二十一話 山奥の旅館って何故か危ない感じするよね
次の日。
篤史と澄は、朝一番の電車に揺られていた。
そんな中、澄は目の前に座っている篤史に問いを投げかける。
「本当に良かったの?」
「どういうことだ」
「わざわざ相手の誘いに乗るだなんて……どう考えても、これ、罠でしょ」
「しょうがないだろ。こうでもしないとまた被害が出かねないんだから」
二人がこうして共に電車に乗っているのは、昨日の電話が原因であった。
『明日、今から指示する場所に二人だけで来い。でなければ、もっと周りを巻き込むことになる』
それは、澄の言う通り、明らかな罠。誰がどう聞いても、危険であることは確かである。
だが、それでも彼らは電話の指示に従う他なかった。
「貴方、両親にこのことは?」
「いうわけないだろ」
「でしょうね……ま、それが最善の選択でしょ。何せ、相手はあの委員長に不意打ちを喰らわせた奴だもの。下手に周りに喋ったらそれこそ被害が出かねない」
「だな……ほとんど無傷とはいえ、あの柊に一発かましたんだからな」
などと、少し過剰な信頼ともいえる言い分ではあるが、しかし実際のところ、彼らにとってそれだけ驚愕すべき事柄だった。
何より、相手は小さいとはいえ、爆破を行ってきた連中だ。次は何をしでかすか、見当がつかない。
と、ここで篤史はふと疑問を口にする。
「お前こそ、いいのかよ。家族……っていうか、一緒に暮らしてる人とか。心配してんじゃねぇのか」
「……大丈夫よ。今、一緒に住んでいる人は、私のことなんてどうでもいいと思ってるし。嫌われてるわけでもないけど、一方で気にしているわけでもない。いてもいなくてもどっちでもいいって考えてる人よ。ま、だから私も自由に動けるわけだから、そういう意味では感謝してるけど」
「……、」
その言葉に、篤史は何も言葉を返せない。
彼女が今、どんな環境にいるのか、篤史は全く知らなかった。いや、正確には、聞けなかった、というべきか。もしも澄がひどい家庭環境にいるのなら、それはある種、自分の親のせいでもあるのだから。
「ま、どうせ貴方のことだし、私なんかに手を出すつもりなんてないんでしょう? 何せ、男の娘が好きなんだから」
「おいコラ誰がいつそんなことを言った」
「だって、あの『ステップの翼』にあんな格好をさせてたんですもの。そういう趣味があるってことでしょう?」
「何で俺が着させてたみたいになってんだよ。っつか、やっぱりお前気づいてたんだな」
目を細めながら言う篤史に、澄は不敵な笑みを返すだけであった。
そんな彼女に対し、溜息を吐きつつ、篤史は続けて言う。
「……でも、おかしな話だよな。俺達を殺したいんなら、何で直接しかけてこないんだ? わざわざ周りの人間に被害を出して、おびき寄せるなんて真似する必要ないだろ」
「確かにね。以前もVRゲームに閉じ込めよう、だなんて回りくどいやり方をしてきたし。そう考えると、相手の目的は私たちをただ殺すことではないのかもね。とはいえ、どうせロクなことじゃないのは目に見えているけど」
澄の言う通りである。
相手の目的は一切分からないが、しかし、こんな手の込んだことをしてくるのだ。それが真っ当なものではないというのは察しが付く。
「まぁ、おかしなことは、律儀に指定の場所までの地図と金を送ってきたこともそうだけどな」
「場所が場所なだけに、こっちが迷うと思ったんじゃない? 山奥の奥の奥だもの、この旅館」
指定された場所が書かれてある地図を見せながら、澄は言い放つ。
その言葉通り、指定されたのは山の最奥といっていいほどの場所にある旅館。ここで相手が待っている、ということなのか。それとも別の何かが待っているのか。意図が分からない以上、警戒するほかないのが現状であった。
「でも何というか……周りに黙って電車に揺られながら山奥の旅館行くとか、何か不倫旅行みたいで気持ち悪いわね」
「ぶふっ!? おま、なんつーこと言い出しやがるっ!! 俺がいつ、お前とそういう関係になった!?」
「たとえで言っただけでしょ。それに、気持ち悪いってはっきり言ったでしょ。貴方とそういう関係になるのなんて絶対にないから」
冗談とかではなく、真面目な声のトーンではっきりという澄。
いや、篤史とてそんなことは期待していないため、否定はするつもりはないが……何故だろうか。そうまではっきりと言われると、期待していなくても、男として少し心にダメージがくる。
「と、とにかく、これから先は何が起こるか分からないんだ。気を引き締めていくぞ」
「分かってるわよ」
篤史の言葉に、澄は不機嫌そうに言葉を返す。
そうして、二人は目的地へと向かっていったのだった。
ちなみに。
「けど、変な名前よね―――陸奥墓村だなんて……でも何故かしら。もの凄く危ない名前でもある気がするわ。具体的には、毎年ある部屋に泊まると人が死ぬ、的な不可解な事件が起こる、そんな村のような……」
「やめろ。その発言はもうほぼほぼアウトだ」
澄の発言に、何故だか篤史は危険を察し、ツッコミを入れたのであった。
さて、最後のネタが分かる人がどれだけいることやら……。
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