十二話 これも一種のツンデレなのだろうか
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夜。
既に友里も柊も帰り、病室も暗くなった状態の中でのこと。
「ねぇ」
「何だよ」
「なんで、何も聞いてこないのよ」
唐突な澄の問い。
それがどういう意味なのかは、言うまでもない。
「今回の件、少なくとも、私に関係のあることよ? いわば、貴方は私のせいで死ぬかもしれないことに巻き込まれたっていうのに、どうして平然としてられるのやら」
昼間、柊によって見せられた写真。その中にあったのは、かつて澄の父親がやっていた宗教団体の名前だった。
それがどういう意味なのかは分からない。だが、少なくとも、今回、彼女がゲームの中に取り残されたのは偶然ではないというのは確かだろう。
そして、それは恐らく、篤史にも言えることだ。
「そりゃあ、まぁ、言われてみればそうだが……今回はお前も被害者だろ。死ぬような目にあったわけだし」
「呆れた。それが私の罠とか考えないわけ? 自分もわざと命の危険を伴うことで、貴方の油断を誘うとか、そういう思考に思いつかないの?」
「いや流石にそこまで陰湿なことしないだろ。っつーか、お前のあの反応はマジモンだったし……逆にあれが演技なら、怖いが」
無論、それだけの演技力をもっているという可能性もなくはない。今、こうして話しているのもわざとであり、篤史を油断させるためのもの、と作戦ということもありうる。
しかし、篤史にはどうしても今日の彼女の態度が全てうそだった、とは思えなかった。
「……本当に馬鹿みたい。そういうところ、父親そっくりね」
「どういう意味だよ……ああ、そういや、この前親父に電話で聞いたんだが、お前のところに行ったんだって?」
「……ええ。来たわよ。貴方から私のことを聞いて、それで直接会いに来たって言ってたわ……本当、どの面さげてきたんだって感じだけど」
辛らつな言葉。しかし、それも仕方のないこと。事情はどうであれ、澄からしてみれば、篤史の父親は澄の父親の正体を暴き、『父之湖』を潰し、彼女から居場所を奪ったのだ。その元凶が目の前にやってきたとなれば、心穏やかではなかったに違いない。
「それで、どうしたんだ?」
「別に何も。ただ、今まで溜めに溜めまくった諸々を全て拳にして叩き込んだだけよ」
「うん。だけよ、とか言ってる割には結構なことしてるよな」
物騒な答えに篤史はすかさずツッコミを入れる。
「でも」
「でも?」
「……殴ってもびくともしなかった。殴りすぎて逆に私の拳が痛くなっただけっていう、何とも言えないオチがついたわ」
などと、これまた返ってきた言葉に、篤史は苦笑するほかなかった。
「まぁ、親父は俺以上に頑丈だからな。何でも独学で鍛えてたら何か鋼鉄並みの肉体になったとか」
「本当なら、一蹴したいところだけど……確かに、あれは鋼鉄並みの固さだったわ」
それはそうだろう、と心の中で呟く篤史。
彼自身も結構体が頑丈であり、殴られた程度ではびくともしない。だが、それ以上に彼の父親―――山上太郎は化け物なみの頑丈さを持っている。
ネットやら通信教育やらを使って、色々と体を鍛えた結果だそうだが、普通そんなもので、身体が鋼のようにはならない。したがって、太郎がどれだけ常識離れした存在なのかが伺える。
「その後は、色々と謝罪されたわ。今まで気にかけることができなくてすまないって……今更謝られても、何の意味もないっていうのにね」
「…………、」
澄の言葉に、篤史は何も返せない。
彼女の父親がやっていたことは犯罪行為であり、見過ごせないものだった。だからこそ、太郎はそれを潰したのだ。
だが、そのせいで、澄がその後、つらい目にあったのもまた事実。そんな彼女の気持ちを察してしまえるからこそ、正論でねじ伏せることはできなかった。
「私は貴方たちに復讐するために色々してきた。なのに、その貴方たちが簡単に謝ったり、普通に話しかけたりしてきて……本当、気が抜けて仕方ないったらないわ。せめて、女性を脅してモノのように扱うようなクズなら、こっちとしてはありがたかったっていうのに。具体的に言うなら、寝取られエ〇漫画に出てくる間男的なやつだったら、こっちも身を引き締めていけるっていうのに」
「やけに具体的なたとえだな」
そして、ひどい例である。
「しかも、そんな相手に助けられるとか、本当にもう何なのって感じ」
はぁ、と大きなため息を吐く澄。
だが、しかし。
「とはいえ………………助けられたのは事実だし。一応、本当に、一応だけど、お礼は言っとくわ……………………ありがと」
小さな、本当に小さな声音で、澄はそんな言葉を口にする。
それを聞いた篤史は、何か言葉を返そうとするが。
「言いたいことは言ったし、もう寝るわね。それじゃ」
そう言って、篤史が何か言う前に、澄はカーテンを閉め、そのまま眠りについてしまった。
(……何だろう。これが一種のツンデレ現象というやつなのだろうか……?)
そんな、阿呆なことを考えながら、彼もまた眠るのであった。
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