二十七話 川の字で寝るのは親子だけではない
確認するまでもないが、篤史たちは今、未知の相手に半ば脅迫されてここにいる。
そう考えれば、いつ何が起きてもおかしくはない。ゆえに、緊張感をもって行動するべき状況下だ。
だというのに。
「で? 何で私たちは特撮の格ゲーをしてるのかしら」
部屋に戻ってきていた友里と篤史を見ながら、澄は思わず指摘する。
『何を言ってるんですか霧島さん。旅館の夜と言えば、格ゲーでしょうに』
「いや、何で『これくらい常識でしょ』みたいな雰囲気で言ってるの? そこは百歩譲ってトランプとかでしょ……ってそうじゃなくて」
言いながら、さらにツッコミを入れようとした澄であったが、それ以上の言葉が意味がないのを理解し、代わりに大きなため息を吐く。
「っていうか、何で貴方ゲーム機を二つも持ってるのよ」
『それはあれです。何か奇跡的なことがおこって、いつでもどこでも誰とでも遊べるようにです』
「奇跡的なことって……」
「言いたいことは分かるぞ、霧島。そしてその上で言うが、敢えて詮索してやるな」
『え、何ですか篤史さん、その可哀そうな子に対して、もうそれ以上指摘してやるな的な発言は』
「的な、じゃなくて、事実そういう意味だよ」
今更ながら何を言っていると言わんばかりな篤史の言葉。
澄もここにきて、友里が残念至極な性格であることは理解していたために、それ以上追及することはしなかった。
『しかし、それにしても、あれですよね。日本が誇る二大死神の名前をもじった小説家と漫画家がいるって超絶やばいじゃないですか。あれですか、死亡フラグのバーゲンセールですか?』
「死亡フラグのバーゲンセールって……。っつか、何だよ二大死神って。失礼すぎるだろうが」
『いやいや、行く先々で人が死ぬ事件に巻き込まれてるって、もう死神以外の何物でもないですよ。しかも、見た目は子供、頭脳は大人の方に関してはあれだけ事件起こってて、まだ一年も経っていないっていう設定ですからね。じっちゃんの名にかけての方は、身内に犯人多すぎですし』
「おいこらそのタブーに触れるな」
そこについては誰しもが思っている疑問ではあるが、しかし世の中には触れてはいけないことというものがあるのだ。
『で、お二人とも、これからどうするんですか?』
「どうするって言われてもなぁ」
「相手がしばらく自由にしてろって言ってるから、自由にしてはいるけれど」
『……え? マジですか? 本当にそれだけ?』
「それだけとは失礼ね。これでも一応、情報収集はしてるのよ? けれど、情報を集めようにも従業員も客も少なすぎて、ロクなことは分からないし」
「でもまぁ、確かに奇妙な話だよな。向こうから誘ってきたくせに、何もアクションを起こさないとか。まぁ、こっちの油断をつくために待っているだけって可能性もあるっちゃあるがな」
篤史たちがここに来て、もう数時間。自由にしていろと言われたが、それでもこうまで全く何も起きないのは逆に奇妙と感じてしまう。
(……相手の出方を待つしかないってのも、何というか不安ではあるが)
などと思いつつも。
『あっ、ちょ、篤史さん、それ反則、ハメ技反対ですっ!!』
容赦なく友里をボコボコにする篤史。
そして、ゲームもひと段落し、そろそろ寝よう、とした時だった。
「―――で、何だこの状況は」
先ほどまでゲームをしていたためか、気づいていなかった篤史はようやく布団の違和感を感じた。
明確に言うのなら、三つの布団が川の字になってぴったりくっついているのだ。
『何って、川の字になって寝てるだけじゃないですか。あっ、何ですか篤史さん。真ん中が良かったんですか?』
「ちげぇよ馬鹿。何で布団がくっついてんだって言ってんだよ」
『え、いやだって怖いし』
「何だよその理屈は。子供かお前は」
『いやいや、篤史さん。考えてもみてください。異様なこの状況で離れて寝るとか死亡フラグじゃないですか』
「だからってここまでくっつける理由はねぇだろ」
『ありますよ。篤史さんと霧島さんで壁をつくるという私の理由が』
「とんでもなくくだらねぇ理由だなオイ」
あまりにも予想の斜め上をいく友里の発想に、篤史は思わず頭を痛めた。
「おい霧島からも何か言って……」
「……すぅ……すぅ……」
「って、もう寝てるし」
もう一人の同行者は、何気ない顔ですでに眠りについている。ここについてからの行動を見るに、彼女も彼女で相当な精神力の持ち主と言えるのかもしれない。
「お前らなぁ……仮にも女子なんだから、警戒心くらい持てよ」
『え、いやだって篤史さんですし。警戒する必要なんてどこにもないじゃないですか。むしろ安心して熟睡することができると断言しますっ』
「それ褒めてんのか貶してんのか、どっちなんだよ……」
『え? 勿論褒めてるに決まってるじゃないですか』
何を当たり前なことを、と言わんばかりの表情を浮かべる友里。
それに対し、篤史は素直に受け入れるべきか、それとも反論するべきか迷いながらも、前者を選び、大きなため息を吐く。
「……はぁ仕方ねぇな」
そうして、篤史もまた、布団に入り、眠りにつくのであった。
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