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五話 デュースって続きすぎると流石に飽きるよね

 結論を言うと、試合は篤史たちのチームが勝利した。

 勝利、とは言っても、ほとんど僅差。それも運が篤史たちの方に傾いたから、と言っていい。

 それだけ彼らの試合は接戦だった。


「しっかし、まさか最後のセット、四十点までいくとは思わなかったな」

「ああ。全くだ。正直、どちらが勝つにせよ、あそこまでいくとは思わなかったよ」


 通常なら二十五点をとれば終わりなものの、ずっとデュース状態が続き、気づけば四十点までいっていた。ここがゲームの世界とはいえ、疲れは無論感じる。しかし、それでも、四十点という馬鹿げた点数になっても、二人の集中力は切れていなかった。

 ゆえに、彼らの勝敗を分けたのは別の要因。


「まぁ、お互いいい汗をかいたところだし、早速海に入るか……と、言いたいところだが」


 言いながら、柊は視線を別の方へと向ける。

 すると。


「「…………(チーン)」」


 そこには、互いに体育座りをして意気消沈している友里と澄の姿があった。

 気力が全て削ぎ落され、最早その瞳に光はない。


「流石にちょっとやりすぎたな」


 男子のノリに女子はついていけず、半ば後半はもう篤史と柊の一騎打ちのような状態になっていた。しかし、それでもコート内にいることには変わらず、トスを上げたりもしていたため、彼女たちとてかなり体力を消耗している。というか、最後まで倒れずについてこられたのが逆に信じられないほど。


「まぁ、少し休めば大丈夫だろう。それで、委員長。少し聞きたいんだが……今回は何が目的だ?」


 片目を瞑りながら、篤史は柊に問いを投げかける。


「何のことだ?」

「とぼけるなよ。わざわざ霧島と一緒にこさせた意味だよ。ただの偶然だ、なんていわせねぇぞ」


 篤史と澄のことを柊は知っている。その上で、彼は今回のVR体験に自分たちを呼んだ。それが偶然の一致、ということなどありえないだろう。


「別に、深い意味はない。ただ、お前達……特に、お前と霧島との距離をもう少しだけ縮めさせたいと思ったまでだ」

「柊……」

「分かってる。お前達の事情はよく知ってるからな。こんなことで仲良く友達になれる、なんて思っていないさ。ただ、だからと言って、ぎこちない空気を作られるのは正直こっちとしては困る。前の幼稚園の時もそうだが、ちょっとだけ距離を詰められればいい。そう思っただけだ」


 篤史と澄は、未だどこかぎくしゃくした関係だ。しかし、それは当然というもの。何せ、澄の父親を捕まえたのは、他でもない篤史の両親なのだから。

 無論、それだけのことを彼女の父親はしていたために捕まった。そして、そもそもそのことに篤史は何ら関係ない。

 けれどそれでも、互いの立場を鑑みれば、普通に仲良くしている方が無理というもの。

 柊もその点については重々承知している。だが、それでも彼は少しでも二人の距離を縮めれば、と考えているのだろう。


「余計なお節介、というのは理解している。気分を害したなら悪かった。とはいえ、今の理由は本当にちょっとした理由だ。今回は、本当にたまたま男女二組で来るよう言われてたからな。それで思いついたのがお前達だった。それだけだ」

「ふーん……お前なら、もっと他にも誘う奴はいただろうに」

「そんなことはないさ。俺だって、人付き合いはそこまで得意ではない。こうやって腹を割って話せる相手なんて、それこそお前達くらいだろうよ」


 言いながら、柊は不敵な笑みを浮かべたのだった。

 それが本当かどうかは分からないが、しかし、篤史には彼が嘘をついているようには見えなかったのだった。





 それからしばらくして、女性陣が復活した後、一同は海を満喫した。

 海で泳ぐことは無論、スイカ割りや砂遊びなども行い、全員、思う存分遊びまくった。それはまるで、本当の海に来たような感覚であり、ここがゲームの中であるという実感はほとんどなかった。

 しかし、そんな幸せな時間もいつまでもは続かない。


「―――さて。そろそろ時間だな」


 夕暮れ時。

 柊の言葉に、しかし女性陣はどこか不満げな声をあげる。


「えー、もうですか? 早くないですか?」

「絶対、午前中のビーチバレーが原因ね」


 その言葉に、篤史たちは否定の言葉を返さない。というか、事実ゆえに、反論ができなかった、というべきか。

 だからこそ、返す言葉は別のもの。


「おいこら女性陣。いつまでも終わったことを言うなよ。帰りにうまい店御馳走してやるから」

「え? 本当ですか? やったーっ!!」

「そんなので機嫌がよくなるなんて……真面目な話、白澤さん、貴方精神年齢いくつ?」

「篤史さーん。ごはんの前に私、霧島さんとカラオケに行ってもいいですか? 五分でノックアウトしてきますので」

「ごめんなさい調子に乗りました反省してますのでそれだけは勘弁してください」


 友里の言葉に本気でビビる澄。

 どうやら未だ彼女の中では、友里の歌声はしっかりとトラウマとして残っているらしい。


「おいお前達。いつまで喋ってないで、さっさとログアウトするぞ」


 言いながら、柊はゲームのステータス画面のようなウィンドウを開き、そこにあるログアウトボタンを押し、そのまま光となって消えていった。

 それに続くように、友里や澄も同じように、ログアウトしていく。

 そして篤史も同じく、ログアウトのボタンを押し、そのまま現実世界へと戻っていく。













 ……はずだったのだが。


「――――おい、どこだここ」


 見知らぬ湖を前にして、篤史はそんなことを呟いたのだった。

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・ブクマ・評価の方、よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 方向性が自分にはそろそろ無理です いままでありがとうございました
[一言] 確かに残念妖精のリサイタルは今や範囲系対人宝具だし、これ以上手がつけられないことになる前にゲーム内に隔離するしか…。
[一言] 湖……あ!
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