六話 湖×廃墟×夜=???
もう一度、確認する。
目の前にはそれなりに大きな湖。そしてその周りには、森が広がっている。
以上。
「いや、以上、じゃねぇよ俺。思考停止するにはまだ早いだろ」
などと自分自身にツッコミを入れながら、篤史はもう一度、周りを見渡す。
しかし、何度見ても結果は同じ、あるのは湖とそれを囲う森のみ。それ以外に何かしら特別なものはなく、本当にここがただの森の中であることを再確認させられた。
「……オーケー、落ち着こう。まずは現状把握だ。これが一体どういう状況なのか理解するためにもまずやるべきことは……」
「何を一人でぶつぶつと言ってるの?」
唐突に話しかけられたことで、身構えながら振り向く篤史。
すると、そこには不機嫌そうな顔をした水着姿の澄が立っていた。
「お、おう、霧島か。おどろかすなよ、びっくりしたじゃねぇか……」
「声をかけたくらいで何よその反応は……って、言いたいところだけど、まぁこの状況なら仕方ないわね」
周りを見ながらそんなことを呟く澄。
「他の人たちは……って、聞くまでもないようね」
「そういうお前も、どうやら俺以外とは出会ってないらしいな」
「ええ。とはいえ、未だに森の中を探索したわけじゃないから、他に人がいないとは断言できないけど」
などと言うものの、しかし森の中から他の人間の声や気配は一切しない。少なくとも、この近くには自分たち以外の人間はいないのは事実であった。
そして、問題はそれだけではない。
「……おいおい。嘘だろ。ウィンドウが開かねぇ」
「こっちもよ」
ウィンドウを開こうとするも、しかし全く反応がなかった。
「ゲームの故障……って考えるのが一番なのだけれど」
「まぁ単純に考えればそうだな……とりあえず、俺達以外に誰かいるか、探してみるか」
「貴方と一緒に行動するのは不本意だけど、仕方ないわね」
そう言って、二人は森の中を探索し始めたのだった。
結論を言うと、森の中には誰もいなかった。
どれだけ探し回っても、足跡一つも存在せず、篤史たちはこの森にいるのは自分たちのみであると理解せざるを得なかった。
だが、それでも何かしらの手掛かりがあるのではと思い、捜索を続けていった。
けれども、その成果はあまりでず、時間は刻々と過ぎていく。
そんな中でも、見つけられたものは存在した。
「森の中に廃墟があって助かったわね」
「ああ。ゲームの中とはいえ、流石にこの格好で野宿はきついからな」
既に日は沈み、辺りは暗くなっている中、篤史と澄は、とある廃墟の中で一休みしていた。
少し大きな一軒家であり、恐らく元は何かしらの別荘だったのだろう。それが全く使われることがなくなり、朽ちている状態だった。尤も、それでも雨風がしのげるものではあったため、二人にとっては幸運といえるだろう。
「とりあえず、一度整理してみましょうか。一通り、森の中を探って分かったことは、誰もいなかったこと。そして……」
「森の先を抜けようとすると、必ず湖に出ること、か」
森の先に何かあるかもしれないと思い、進んでみたものの、結果としてはまた湖に戻ってきてしまった。
それは二人が方向音痴だから、なんてものではない。確かに篤史たちは真っすぐ進んでいたというのに、何故かまた湖へと戻ってきてしまうのだ。
「これ、どう考えても普通じゃないよな」
「何かしらのイベント……と考えるのは正直楽観的すぎるわね。こんなのでドッキリでした、なんてされたら、流石にクレームものだし」
その点については、篤史も同意見だった。
これで後から「実はドッキリでした!」なんてオチがあれば、あまりにも手の込んだ悪戯だ。正直、笑い話では済まされないだろう。
ならば、考えられるのは、ゲームを運営している方の手違い、と考えるのが妥当だろう。
しかし。
(こんな時、白澤だったら、デスゲームの始まりだの、異世界転移だのと言ってはしゃぐんだろうなぁ……いや、流石のあいつでもデスゲームだったらはしゃがない……とは言い切れないな、うん)
そんなことはないだろう、と断言したいものの、そういうことを素直にさせてくれないからこそ、友里は残念妖精なのだ。
「にしても、ウィンドウも開けず、ログアウトもできない。でも、運営からは一切メッセージがない。加えて、貴方と二人っきりの状態。本当に最悪ね。特に最後の要因が一番最悪」
「こんな時でも相変わらず辛らつだな」
「うるさいわね。こんな時だからこそでしょ。しかもお互いこの格好だし」
「そ、そうだな……」
などと、澄の水着を再度見ながら篤史は言う。
……何故だろう。半日一緒にいたというのに、こうしてもう一度見ると、妙にまたエロく見えるのは。
「何? またじろじろと見て。セッ〇スしたいの?」
「だからちょっと待てや。お前、女子としてそういう発言をバンバン言うのやめろ。ちょっと色々と心配になってくるぞ」
「何よ。貴方が私のことを心配する必要なんてないでしょ。全く……」
言いながら、澄は奥の部屋のドアの前に立つ。
「って、おい。何してんだよ」
「この廃墟をちょっと調べるだけよ」
「なら、俺も一緒に……」
「いいわよ。調べるくらい、一人でもできるんだし」
と言いながら、奥の部屋のドアを開ける澄。
すると
「――――――」
「…………え?」
そこには、天井に頭がつく程の、仮面を被った巨躯な男が立っていた。それも、右手に血塗れの鉈を持った状態で、だ。
「っ!? 霧島っ!!」
大声を上げる篤史。
しかし、そんな彼の言葉など意味がないと言わんばかりに、仮面を被った男の鉈は、そのまま勢いよく振り下ろされたのだった。
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