第十四話!
甘かった!部活第一日目はまだ終わっていなかったよ!
「……7回、8回、9回ラスト!」
佐藤のカウントで円になった漕艇部の面々(めんめん)はバーベルを置く。だー、最後は全然上がらなかった。
「一年はこれからしっかり筋トレして、ついてこれるように頑張ること。二、三年も試合に向けてしっかりやれよ。今日は終わり!」
『ありがとうございました!』
部長の島谷さんの締めの言葉で筋トレ終了。やっと終わったー。寮では22時に在寮点呼がある。その点呼が終わったと思ったら、鬼頭さんがダッシュで部屋に乗り込んで来て連行された時にはマジでビビった。
「ごめんな。すっかり言うの忘れてた。」
鬼頭さんが謝りながら近づいてくる。
「マジであせりましたよ。毎日あるなら言っといて下さいよ。っていうか何でバーベル持ってきてるんですか?」
そう、近づいてきた鬼頭さんの手にはさっきまで使っていたバーベルがある。このバーベルは漕艇部の手作りで、寮食でたまに出てくるみかんプリンの缶に石を詰めてコンクリートで固めてある。
「いやー、お詫びに筋トレをご一緒しようかと思って。」
笑顔で答える鬼頭さんは全く汗をかいていない。他の上級生も余裕といった表情だ。
「今までのはウォーミングアップだからな。これからが本番。で、加納はこのバーベル使いな。こっちが軽いやつだから。」
「あ、本当ですね。かなり軽い。」
渡されたバーベルはさっきまで使っていたものより確かに軽かった。…あれ?
「これから本番って、まだやるんですか!?」
「だってそこまで疲れてないだろ?最初だけ全員で筋トレやって、あとは自主トレの時間。23時に消灯時間だから、それまでな。」
腹筋、背筋、腕立て伏せとバーベルを使って二種類。これを一通りやったのだが、はっきり言ってきつかった。腕立てまではぎりぎり何んとかなったけど、バーベルは最後握っているのが限界で、傍から見たらバーベル持ってもがいてる変な奴にしか見えなかっただろうな。
「疲れましたよ!腕の感覚がなくなりそうです。」
「まだまだ元気ありそうだな!大場も向こうでやってるし。」
見ると大場は相馬さんと一緒にバーベルを上げている。大場も俺に劣らず華奢なので苦労しているようだ。その隣では瀬戸もやっているが、あいつはもともとでかくて筋肉質なので余裕がありそうだ。大場も瀬戸も頑張ってるのにやらないわけにはいかないな。
「わかりました。やりますよ。大場に負けたくないんで。」
「よっしゃ!その意気その意気。とりあえず加納は筋肉が無さ過ぎだから、軽めのバーベルで回数こなすようにしよう。」
鬼頭さんがバーベルを逆手に持つので、俺もバーベルを構える。
「人によって筋トレのやり方ってあるんですか?」
「ああ、細かいことはわからないけど、筋肉をつけるには回数をとにかくやるのがいいんだってさ。先輩の受け売りだけどさ。じゃあやるぞー。」
「ういっす。頑張ります。」
そのあとは何度も休憩を入れながら腕が上がらなくなるまでとにかく回数をやっていった。
筋トレが終わってから俺は鬼頭さんの部屋に呼ばれた。
「醤油ととんこつどっちにする?」
「え〜と、じゃあとんこつで。」
鬼頭さんがとんこつ味のカップめんにお湯を注いでくれる。筋トレの後は夜食を食べないと筋肉がつくのが遅くなると鬼頭さんに言われたのだが、何も食べるものが無いですと言ったら、ラーメン食おうと言うことでお邪魔している。
「ありがとうございます。いつも食べてるんですか?」
「ああ、筋トレの後は毎日食べてるよ。いつもは袋のラーメンが多いけど、鍋が一つしかないから今日はカップめん。」
寮は食堂があるのだが、共同の炊事場も各階に用意されているので簡単な調理は可能なのだ。
「なんか腕がプルプル震えてますよ。筋トレって毎日ですよね?」
「土、日は全体はやらないな。別に休んでもいいけど、何だかんだでみんな出てきてるな〜。ほとんど癖みたいになってる。筋トレしないと落ち着かないもんな。」
「もう病気みたいなもんですね。あ、そうだ。土、日も部活あるんですか?」
「さらっと毒吐くなよ。部活は毎日あるぞー。たまに休みがあるけど、基本的に無いと思ってた方がいいな。」
衝撃事実発覚だ!体験入部は土、日はやってなかったけど練習してるっぽかったもんな。
「ですよね。そんな気がしてました。海栄戦もすぐですもんね。休んでる暇なんかないですね!」
「確かに時間ないんだよな。たぶんぎりぎり一本漕げるくらいにはなると思うんだけどな。」
ピヨッピヨッ!ピヨッピヨッ!
「三分たった。食おう。」
タイマーの音か。机の上にはかわいいひよこ型のタイマーがある。鬼頭さん似合わねえー。ごっつい身体でひよこをつついている姿がものすごいシュールだ。
「いただきます!でも、休みないときつくないですか?」
「いや〜、そのうち慣れるな。休み無しって言っても試験週間は完全に休みになるしな。日曜は午後練は休みになる時もあるし。なんとかなるぞ。」
「鬼頭さんが平気って言っても俺にはどうですかね。つっても俺はやりますよ。」
言ってラーメンを食べようとするがうまく割り箸が使えない。もう腕がいうことを聞かなくなっている。
「はは、やる気があるなら大丈夫だな。早く筋トレになれるといいな。」
そう言いながらフォークを渡してくれる。
「ありがとうございます。助かります。明日ものすごい筋肉痛になりますね。」
「心配しなくても大丈夫。筋肉痛じゃない日のほうが少ないから。」
笑顔で鬼頭さんがまたぶっちゃけてる。
「鬼頭さんでも筋肉痛になるんですか?」
「なるなる。筋肉痛は筋肉が成長する証だからな。俺はまだまだ進化するぞ!」
いや〜、もうなんつうか脱帽です。この人について行けば間違いないんだろ〜な。楽しく部活できそうですよ。一生ついて行きます!
そのあともいろいろと話をしてたら日付が変わっていた。いや〜、本当に長い一日だった。




