第5話 止まった街道
ゴオオオッ……と地鳴りのような風切り音が、領主館の窓を激しく揺らしていた。
視界を完全に奪っている。北の山々から吹き下ろす猛吹雪は、数日間にわたってノルデンと外部を結ぶ街道を完全に途絶させ、街を孤立させた。
「……王都からの定期輸送隊および、南部からの薪の定期便、どちらも街道の雪崩と倒木により足止めされております」
詰所で報告するエドワードの声は重かった。
物流が止まったことで、市場の均衡は一瞬で崩れ去った。街の商店では薪や干し肉などの暖房資材・食料の需要が爆発的に高まり、一部の商人たちが価格を吊り上げ始めたのだ。
「薪や魔石値段が秋の三倍以上に跳ね上がっている……!? そんなの、除雪作業で得た日給じゃ到底買いきれないじゃないか!」
カイルは上がってきた市場価格の報告書を見て顔を青くした。
「……領主館で秘密裏に保管している緊急備蓄の薪と食料を、市場に格安で一気に放出しよう。市場の価格を力づくで下げるんだ」
「お待ちください、カイル様」
即座に静止をかけたのは、普段は静かなリーザだった。
「ご自身の優しさから出たお言葉でしょうけれど……安易な価格破壊と一括放出は、かえって街を滅ぼしますわ」
「え……? どうしてだい、リーザ?」
「いま備蓄を市場に安売りすれば、正常な価格で命がけで薪を運んできてくれた真面目な商人たちが破産してしまい、二度とノルデンに物を運んでくれなくなります。それに……万が一、吹雪が予想以上に長引いた時、最後の手札である領主館の備蓄が底をついていたら、私たちは本当に餓死してしまいますわ」
リーザの冷徹なまでに客観的な言葉に、カイルは絶句した。
「……リーザ殿の仰る通りです」
エドワードが深く頷く。
「経済は感情では動きません。全開で放出するのではなく、まずは『価格の上限設定』と『一世帯あたりの購入制限』を設け、備蓄の放出は飢餓を防ぐ最低限の配給に留めるべきです。市場の自由な取引を殺さず、かつ最貧困層を餓死させない……絶妙な配給ラインを維持せねばなりません」
魔石の生成能力があっても、途絶えた物流から実物の薪や小麦を無から生み出すことはできない。
「……分かった。配給制と購入制限のルールを作ろう。みんなの命と、この街の市場を両方守るために」




