第12話 現地調査。
「ハァ……ハァ……ッ!」
僕は息を切らしながら、街のパン屋のドアを激しく押し開けた。
カランコロン、と澄んだベルの音が店内に響き渡る。
香ばしい小麦の香りが漂う店内には、焼きたての食パンや小さな焼き菓子が綺麗に並べられていた。
「店主さん!」
「うわっ!? カイル様か……! ど、どうしたんですか、そんなに息を荒げて!?」
奥の厨房で食パンを窯から出していた店主が、僕のあまりの剣幕に驚いて目を丸くした。
「実は、パンのことで……商いのことで聞きたいことがあってね……!」
「な、なんです? 俺に答えられることなら、なんでも聞いてください」
僕は呼吸を整え、まっすぐに店主の目を見つめた。
「この店では——食パン以外だと、一体なにが一番売れているんだい!?」
「パンの種類じゃなくて、ですか?」
店主は少し意外そうな顔をしてあごをさすり、「ふむ……」としばらく考え込んだ。
「それなら……これだな!」
そう言って店主が売り場から取って指し示したのは、カゴに盛られた香ばしい色合いの菓子だった。
「クッキー……これが、一番売れているのかい?」
「ああ! ノルデンにはここに住む者以外にも、外から来る冒険者や行商人がよく寄るからな。あいつらは旅の途中で食うために、日持ちして崩れにくいクッキーをよく買っていくんだよ」
「なるほど……!」
僕は籠の中のクッキーを一枚手に取った。
指先で裏返し、じっと眺める。
焼き締められた小麦の菓子。水分が少なく、パンよりずっと日持ちする。しかも、この形なら旅の荷物にも入れやすい。
口に出した途端、不意に懐かしさが込み上げた。
前世でも見慣れた菓子だ。
一枚かじってみる。さくり、と小気味よい音がした。
(……待てよ)
視線をクッキーへ落としたまま、考える。
あんぱんが売れなかった理由は、味が悪かったからじゃない。見慣れない食べ物だったからだ。
なら——。
(見慣れたものに、見慣れない味を忍ばせたら……?)
「店主さん」
「はい?」
「このクッキーに……ルージュ餡を挟めないかな」
「…………餡を?」
店主が目を瞬いた。
「ああ。ただし、そのままじゃ駄目だ。水分が多すぎる。日持ちという長所を殺してしまう」
餡の水分をもっと飛ばすか。生地を薄くするか。焼き方も変える必要があるかもしれない。
そもそも——。
(これだって、売れる保証なんてどこにもない)
ついさっきまでの僕なら、「美味いのだから売れる」と思い込んでいただろう。
そして、一度失敗した。
だから今度は決めつけない。
旅人が本当に求めているものを聞く。
僕は手の中のクッキーを握りしめた。
「……やってみよう」
「カイル様?」
「また失敗するかもしれない。賭けになるかもしれない。だけど——」
クッキーを見つめ、僕は小さく笑った。
「やる価値は……ある!」




