三話 誰しも初めての経験はあるもの
「「「ビーチバレー大会?」」」
柊の言葉に、一同はオウム返しのように言葉を並べた。
「ああ。事前に言ってただろう? ちょっとした催しがあるって。どうやら男女二人一組のペアで出るビーチバレー大会があるらしくてな。人数的にも丁度いいし、参加してみないか?」
「ビーチバレーか……でも、委員長。俺らまだ海にも入ってねぇんだけど」
「その意見は一理あるが、受付の締め切り時間がもうすぐでな。出るんだったら、今から申し込みをしにいかなきゃいけないんだ」
ビーチバレー。それはある種、海の定番ともいえるスポーツだ。
篤史たちは、まだゲームに入って間もない。故に海にすら入っていない状態だが、それでもせっかくきたのだから、これを逃すのはもったいないというもの。
だがしかし、それは篤史の考えであり、他の者、とくに女子についてはまた別だった。
「いやー、私、根っからのインドア派というか、ゲームの中とはいえ、身体を動かすのはちょっと……」
などと友里はあまり乗り気ではなかった。
それもそのはず。先ほど自分で言っていたように、彼女は完全なインドア派。ここがゲーム世界だとしても、ちょっと動かす程度ならともかく、大会といったような場所で動き回るのは苦手な部類のはず。
……なのだが。
「ちなみに、優勝者には一般に出回ってるゴーグル型VR機の最新型がもらえるらしいぞ」
「何をしてるんですか篤史さん。早くビーチバレーの準備しますよ」
「切り替え早すぎだろお前……」
どうやら、動き回ることの面倒さよりも、ゲーム機を手に入れたいという欲求の方が勝ったらしい。
「白澤は山上と出るということだな。なら、俺は霧島とだな」
「……委員長。私、一度も出るって言った覚えがないんだけど?」
言いながら、ジト目で柊を見る霧島。
その表情は明らかに、面倒くさい、というか、絶対に嫌だ、と言わんばかりのものだった。
「何だ。いいじゃないか」
「よくないわよ。ここに来たことでさえ、半ば無理やりだったんだし……これ以上、貴方の言うことを聞く義理は……」
「ああ、ちなみに優勝したらゲーム機とは別に賞金も出るらしいぞ。確か、十万円だったか」
「何をしてるの、委員長。早くストレッチをして、練習するわよ」
「お前もお前でがめついな、オイ」
確かに十万円という金額は大きいが、それでも変わり身の早さが尋常ではない。もしや、それだけ金に困っているということなのだろうか、と疑問に思ったが、しかし篤史は敢えてそのことには触れなかった。
「当然、山上は参加でいいな?」
「そこで当然というあたり、委員長も強引だな。まぁ、ビーチバレーはやったことはないが、面白そうだし、勿論出るさ。というか、そこの残念妖精が出る気満々だからな」
「保護者として、放っておけないか?」
「誰が保護者だ。こいつにはもう立派な保護者が既にいる。というか、保護者っていうのなら、それはお前もだろう」
「それは霧島のことか? まぁ、俺の場合は保護者というか、監視役というべきなんだが……本当なら放っておいてやるべきなんだろう。が、未だに俺の飲み物やら食事に変な薬を入れてくるような奴を野放しにはできないんでな」
その言葉で篤史は澄が以前言っていたことを思い出す。というか、未だに続けていたのか。
というか
(委員長、何故お前はそれを知っていながら平然としてられるんだ……っていうか、薬盛られてながらよく一緒にいられるよな)
などと考えていると、同じく疑問に思った友里が、澄に対し、言葉を投げかける。
「霧島さん……まだそんなことやってたんですか。懲りない人ですね」
「ふん……別にいいでしょ。それより、白澤さん。貴方、本当に出るつもり?」
「? ええそうですけど。何か?」
「いいえ。ただ、後で負けたからって、報復として貴方の『歌』を聞かされるのは真っ平ごめんだから」
「ほほう……余裕ですね。安心してください。そんなことをしなくても、後で泣きを見るのは、私ではなく、そちらの方なので」
「そう。なら、楽しみにしておくわ」
互いに視線をぶつけ合いながら、そんなことを言い合う女子二人。どうやら、この二人の中では、自分が優勝することが決まっているらしい。
「それじゃあ、全員参加だな。なら、早速申し込みの受付に行くぞ」
柊のその言葉で、篤史たちは大会へエントリーしに行くことになった。
ちなみに。
「あ、そうだ。篤史さん。私、ビーチバレーのルールとか全く知らないので教えてくれますか?」
「お前そんなのでよくさっきの大口たたけたな」
などと友里に対し、静かなツッコミを入れる篤史であった。
さらに言うと。
「委員長。私、こうみえてビーチバレー未経験なの。だから貴方に全部任せるから、よろしく」
「いやそこはせめて一緒に頑張ろうとかいう場面だろう?」
などと澄に対し、呆れた口調で指摘する柊であった。
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