九話 ホラー映画の後半は急展開が多い
友里が言ったように、一つの場所に留まりすぎると、モンスターが襲ってくると分かった二人は、家の中に進んでいった。
いや、正確に言うのなら、地下に降りた、というべきか。
見た目以上に広いとはいえ、家の中では身動きがあまりとれないと判断した結果だ。
そんな中。
「一体何なの、あの連中?」
歩き続ける澄は、そんな言葉を愚痴っていた。
「ここに来るまで、五体以上のモンスターに遭遇したけど……襲ってきたかと思ったら、悉く躓いたり、こけたり、壁にぶつかったりと、やる気があるのかしら? いや、私が言うべき台詞ではないのは重々理解しているのだけれど」
顔が焼けただれた怪人、首がない騎士、チェーンソーを両手に持つ怪物、不気味な笑みを浮かべるピエロ、身体がボロボロになっているゾンビ等々、本当にホラー映画の中から出てきたかのような連中が、次々と篤史たちに襲い掛かってきた。
そして……そのほとんどが、澄の言ったように自滅していったのだった。
「まぁ、そのおかげで俺らは助かってるわけだし、そこに文句言うのは筋違いだろ」
『そうですよ。むしろ、ここは委員長の仕事っぷりに感激する場面ですよ』
その言葉に、澄はムスッとなる。
彼女の言いたいことは分かる。命がかかっている状況で、あまりにもシュールすぎる光景を前にしているため、正直どんな反応をすればいいのか、篤史も理解できていないのだから。
「それにしても、地下がこんな迷宮になってるとはな」
『ええ。まさに、ザ・ホラーゲームって感じですね』
「……心なしか、楽しそうに聞こえるのは私の気のせいかしら?」
『勿論、気のせいですよ』
などと言っているが、それが嘘であるのだろうと、篤史は一瞬で看破した。
が、敢えてそこにはツッコミは入れず、他の質問を投げかける。
「白澤。ここはホラーゲームってことなんだよな? なら、罠とか仕掛けとか、あるんじゃないか?」
『ああ、その点についてはご安心を。このゲームはあくまで色んな怪物・怪人たちが出てくる一種のお祭りゲーで、そこに力を入れてるので、それ以外でプレイヤーが死ぬような罠とか仕掛けとかはありません。まぁ、予算の都合ってやつですかね』
「生々しい話だなオイ」
確かに、主要なモンスターから逃げたり、そいつらに殺されたりするのがメインであるのならば、それ以外の罠や仕掛けで死ぬことはプレイヤーも望んでいないのだろう。まぁ、あと友里の言う通り、予算の都合もあったのだろうが……。
しかし、そのおかげで、罠などの心配がないというのは、幸運というべきだろう。
『まぁ、だからこそ、出てくるモンスター連中については気を引き締めて対処してください。本来ならば、一体だけでもやばいですからね』
「と、言われてもな……」
『言いたいことは分かります。こちらとしても、さっきから状況は見えているので。まぁ、何というか……最早雰囲気が年末にやってる、笑いを堪えなきゃいけないあの番組的な感じになってますし』
「何だよその妙に具体的なたとえは……」
言うものの、しかし実際そういう空気になっているので、反論はできない。
何度も言うが、これは命がかかったゲーム。そして、相手は人を殺すことに特化した化け物たち。その事実は変わらない。
変わらないのだが……やってることが、最早ドジというレベルを超えており、それわざとやってるんじゃないか? と思うほど。故に、つい笑ってしまいそうになるが、しかし命がかかっているために、それはできない。
そんな、何とも言えないシュールな状況になってしまっているのだ。
『でも油断はしないでください。連中の知性と運は下げましたが、それ以外はそのままなので……って、あ、ちょっと待ってください…………はい。はい……本当ですか!?』
「どうした、白澤」
『朗報ですっ。あと数分で、強制ログアウトの準備ができるそうですっ』
「本当か」
『はい。ただ、お二人は今、ウィンドウを開けない状態なので、ログアウトボタンを押す代わりに、ある言葉を口にしてもらいます。それで、ログアウトができるそうですっ』
それはまさしく朗報だった。
逃げるだけで、他に対策がないこの状況で、友里のその言葉は篤史たちにとって希望そのものであった。
「それで、そのある言葉っていうのは……」
「っ!? 山上君っ!!」
と、そこで声を荒げる澄。
そんな彼女の反応が気になり、篤史は後ろを振り向くと。
「……おいおい、冗談だろ!?」
驚きの声を上げ、彼は目を大きく見開いた。
それもそのはず。
何故なら。
「グギギギギギギッ!!」
「スースーハーハーっ!!」
「GYUIIIIIIIIIIIIIIIIIIっ!!」
無数の怪人・怪物たちが、我さきにと言わんばかりに、一斉に追いかけてきていたのだから。
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