二十九話 フレンドリーファイアって怖いよね
「これは、どういう、ことか、説明して、くれるわよね」
まるで、怨念にでも取り憑かれたような表情で睨みながら言い放つ澄。その態度は明らかに不機嫌、いやそれどころか怒りが頂点に達している状態であった。
そんな彼女に対し、篤史は淡々と言い放つ。
「説明も何も、みたままだが?」
「みたままだが? じゃないわよ。人が寝てたら唐突に例のあの歌声が頭の中に響き渡って、正直ショック死するんじゃないかと思ったわよ……」
その言い分は、しかし当然のものだろう。
唐突な友里の脳内攻撃は、敵味方、どちらも巻き込んだものだった。恐らく、怒髪天状態だったがためか、誰に攻撃するか、などという細かな調整ができなかったのだろう。まさに、リアルフレンドリーファイアである。
「そう怒るなよ。お前の気持ちも滅茶苦茶分かるが、おかげで連中を返り討ちにできたわけだし」
言いながら、縛り上げている覆面達を指さす。
友里の脳内リサイタルは相変わらず強力であり、一発で覆面達をノックアウトした。
……まぁ、ぐっすりと寝ている最中にそれを喰らった澄からすれば、たまってものではないというのは正論ではあるが。
「そういう問題じゃなくて……っていうか、貴方、あれをくらってどうしてそう平然としてられるわけ?」
「別に平然としているわけじゃないぞ。まぁ、とはいっても、頭がくらくらして、さっきまで視界がぐらぐらと揺れてたし、正直吐き気とかもあったが、それだけだ。問題はない」
「今の内容のどこに問題ない要素があるのかしら?」
むしろ、問題要素しかないというのに、それでも気を失わず立っていられる篤史の精神力に澄は驚きと同時に呆れていた。
とはいえ、だ。自分で言ったように、流石の篤史も何の問題もなかった、というわけではない。
(そういえば、白澤の歌を初めてくらったが……うんまぁ、確かにアレはやばいな)
今日の今日まで彼女の脳内カラオケに色々と助けられてきた篤史であったが、その威力を彼は知らなかった。そして、その身に受けて、改めて、友里の攻撃がいかに危険なものなのかを再確認することができたのだった。
「で? 連中を返り討ちにした功労者が、部屋の隅っこで膝をかかえて沈んでるのはどういうこと?」
「ああ、なんというか、大事なゲーム機を壊されたショックと、突発的とはいえ、俺らも巻き込んだことに対しての罪悪感とかが混ざり合って、あんな状態になっているらしい」
「一応は、反省してるのね……」
反省、というよりどこか魂が抜けたような雰囲気を漂わせている友里に、篤史たちは語りかける言葉が見つからなかった。
というより。
『ふふ、ふふふふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふ……』
先ほどから頭に送られてくるテレパシー。言葉は一切ないが、最早、どんな言葉をかけても今は無意味であるのが十二分に理解できてしまうのであった。
「まぁ今はそっとしておいてやろう。それよりも」
「ええ。まずはこっちの方から話を聞きましょうか」
言いながら、二人は視線を覆面達に向ける。
「……俺達が口を割るとでも?」
「ええ勿論。私、こう見えて、人の口を割らせるの、得意なの。いざという時のために、色々と道具も持ってきてるし。ああそうだ。この前、新しい薬を作ったんだけれど、それの実験をするのもいいかもね」
などと、不敵に笑うその表情は、篤史にはどうしようもなく性根が曲がっているものに見えた。
「おいこら何物騒なこと言ってやがる。あまり過剰なことはすんなよ。っていうか、新しい薬って何だ。委員長にチクるぞ」
「……貴方ねぇ。ちょっとは空気を読みなさないよ。この状況で平和ボケな発言しないでくれる? っというか、何でもかんでも委員長に言えば私をどうにかできると思ってるんじゃないかしら? 確かに彼には色々と敵わないのは認めるけれど、だからといって絶対に逆らえないというわけではないのよ?」
「よし、んじゃ、メールで『また変な薬もってたから説教よろしく』って伝えても問題ないよな」
「やめなさい。彼の説教は長くて面倒だから、本当にやめなさい」
先ほどまで人を脅していた者とは思えないほどの変わりよう。強がってはいるものの、やはり彼女の中で、柊は超がつくほどの苦手なタイプであるらしい。
そんな彼女を見ながら、覆面の一人が口を開く。
「はっ、流石はあの狂った教祖の娘だ。人に喋らせる手口は父親譲りってか」
「……父親譲り、ね」
男の言葉をオウム返しの如く口にする澄は、そのまま近づき、覆面をのける。
そして、その顔を見た瞬間、どこか納得したような顔になっていた。
「……成程。やっぱり貴方たちだったわけね」
「知ってる奴か?」
「ええ。まぁね。彼らは、かつてウチの宗教に入っていた信者……その家族よ」
淡々と、目を細めながら、澄はそんなことを呟いたのであった。
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