七話 ホラー映画の怪物ってどこか憎めないよね
ホラー映画のような怪人が現れた。
そんな状況においてとるべき手段はただ一つ。逃げる。それだけだ。
けれど、篤史たちは、すぐさまその場から立ち去ることはしなかった。
いや、この場合できない……というより、逃げる必要がなかったから、というべきか。
「―――、―――、―――っっ!」
「……えーっと、あれは一体どういう状況?」
「……普通に見ただけのことを言うなら、鉈が天井に突き刺さって、抜けなくなってる、みたいな?」
廊下の一番奥。その部屋において、仮面を被った怪人は、天井に刺さった鉈をどうにかして引っこ抜こうとしていた。
先ほど、澄に対して振り下ろされそうになっていた鉈。だが、それは振り下ろされることなく、天井に突き刺さってしまったのだ。そのおかげで、澄は無事に篤史のところまで逃げてきた。
(何だろう……あんなナリしているせいで、かえって逆に滅茶苦茶間抜けに見える……)
などと篤史が考えている最中にも、両手を使い、思いっきり引っ張ることで、怪人は鉈を引っこ抜くことに成功。
しかし。
「―――っ!?」
「あっ、転んだ」
「まぁ、あれだけ力んで引っ張ればな」
仮面の怪人は頭を押さえながら、こちらの方を向く。
そして、今度こそ、篤史たちに向かって無言で前進してくる。
……はずだったのだが。
「―――っっ!?」
「今度はドアの上の壁にぶつかったわね」
「まぁ、あの巨体だからな」
仮面の怪人の大きさは二メートルを軽く超えている。対して、この廃墟のドアの高さは二メートルもない。ゆえに、頭を下げて通らなければ、ぶつかるのは必然。そんなのは見ればわかるはずなのだが、この暗さ、そして仮面をつけていたせいか、見えていなかったのだろう。
「―――、―――、―――っっぅ!!」
「えっと、あれ、もしかして壁に向かって怒ってる?」
「あー、確かに頭とかうったら、モノとかに当たることはあるしな……」
何度かドアにむかって拳をぶつけ、挙句鉈で攻撃する姿は、完全に子供が癇癪を起こして、モノにあたる姿そのもの。
だが、それが永遠と続くことはなく、ある程度すると、ゆっくりとこちらの方を振り向いた。
「って、やばっ、こっちに向かってきた……!?」
そこでようやく篤史たちも危険を再び覚え、その場から逃げようとする。
そして、それを追いかけようと、怪人もまた足を進めた。
……のだが。
「―――――――っ!?!?!?」
次の瞬間、何やら木材が壊れる音と共に、怪人の姿が一瞬にして消え去った。
その光景を前にして、澄は篤史に問いを投げかける。
「………………もう一度聞くけど、何が起こったの?」
「いや……単純に廊下を歩いてたら底が抜けて、そのまま落ちて行ったとしか……」
ありのまま、今起こったことをそのまま口にしてみる。
……うん。自分で言ってても、何を言ってるのかさっぱり分からない。
「一体、何だったの、アレ……」
「いや、俺に言われてもな」
先ほどまで起こったことに対し、困惑する篤史と澄。
そんな折。
『あー、テステス、聞こえますか、篤史さん』
「っ!? その声は、白澤かっ!?」
聞き知った声に篤史は思わず、声を上げた。
『どうやら二人とも無事のようですね』
「この状況を無事と言えるかどうか、怪しいもんだけどな……それで白澤。これは一体どういうことなんだ?」
一体全体、何が起こっているのか、それをいち早く知りたい篤史は友里に問いを投げかける。
『簡潔に言いますと、現在、外部からのハッキングで、ゲーム機が乗っ取られている状態で、今、お二人だけが取り残されています。でも、委員長が何とか頑張ってくれてて、何とかなりそうなので、安心してください』
「いや頑張ってって……」
何をやっているんだ委員長。
そしてどうしてそんなことができるんだ委員長。
と、色々とツッコミを入れたくなる状況だが、しかしそれで現状が打開されるのなら、それに越したことはない。
『ただ、流石の委員長でもかなり厳しい状況で、今も手が離せない状態です。それで、二人の知り合いである私が、こうしてガイド役を任されたというわけです』
「そうか……それで、白澤。俺らはこの後どうすればいい?」
『基本的には何もしなくて大丈夫です。こちらで強制ログアウトさせる準備してますので。ただ、それにはもう少し時間がかかりそうで……それで、お二人には絶対に守ってもらいたいことがありまして……』
「守ってもらいたいこと?」
『はい……何が何でも死なないでください。そうしないと、二人をログアウトさせることができなくなってしまいます』
「死なないでくれ、か……穏やかじゃないな」
『通常なら問題ないのですが……ただ、もうお気づきかもしれませんが、篤史さん達は先ほど、私たちとやっていた海のバカンスゲームとは違うものをプレイしている状況です。で、それは結構な比率でプレイヤーが死ぬゲームらしくて……』
だろうな、と呟く篤史。
何せ場所すら変わっている状況だ。ゲームが変わっているとしか思えない。
「ちなみに聞くんだが、それってどんなゲームなんだ?」
何となく理解はしているものの、確固たる答えを得るために篤史は問う。
そして。
『「ナイトメアカーニバル」。色んな怪物やら怪人やらが出てきて殺しに来る、ホラーゲームのお祭りゲーです』
予想通りの最悪な答えが返ってきたのだった。
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