十九話 完璧な変装ほど、案外バレているもの
それから篤史たちは街をぶらつき、色々なところへと遊びにいった。
そして、夕暮れ時。最後のしめとして、彼らはバッティングセンターにやってきていた。
「ふぅー、いい汗をかいた」
言いながら、篤史は休憩所にあるベンチに座る。
その隣には、同じくバッティングを終えた柊がやってきた。
「全く。お前の身体能力には毎度驚かされる」
「そういう委員長こそ、同じくらいホームラン打ってただろうが。お互い様だ」
通常、バッティングセンターでホームランを狙うのは中々厳しいものだ。だというのに、この二人に関して言えば、毎回と言っていいほど、確実にボールを打ち、ホームランを出している。
常識的に考えれば、どちらも規格外だと言える。
「それで、山上。一つ聞きたいことがあるんだが」
「何だ?」
言うと、柊は澄と一緒にバッティングをしている翼の方へと指をさし、問いを口にする。
「彼が女装してるのは、彼自身の趣味か? それともお前の趣味か?」
「ぶふっ!?」
瞬間、篤史は思わず、咳き込んでしまった。
しかし、そんな彼とは裏腹に、柊は話を続けていく。
「よくよく考えてみれば、お前が女より男の方が好きだという可能性は少しあったんだ。何せ、白澤や広瀬と一緒にいるっていうのに、全く進展がないように思えるからな。もしや、とは思っていたんだが……」
「おいこら委員長、さらっと俺が男好きという前提で話を進めるなっ」
「違うのか?」
「違うわっ!! あれには理由があってだな……」
と、篤史は正直に真相を語っていく。
翼には悪いが、ここで嘘をついてもロクなことにならないのは明白。しかも、相手はあの柊だ。下手な小細工など、彼には通用しないのだから。
「なるほど。そういうことか。悪い。流石に俺もそこまでは考えが至らなかった」
「いや、別に謝ることじゃないというか……俺も初見でそこまで理解されたら、逆に怖いし」
そもそも、翼に言われたとはいえ、最初に柊達に何も言わなかった篤史にも責任はある。
いや、それ以前に、だ。
「……っていうか、よく気づいたな」
「ん? ああそうだな。初見じゃわからなかったが、ここ数時間、一緒に行動してて理解したよ。見た目からじゃわからないが、挙動や態度から、男だと分かった。特に、このバッティングセンターでの打ち方でな」
「いやバッティングって……お前、本当に何者だよ。普通、あれで男だとは分からないだろ」
「まぁ、昔から色々とみてきたからな。ちょっとした違いとかが気になるたちなんだ。それに、彼、自分のことをいとこといっていたろ? 俺が知ってる限り、お前のいとこで翼と名前がつくのは、一人しか知らないからな。俺はテレビでしか見たことが無かったが、容姿もかなり似ている。それらから導き出したに過ぎない」
「ああそうか……ん? ちょっと待て。俺、お前に従弟がいるって言ってたっけ?」
「何を言ってる。クラスメイトの親戚関係くらいは把握しておくのは当然だろ」
「おいおいはっきりと言いやがったよ、この委員長……」
最早、それは委員長とかのレベルを遥かに超えている気がする……と思ったが、しかしこの柊に関して言えば、それこそ今更という話だろう。
「ま、そういう点からしてみれば、霧島も彼の正体は理解しているのだろうな」
「あ、やっぱそう思うか?」
「ああ。でなきゃ、あいつがわざわざお前を遊びに誘うことなんてないからな」
澄が翼の正体を知っている、というのは篤史も早々に気づいていた。何せ、彼女は一度、翼をネタにして、篤史を襲っているのだから。逆に勘づかない方がおかしいというものだ。
「大方、女装している従弟と一緒にいるとこをみて、面白半分に首を突っ込んだ、というところだろう……お前にとっては、面白くない話だろうが、俺個人としては少し安心した」
「安心? どこが?」
「あいつが、山上相手に面白いから首を突っ込んでみよう、と思えるようになったことがだ。以前なら、何があってもお前にはかかわりを持とうとしなかったみたいだからな」
確かに、言われてみれば、そうである。どんな面白い状況、ネタになることであっても、事件後の澄は篤史と一切かかわりを持とうとしていなかった。それが幼稚園やVR空間での出来事を経て、変わった結果が、この状況ということなのかもしれない。
「委員長は、本当に霧島の保護者みたいだな」
「喧しい。そういうお前も、白澤に関しては同じだろう」
「別に、そんなつもりは……」
「俺もだよ。ただ、見ていて放っておけない。それだけだ……っと、ちょっとのどがかわいたから自販機でジュースでも買ってくるが、山上は何かいるか?」
「じゃあ、コーラで」
「運動した後にコーラか?」
「いいだろ別に」
篤史の言葉に、柊は苦笑しながら「了解だ」と言って、自販機の方へと向かっていく。
そして、次の瞬間。
柊が向かった方から、爆発音がしたのだった。
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