66話 Side アレス
Side アレス
また、あの子供たちに出会った。
小さな少年と、少女2人のパーティだ。いや、パーティって言っていいのかな? 傭兵じゃないわけだし。
僕は彼らが気になる。気になって、仕方がない。
最初は、彼らのことが心配なんだと思っていた。心配ではある。それは確かだ。あんな小さい子たちが、深層で戦うなんて無謀にしか思えない。
でも、彼らは強いようだ。転生時に神様にインストールしてもらった剣術の理合いは、僕を自動的に達人にしてくれている。達人というのは振るだけじゃなくて、見る側でも極まっているらしい。
剣を振るっている姿を見なくても、少しの動きや佇まいだけで剣の腕前がある程度理解できるほどだ。
そんな僕から見て、彼らは素人だった。多少鍛錬はしているようだが、駆け出しの傭兵とどっこいくらいだろう。
でも、その内に秘めた魔力は高い。絶対に魔法が使えるはずだ。そうでなくては、ここまでは来れない。
駆け出しレベルしかない武術の腕前に対し、普通の魔法師すら及ばない高い魔力。そして、獣人という珍しい種族。下衆な傭兵がたまに使うという囮奴隷でもないようだし……。
彼らの背景が全く想像できない。
いったい、どんな存在なのか、とても気になった。
でも、それだけじゃない気がする。自分でもよく分からないんだけど、どうしても彼らを意識せずにいられない。
特に、黒髪の少年。同じ黒髪だからってだけじゃない。彼を前にすると、どうしても目が離せなくなる。
そして、心の内側にもやもやとした不思議な気持ちが湧き上がる。これが好意なのか悪意なのかさえ、自分でも分からなかった。
ただ、ひたすらに彼が気になるんだ。
なんでだ?
どれだけ考えても分からない僕は、彼らを観察することにした。ただ、そう決めてからが大変だったけど。
彼らは僕の予想を超えて鋭い感覚を持ち合わせていた。多少離れていた程度では、こっちの気配を察知されてしまうのだ。獣人っていうのは、鼻や耳がいいんだろうな。
そのせいで何度か発見されてしまい、逃げられてしまった。
結果、声が拾えないくらい遠くからなら、何とか尾行ができると判明したんだが……。遠すぎて、彼らが何をしているかいまいち分からない。
魔法で戦っているのは確認できたけどね。
というか、こんなことをしていて何か意味があるんだろうか……。自分の行動の意味不明さに頭を抱えた、そんなある日のことだった。
少年たちと予想外の場所で再会した。本当に驚いたのだ。まさか、こんな奥地にまで足を延ばしているとは思わなかった。
それこそ、僕以外の傭兵を見たことがないような、深層でも魔獣が特別強いエリアである。どうやらエルンストの町の傭兵でも、このエリアのことを知っている者はいないらしい。
秘匿されているってよりも、ここまでたどり着いた者は死んでしまったんじゃないだろうか? それくらい急に、出現する魔獣の格が上がっていた。
その分、正解のルートっていう可能性は高いと思うが。
彼らを止めようかと思ったが、僕にそんな権利はない。結局、彼らを陰から見守ることしかできなかった。
いざとなったら割って入って助けよう。そんなことを考えていたんだが――。
「!」
驚愕っていうのはこのことだろう。
少年たちが、ハードシェルバグをあっさり倒してしまった。まるで倒し方を完璧に熟知していたかのようだ。
でも、驚いたのはそこにではない。
それよりも驚いたのは、少年の放った魔力に関してだった。
「あの魔力は……」
微かに、竜の力が混じっていたように感じた。それも、天竜によく似ていたような……?
いや、気のせいだろうか?
でも、あれは……。
混乱したまま、僕は少年少女の後を尾けていった。
彼らは恐ろしく強い。キラートレントを瞬殺し、パラライズアイの群も瞬殺し、怪我すらせずに深層を進んでいく。
あれほど強かったのか。だが、それも当然と思える。
やはり、彼らからは竜の魔力が感じられた。それも、天竜と同質の魔力で間違いがない。特に黒髪の少年だ。
彼がその口から竜の如く火炎を吐き出した時、確信に変わった。少年の内部で膨れ上がり、喉を通って放出された魔力。あれは天竜がブレスを吐く時とよく似ていたのだ。
だが、なぜあの子供たちが?
その後も観察を続けたが、僕は次第に彼らに対し苛立ちを覚え始めていた。
凶悪な魔獣に勝利して、笑い合う少年少女。亀のような魔獣を倒し、ハイタッチをしながら喜んでいる。僕たちが失くした幸せを、彼らが享受している。
僕の仲間は、命を失いながらも天竜を倒したっていうのに……。
僕らから天竜の力を盗んだお前らが――。いや、本当にあの子供たちが天竜の核を盗んでいったのか? でも、力を得ているのは間違いない。核の力もはっきり感じられる。
あいつらが、盗んだ……! 僕らの、命がけの成果を――!
だが、そもそも核があるからと言って天竜の力を得ることなんてできるだろうか? それとも、何か方法が? いや、あんな子供たちにそんなことができるわけ――。
ああ、ダメだ。考えがまとまらない。黒い影のようなものが、僕の全身を包み込む。
「ああ……」
ダメだ。もうダメだ。
心まで、黒い影に覆い尽くされる。
「ああああああ!」
何笑ってやがる! 盗人のお前らが、なんで笑ってやがるんだヨォォォ!
「ウオオォォォォォオォォ!」




