十話 モンスター映画って一種のホラー映画でもある(多分)
「おいおい、あの数は一体何なんだよ!!」
地下の迷宮を走りながら、篤史は叫んでいた。
本来なら、叫ぶよりもさっさと走るべきなのだが、後ろの光景があんまりなために、叫ばずにはいられなかった。
後ろの光景……つまり、無数の怪物、怪人たちが一斉に篤史たちめがけて追ってきているという状況である。
『恐らくですが、相手がこっちの強制ログアウトに気づいたんだと思います!! ログアウトそのものを無効にするのは委員長がおさえているので、最終手段としてログアウトされる前に殺そうという判断かと!!』
「それがモンスターの一斉攻撃ってか!! 考え無しにも程があるだろ!!」
最早、ホラー映画ではなく、モンスターパニック映画だ。
しかし、その数はかなりのものであり、かるく二十は超えている。さながら百鬼夜行のそれであり、あれに巻き込まれたら、確実に死に至るのは目に見えていた。
そんな折。
「痛っ……!?」
「霧島っ!?」
走っている最中に澄がこけてしまう。
かけつけてみると、どうやら足をねんざしているらしい。
「ちっ―――!!」
そんな彼女を見て、篤史は澄の了解を得ることなく、彼女を担いだ。
「っ!? ちょ、何やって……!!」
「文句苦情はあとでゆっくり聞いてやるから、今は黙って担がれてろ!!」
「はぁ!? こんな恥ずかしい格好で我慢しろっていうの!?」
「あれに巻き込まれるよりかはマシだろうが!!」
言い放ち、篤史は再び走り出す。
顔の真横にある澄の腰やその肌に直接触っていることなど、色々と問題があるのは承知だが、今はそんなことに構ってはいられない。
だというのに。
『いや篤史さんっ、こういう場合、お姫様抱っこでは!?』
「喧しい!! ってか、んなことしてたら両手が塞がるだろう!!」
こんな時でも、相変わらずな友里に対し、篤史は一喝する。
そうこうしている間にも、後ろの怪物たちは徐々に距離を詰めてくる。そこには、やはりホラー映画ではお馴染みな面々が揃っており、狂気と殺気であふれかえっている。
中でも一番先頭で飛びながら迫ってくるサメなど、こちらを喰らう気満々だ。
…………サメ?
「いやちょっと待て!! 流石にサメはおかしいだろ!! 何でホラー映画でサメなんだよ!!」
『え? 何言ってるんですか篤史さん。ホラー映画にサメはつきものですよ? ほら、怖いものが近づく時によく流れるBGMとか、あの有名なサメ映画からきてるわけですし』
「だとしても、サメが空中を浮遊しているのは絶対におかしいだろ!!」
『いやー、サメ映画も色々ありますから。巨大だったり、タコと合体したり、砂場を泳いだり、幽霊になったり、頭がいっぱいあってその一部を足にして陸にあがってきたり』
「ツッコミ要素しかねぇな!! ってか、最後のは何だ!? 頭が足になるって意味不明なんだが!?」
『篤史さん。サメ映画に意味不明なんて言っちゃダメですよ。あれらに意味なんて存在しないんですから』
含蓄のあるような言葉を口にする友里に対し、最早篤史は返す言葉もなかった。というか、本格的に冗談を言っている場合ではなくなっている。
「クルルルルルッ!!」
奇妙な声と共に、前方から別のモンスターたちが篤史たちめがけて迫ってきていた。
「くっ……!? 先回りされたか……!?」
言いながら、篤史は思わず立ち止まる。
この迷宮はいくつもの通路が存在するが、しかし篤史たちが今走っていたのは、横道がない完全な一本道。そこで前後から迫られるとなれば、最早逃げる場所など存在しない。
万事休す。まさにその言葉通りの場面だが、しかしそこで奇跡は起こる。
『篤史さん!! ログアウトの準備できました!!』
「マジかっ!!」
『はいっ!! それで、キーワードですが、霧島さんが言えば、二人ともログアウトできるようにしてます!! なので間違えないで口にしてください!! で、肝心のキーワードですが……』
と、友里はキーワードを口にする。
しかし。
「―――は?」
そのキーワードを聞いて、澄は思わずそんな言葉を零す。
「え、待って。ちょっと本当に待って。何? 今聞いた言葉を言えって? それを口にしないとダメなの? 本当に?」
『言いたいことは理解できますが、色々あって、それを設定せざるを得なかったんです!! さぁ、早く!!』
「いや早くって……」
「霧島っ!! お前の気持ちは無茶苦茶分かるが、もう時間がねぇぞ!!」
前後から迫るモンスターたちは、もうあと数十秒足らずで自分たちに襲い掛かれる距離にいた。
「―――ああ、もう!! 分かったわよ!! 言えばいいんでしょ、言えば!!」
やけっぱちだと言わんばかりに言い放つと、澄は大きく深呼吸をする。
そして。
「私、霧島澄は―――処〇である!!」
その言葉と同時。
篤史たちの体は一瞬にして光となってその場から消え去ったのだった。
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