十六話 だがしかし、男だ
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「ごめーん、お待たせ~」
言われ、振り向くと、そこにいたのは一人の人物。
白いワンピースを着こなしている翼の姿がそこにはあった。
「ちょっとメイクとか色々と準備していたら思った以上に時間かかっちゃって……」
「……いや、俺も今来たところだ」
というのは無論、嘘。
篤史は待ち合わせの三十分前には既に到着していたが、しかしそれをここで言うのは野暮というもの。
けれども、どうやらその嘘は翼には通用しなかったらしい。
「おっ、あっくん成長したねぇ。さりげなくそういうこと言えるようになったとは」
「喧しい」
言うと篤史はもう一度、翼の格好を見る。
「それにしても、あー、何だ……凄いな、色々と」
「え? なにかおかしなところ、ある?」
「いや、逆におかしなところがないことがおかしいというか……」
篤史の言葉通り、今の翼はどこからどう見ても美少女である。
白いワンピースは肩から腕の先まで露出しており、真っ白い肌が曝け出されている。胸元にあるリボンやワンピースの端にあるヒラヒラ部分もまた、女性らしさを醸し出していた。
服装もそうだが、顔の方も少しばかり化粧をしており、いつも以上に色気がある。
だが、それでも間違ってはいけない。
目の前にいる少女のような存在は、れっきとした男なのだから
(……なんだろう。今なら某作品の自称狂気のマッドサイエンティストの気持ちがわかるような気がする)
どこからどう見ても女だというのに、実は男であるという矛盾した事実。
しかも、本人はそれに対し、嫌がるどころか、どこか楽しんでいるようなところがまた奇妙であった。
「ふふん。やっぱりそう思う? 僕も結構気合入れて準備したからね。どこからどう見ても、可憐な美少女でしょ?」
「そういう発言をする時点で可憐じゃないし、自分で美少女って言ってて哀しくならないのか」
「いやー、なんていうか、こういうのはノリと勢いが大事かなって思って。この際、むしろ楽しむ方向でいこうと思って」
「たくましいなオイ」
言いながら、篤史は前向きな翼に対し、ある種の尊敬を覚えていた。
「にしても、また妙な役が受かったな。主人公のことをずっと好きでいる女装趣味のイケメン幼馴染だっけか」
「うん。いやー、少女漫画原作のドラマでね。僕の役、脇役なんだけど滅茶苦茶人気があるらしくて。だから役者を起用するときも色々と難航してたところで、監督が僕のことを見つけてくれて、それでやることになったんだ」
そう。翼のこの格好は、何も彼がそういう趣味に目覚めたわけではない。
単純に、この前受かったオーディションの役が、女装趣味のイケメン男子高校生、というものだったためだ。誰からも好かれる可愛い系のイケメンでありながら、女装趣味があるというギャップのせいか、女性にとても人気らしい。
そして、その役の気持ちを理解するために、こうして街中で女装を披露している、というわけだ。
「しっかし、役作りのためにここまでするとはな」
「当然でしょ。僕、こう見えてアイドルで、俳優でもあるんだから」
「だからって、真昼間から公衆の前で女装するやつがあるか。バレたらどうするんだよ」
「大丈夫だよ。今の僕は、完璧な美少女なんだから。それに、他の人たちだって気づいてないでしょ?」
何とも楽観的な物言い。
だが、否定しようにも、事実誰も翼のことを男だと思っていない。その証拠に、色々と注目を集めているものの、それは単純に周りが翼のことを美少女だと思っているからである。
「……はぁ。まぁいい。実際、今のお前を見て、誰も『ステップの翼』だとは思わないだろうし。 んで? これからどこに行くんだ? 予定くらいは決めてんだろ?」
「勿論。僕の役も主人公と色々街中を回るシーンがあるから、それを疑似体験するために、同じ場所を行くつもりだから」
「具体的には?」
「えーっとね、プラネタリウムに水族館、ゲームセンター、バッティングセンター、あとは……」
「おいおい、それ全部行くつもりか?」
「当然だよ。少しでも役の気持ちを理解するためにも、これは絶対に必要なことなの」
などと言う翼の表情は真剣そのもの。
こんな格好をしているものの、しかし実際のところ、彼女が女装をしているのは、役作りのため。その点に関しては一切おふざけがないことは篤史もよく分かっていた。
ゆえに、彼は断ることはせず、溜息を吐きながら、了承する。
「はぁ……分かった。んじゃ、時間もかかるだろうから、さっさと行くか」
「うん。そうだねっ………………あっ」
と、そこで翼は何かを思い出したかのように、お腹をおさえた。
「? どうした」
奇妙に思った篤史は思わず問いを投げかける。
そして、帰ってきた言葉は。
「ねぇあっくん……この場合、トイレに行きたくなったら、男子トイレか女子トイレ、どっちに入るべきかな?」
「……………………はぁ」
翼の答えに対し、篤史はこれでもかと言わんばかりの長い長いためいきを吐いたのだった。
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