四話 男子のノリに女子は時々ついていけない
「―――さて、ビーチバレー大会も大詰めの決勝戦!! 残ったチームはなんと、知り合い同士の男女ペアっ!! まさかの知人との対決だが、両者互いに全力を尽くしてくれぇ!!」
と、司会者の声に、会場は大盛り上がり。
そして、そんな中、登場したのは、篤史たち四人であった。
「まさか、お互い本当にここまで来るとはな、山上」
「だな。でもまぁ、俺としては、そっちが残ってるのはあんまり意外じゃないがな」
それは篤史の本心だった。
何せ、相手はあの柊だ。相方の澄が素人だとはいえ、もはや人の範疇を超えているとしか思えない存在が、決勝戦まで残っていないほうがおかしいとさえ思ってしまう。
「とはいえ、やるからには全力でいかせてもらう」
「ああ。正々堂々、互いに力を尽くそう」
とネット越しに挨拶を交わす篤史と柊。その姿はスポーツマンとして、あるべきものであった。
……まぁ、二人隣では、その逆のことが行われていたのだが。
「あら? 本当にここまで残ってるなんて。随分と熱心なことね。そこまであのゲーム機が欲しいの? 何というか、女子としてそれはどうなんだって言いたいわけだけど、まぁ貴方に今更それをどうこう言っても仕方のないことよね」
「いや、完全にお金目当てな貴方にだけは言われたくありませんけど……いいんですか? そんな態度をとって。負けた後、泣きべそかいても知りませんよ?」
「大丈夫。うちの委員長は色々と小言が煩くて、何故か私のいる位置を常に把握してて、その情報はどこから持ってきてるの? とかちょっと本気で引くレベルの人だけど、優秀だから」
「それを言うなら、うちの篤史さんだって、あんないかつい見た目しておきながら、なんだかんだで頼み事を断り切れない、おいおいマジかよと思うレベルでお人よしですけど、強いですから」
などと言いあいながら、相変わらず視線をバチバチとぶつけ合う友里と澄。
そんな二人を見ながら、男連中は。
「……まぁ、何だ。お互い頑張ろう。色んな意味で」
「……ああ。そうだな。頑張ろう。色んな意味で」
どこか、疲れたような声音で、そういったのだった。
そして、試合は柊達のサーブから始まった。
「ふぅぅぅ……」
大きく深呼吸をする柊。
目を瞑り、呼吸を整え、そして。
「―――ふんぬっ!!」
そんな叫び声と共に放たれたボールは、次の瞬間、篤史たちのコートの角、ギリギリのラインに落ちた。
……いや、正確に言うのなら、ぶち込まれた、というのが正しいか。
「…………あのー、篤史さん。私の目には、今、サーブが放たれたように見えたんですが……」
「ああ。そうだな」
「いや、そうだな、じゃなくてっ!! 何ですか、あの殺人サーブはっ!! どこぞのバレー漫画の大王様ですか!? あんなの喰らったらひとたまりもないですよっ!?」
「良かったな、白澤。ここがゲームの世界で」
「いや、全くよくないんですけどっ!! たとえゲームでも痛いのは嫌なので、今から防御力に極振りしてきてもいいですかっ!?」
「何を言ってる白澤……委員長のサーブが、防御力に極振りした程度で痛くなくなるとでも思っているのか?」
「篤史さんこそ何言ってるんですか!? もしかして、夏の日差しにやられてますっ!? いやここゲーム内ですけど!!」
などとテンパっている友里。無理もない。それだけ、柊のサーブは殺人的だった。ゲーム内とはいえ、間違えて顔面にでも喰らってしまったら、ただでは済まないだろう。
「安心しろ、白澤―――今ので、大体理解した」
などと断言する篤史。
そして、それは向こうにも聞こえていたようで。
「ほう。言ってくれるじゃないか。なら、次はとってみせろよっ!!」
言いながら、再び殺人サーブが放たれる。
が―――今度はコート内に叩き込まれることはなかった。
「っと!!」
篤史のしっかりとしたレシーブによって、ボールはその勢いを殺され、天高く上がる。
「うっわ、本当にとった……じゃなくて、篤史さんっ!!」
友里からのトス。それは篤史の頭上よりも少しはなれている。
だが。
そんな打ちにくいボールを。
「―――ふんっ!!」
篤史は、まるでそんなもの関係ないと言わんばかりに、勢いよく相手のコート内にたたきつけたのだった。
その光景を見て、思わず澄は言葉を漏らす。
「…………委員長、今、スパイクされたのよね? 私、全く見えなかったんだけど……」
「ああ。全く、どうやら向こうも中々やるようだ」
「いや、中々やるとかそういう問題じゃなくて。え? 何今の。後ろから物凄い音が聞こえたんだけど。あんなの受けたら、ただじゃ済まないと思うんだけど?」
「良かったな、霧島。ここがゲームの世界で」
「いや全くよくない。良くないから。無理、あんなのブロックしたりレシーブしたりするなんて、絶対に無理だからねっ」
「とか何とかいってる奴の方にボールがいくってのはよくあることだから、気をつけることだな」
「え何その変なフラグは。怖いこと言わないでくれる!? 貴方が言うと、それが本当になりそうだから!!」
などと叫ぶ澄。
しかし、そんな彼女の声も、もう柊には届いていなかった。
「まぁ何はともあれ」
「ああ」
ネットを挟み、互いの顔を見ながら。
「「本番はここからってことだな」」
まるで熱血スポコン漫画の登場人物の如き笑みを浮かべる篤史と柊。
そんな中。
((もうやだ。帰りたい……))
はからずも、同じことを考えている残念美少女たちであったのだった。
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