二十八話 ゲーム機を充電する場合は机の上に置きましょう
『篤史さん。思った以上に寝れないので、少しお話ししましょう』
『お前本当にすごいのな。さっき寝るって言ったばかりだっていうのによ』
時刻は既に十二時過ぎ。部屋の電気は消えており、視界は真っ暗な状態である。
そんな中、友里が送ってくるテレパシーに篤史は呆れながらも言葉を返した。
口に出して喋れば澄が起きてしまうかもしれないので、同じくテレパシーで会話が続いていく。
『で? 話って何だよ』
『今回の件についてです。篤史さんはどう思われます?』
『どうって……まぁ、なんというか、不可解なことだらけだなぁ、とは思うが……』
『それについては私も同意見です。篤史さん達の話を聞いた上で感想を言うと、なんというか、つぎはぎだらけって感じがしてなりません。そもそも、何かをしかけてくるんだったら、こんなところに呼び出す必要性なんてないかと。ゴミ箱を吹っ飛ばして委員長に怪我をさせたことについてもそうです。どうやったかはさておいて、あんなピンポントで狙うことができるんだったら、もっとマシな場所におびき寄せるはずです』
全く持ってその通りである。
何度も言うようだが、ここに連れてくる意味が篤史には全く分からない。澄や篤史に用があるのなら、わざわざこんな場所を使う理由は一体何なのか。
人気のない場所に誘うため? それならば、どこか廃墟とかに呼べばいいではないか。
ここでなければいけない理由がある。そう考えるのが妥当なのだが、じゃあ何故すぐに何もしてこないのか。
分からない。情報が少なすぎる。
『お前はこの状況、どう見る?』
『分かりません!』
『お前なぁ……って、まぁそうなるわな』
質問したのは篤史だが、しかし友里の返答は当然のものだろう。誰だって、こんな状況の答えなど分かるわけがないのだから。
『でもまぁ、霧島さんが関わってるっていうのは、確かだと思いますよ?』
『ああ。あと、俺も何かしら関係してるだろうな。じゃなきゃ、俺を一緒に連れてこさせた意味が分からない。それに、ゲームの中にあった、あの言葉も気になるし』
VRゲーム内にあった、「父之湖」という言葉。あれが今回の件と関係あるのは間違いないだろう。
しかし……。
『「父之湖」が関係してるって聞いた時は元信者が霧島か俺に復讐しに来たのかと思ったんだが……俺達二人をここへ連れてきたとなると、どうもしっくりこないんだよなぁ……』
『というと?』
『もしも元信者が、自分たちを騙していた教祖に復讐するため霧島を狙ったんなら俺を一緒にする理由が分からない。逆に、未だ教祖に心酔していて宗教団体を潰した親父たちを恨んで俺に目を付けたんなら、霧島を呼ぶ必要はないだろ』
『あー、確かにそうですねぇ』
これがどちらか一人だけ、というのならもっと話が簡単だったのだろうが、敢えて篤史と澄の二人を呼びつけた。これが事態を複雑にしてしまっているのだ。
『ま、考えてもしょうがないですかね。ここは敢えて、どんと来い超能力!! みたいな感じで気楽にいきましょう』
『やめろ? そのフレーズはやめろ? 何故かは分からないが、とても危うい発言に聞こえるから』
自分でも意味不明な発言をしながらも、篤史は友里の爆弾発言に釘を刺した。
と、そこでふと友里は続けて言う。
『あー、でも私、一つ思ったんですけど……こういうのって相手が油断した時に隙をついてくるってパターンなんじゃないですか? それこそ、今みたいな状況とか……』
『おいおいやめてくれよ。そんなフラグみたいなこと言うな。お前が言うとだな……』
などと友里の発言に対し、言葉を返す篤史。
その、次の瞬間。
唐突に旅館のドアが開き、無数の人影が部屋の中へと入ってきた。
「っ!?」
思わず布団から飛び出しながら、篤史はその場に立つ。
警戒しながら、暗闇の中で周りを見渡す。幸運なことに、月の光が部屋を照らしたおかげで、相手の姿を視界に捉えることができた。
(黒一色の服装で覆面を被った連中が数人、か……)
覆面のせいで性別は分からないが、しかしがたいから考えて、恐らく全員男なのだろう。
周りの状況を大体把握した篤史は、とりあえず、一言。
『……おいこらどうしてくれるんだ』
『えっ!? これ、私の責任ですか!? いや確かにフラグ的な発言しましたけど、まさか本当にこんな速攻で回収するとは誰も思いませんって!!』
などと全力で無罪を主張する友里。
そんな友里を他所に篤史は口を開き、問いを投げかけた。
「……何だ、アンタら」
「答える義理はない。大人しくついてきてもらおうか」
「そう言われて、はいそうですかっていうと思うか?」
「そうした方が身のためだと思うが?」
「さて。どうだか」
「そうか……なら仕方ない」
言うと、覆面達はゆっくりと、篤史たちに向けて歩き出す。
瞬間。
バキッ、と何かが壊れた音がした。
「あっ……」
思わず、声を漏らす篤史。
それは、覆面の一人が『あるもの』を踏みつけた音。
その『あるもの』とは、友里が持ってきていたゲーム機。充電をしていたため、鞄にはいれず、床の上にでもおいていたのだろう。
そして、無論。
目の前で起きていた友里は、その光景を、ばっちりと、目撃していた。
「………………………………………………」
無言。そのままゆらりと、まるで生気が抜けたような感じでその場に立つ友里。
そして。
『ふふふ、ふふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ―――』
不気味な笑い声がテレパシーによって伝わってくる。
加えて、どうやらそれが聞こえているのは篤史だけではないらしい。
「な、何だ!?」
「声が、女の声が、頭の中で聞こえるぞ……!?」
慌てふためく覆面達。テレパシーは、彼らにも聞こえているようであり、ならばこそ、その驚きは自然なもの。唐突に、頭の中で知らない女の声が聞こえれば、誰だってパニックになるものだ。
そんな彼らが慌てふためくことなど知るかと言わんばかりに、友里は続ける。
『やりましたね、やってくれましたね、やりやがりましたね、この野郎ども』
その言葉には、絶望と憤怒が交じり合っている。加えて言うのなら、その瞳には光がなく、殺意に満ち溢れていた。
『トイレはすませましたか? 神様にお祈りは? 部屋の中でドタバタと命乞いする心の準備はOK?』
篤史は思う。
そのセリフはまずいだの、伝わる人間が一部しかないだの、パロネタに走りすぎだの、色々と言葉がよぎったが、しかし一番感じたのはそこではない。
ただ一言、やばい、と。
間違いなく、彼女の十八番であるあの攻撃がくる、と。
そして、その予想は的中する。
『……それでは一曲、聞いてください。「廻〇奇譚」(三十分耐久モード)』
その後。
篤史たちがいる部屋で覆面達の悲鳴と嘆きが響き渡ったのだった。
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