくないことの一つや二つ、あるもんだ。それを話すための時間が必要な時もある」
誰しも話したくないこと、というものはある。それこそ、澄は父親のせいで色々と大変な目にあってきたのだ。彼女の場合、言いたくないことは、恐らく一つや二つではないに違いない。
しかし、それでも彼女は言ったのだ。
ちゃんと説明をする。逃げようとは思わない。ただ、時間が欲しい、と。
言いたくない、話したくない、とは一言も口にしなかったことから、真実を語る気はあるのだろう、と篤史は考えていた。
「―――お待たせ」
と、そこでようやく、澄がやってきた。
「じゃあ、行きましょうか」
「早速だな……っと。その前に聞かせてほしいんだが、俺達をどこへ連れてくんだ?」
澄の言葉を疑っているわけではない。が、今らか自分たちがどこへ向かうのか、それを疑問に思うのは当然のこと。
そして、澄もそれを理解していたからこそ、淡々と。
「別に大した場所じゃないわ―――ただの刑務所よ」
そう、答えたのだった。