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ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~   作者:
本編

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そんな目で見ないで

 


「おはようございます、よく眠れましたか?」


 少女たちがパチパチと目を瞬かせた原因は、確実に俺なのだろう。


 昨日のことがあるとはいえ、仮にも貴族男性がキッチンでおたま片手に優雅に微笑むという絵面が、寝起きの頭には上手く馴染まなかったらしい。

 ちなみに男性陣にも同じような反応された。


 ああ、昨日のこと夢じゃなかったんだな、みたいな。


 別にそこまで現実見失ったみたいな顔しなくてもよくない?これで三角頭巾に割烹着とかいう出で立ちだったら、俺が第三者でもきょとんとするけどさ。


 貴族が料理したっていーじゃん。

 俺は庶民派なんですー!


「着替えを用意してありますから、朝食前にどうぞ支度をしてきてください」


 昨夜、学園側に生徒の無事を報告ついでにソラに送って貰ったから、着替えもバッチリ準備済み! 

 少女たちに支度を促しつつ、再びキッチンへと戻った。


 リフと一緒に作った朝食は、豆とウィンナーの煮込みだ。

 味付けはトマト缶をベースにちょっぴりスパイシーに。バゲットはそのままと、たっぷりチーズをのせてトーストしたものの二種。デザートにフルーツといったそこそこボリューミーなメニュー。

 朝から森を歩くし、腹持ちを考慮してみた。


 食事をとりつつ今後の予定を確認する。


 幸い合宿二日目の今日は班ごとの自由行動なので、一度本来の宿泊先のホテルへ向かい学園側へ経過の報告。その後は出かけるなり、他の生徒が戻ってくるまでホテルで休むなりすればいい。


「では、行きましょうか。途中で足が痛くなったり具合が悪くなった方は遠慮せず言って下さいね。もれなく昨日の彼らがお姫様抱っこで運んでくれます」


 昨日怪我をしたロイ青年と女性陣へ向けて微笑む。


 もちろん、アレクサンドラとシリウスもOKだからな!!

 影の皆なら体格のいい男だって軽々運んでくれるって信じてる!

 むしろ怪我でもしたら問答無用でひょいってされそうだから、俺は絶対足をくじいたりしないぜ!!


 歩くこと一時間半ぐらいで無事にホテルへと辿り着いた。先行した影が道払いをしてくれたため、快適な道のりだった。行く先々に獣の死骸とかが転がってるのは、ある意味ホラーだったけど……。



「カイザーお兄様っ!!」


 名を呼び、ベアトリクスが駆け寄ってくる。ぶつかる勢いで抱き着いてきた妹を受け止め、ぽんぽんとその背を叩きながら落ち着かせる。だいぶ心配をさせてしまったようだ。


「お兄様っ、大丈夫でしたの?!リリー様やナディア様たちも、私、心配で心配で」


「大丈夫だよ、ソラやサスケもそう言っていただろう?」


「そうですけどっ……」


「どこもお怪我はありませんか、兄上?」


勿論(もちろん)、リフがこうして出歩くのを許してくれてるのがなによりの証拠だ」


 同じく心配して近寄ってきてくれた面々に、怪我がないことを示すように軽く両手を広げて見せた。

 万が一怪我でもしてたら、問答無用でソラに転移させたうえで手厚い看護を受けてるに決まっている。そんな意味を孕んだ言葉に「当然です」とリフも頷く。

 そしてリフのことをよく知る面々にとっては、この発言の信憑性は抜群だったようだ。ほっと肩をなで下ろされた。


 リリー嬢たちにも会いたがるベアトリクスを連れ、一度別れた彼女たちの元へと向かえば……彼女たちも自由行動から戻った友人たちに心配して取り囲まれていた。


 なお生徒の不安を煽らないためにも、人攫いと魔獣の“大群”に遭遇したことは箝口令が敷かれている。魔獣に遭遇し森の奥へ入り込んでしまい、夜の森を抜けるのは危険なためコテージで一夜を過ごした。

 それが表向きの言い訳だ。


 そんなこんなで人目のあるとこで詳しい話をするわけにもいかないので、シリウスの提案で彼らの部屋へと向かった。

 集まったのは以前のサロンと同じメンバー。

 二人部屋なので当然大人数が座れる場所などなく、ソファと椅子を女性陣四人に譲り、男性陣はそれぞれベッドに腰かけたり壁に凭れかかる。


「魔獣だけでなく、人攫いにまで遭遇したとか……」


「お怪我を……!私、手当致しますわ」


 リリー嬢やアレクサンドラに手当の痕にカトリーナ嬢が手当てを名乗り出てくれ、治療を受けつつ昨夜あったことを話す。

 なお治癒が終わり…………大袈裟に礼を言いつつカトリーナ嬢の両手を包み込んだアレクサンドラは、シリウスとガーネストの連携プレーによって引っぺがされた。


「ですが良くご無事でしたね、本当に良かったです」


 安堵を滲ませるサフィアの言葉には全くの同感。

 裏稼業相手によく凌いだものだ。さすがは攻略対象者+その護衛。


「アレク様とシリウス様が皆を守って下さったので」


「なにを言う。女性を守るのは当然のこと。それにリリーだとて的確に状況判断をして崖や危険を回避してくれたではないか。ナディアも怪我をしたリリーを守っていただろう」


「私は……ただ立っていることしか出来てませんし」


「そんなことありませんよ、あの状況で怯えて取り乱すこともなく冷静に動ける女性はそうはいません」


 うん、皆よく頑張った!!

 そして好感度も順調に上がっている感じです。


「それにカイザー様達が来て下さったお蔭です!」


「あのフードたちもだが、魔獣の大群は貴殿らが居られなかったらどうにもならなかったからな」


「カイザー様がティーナ様の代わりに人質となられた時は、どうしようかと思いましたが」



「「人質?」」



 あ、ヤバい……。


 そう思った瞬間、ガーネットとシトリンの瞳がじぃっと俺を見据えた。


「どういうことです?!」

「どういうことですの?!」


 二人分の叫び声が木霊(こだま)する。

 息ぴったりですね、さすが兄妹。

 そんな感想を抱きながら、ずずいと詰め寄られてちょっと仰け反る。


「いえ、あの……そのですね……。捕らえられた女子生徒を助ける為と、奴らを油断させたかったこともあって」


「そういう問題ではありません!!」

「そういう問題ではないですわ!!」


 敬語かつしどろもどろな言い訳は一刀両断された。


「や、危険性はなかったし。影の皆が潜んでるのも知っていたしね」


 じぃぃと見つめてくる視線の圧が辛くて、慌てて言葉を重ねる。


「それにハンゾー達もリフも居たんだよ?本当に危険がある状態なら、彼らがそんなことを私に許すと思うかい?」


 自害させたくなかったし、情報を得たいから油断させるためにあんな手段をとったけど。もし本当に俺に危険があるぐらい奴らが手練れなら、情報だのなんだのお構いなしに問答無用でハンゾー達は奴らをサクッと殺してただろう。


「「確かに」」


 全力で納得された……。

 ハンゾーやリフの俺の扱いに対する信頼感がエベレスト並みに高い……。



「そういえば、ちゃんとお食事を口にされていないのでは?」


 話も一段落し、「ルームサービスでも頼みますか?」とそう気にかけてくれたのはサフィアで、そんな彼の言葉に沈黙が下りる。


「「「「……」」」」


 四対の視線が無言でこちらを見つめ、彼らは口々に言い始めた。


「いや、普通に美味な食事を口にしていた」


「遭難中とは思えない、まさかの充実した食生活でした……」


「カイザー様、すっごい料理お上手なんですよ。ナディア様とリフ様も。ポトフにコールスロー、デザートに焼き林檎まで作って下さって!今朝もガッツリ頂きましたし」


「私はそんな……。ほぼ先生達が作って下さいましたし」


「満天の星も素敵でしたよね!」


「あれは素晴らしかったな。其方(そなた)たちに勝るとも劣らない美しさだった」


「あんな星空初めて見ました」



「「「「……」」」」


 はしゃぐリリー嬢たちの姿に、今度は先程とは違う四対の視線が無言で俺を見る。

 ガーネスト、ベアトリクス、ダイア、カトリーナ嬢である。

 ただ一人、サフィアだけが「料理?」と首を傾げてる。正しい反応ですね。



「カイザー殿、お菓子だけでなく食事まで作れるんですか?」


「俺も以前作って頂いたが、ドレス・ド・オムライスは美しいだけでなく絶品だった!」


「オムライス??ああ、母上お気に入りのコメを使った料理かい?」


「オムライスっっ?!!」


 ダイアの質問にガーネストが自信満々に答え、さらにはそのメニューに……というか米の存在にリリー嬢が喰いつく。


 ……だからリリー嬢、キャラ剥がれてるって。


 一方、


「むしろお菓子作りもなさるんですか?!」


「お兄様の手作りは絶品ですのよ!!白鳥の形をしたシュークリームや美しくフルーツを盛り付けたシュー菓子などまさに芸術品ですわ」


「本当に味も造形も素晴らしい出来栄えでした」


「お菓子作り……あまり想像が出来ませんが、凄いですね」


「あら、サフィア様も召し上がったことが御座いますわ。以前お渡しした肉球クッキーはお兄様の手作りですもの!」


「え、あれ手作りなんですか?てっきり既製品かと」


 先のダイアの質問にシリウスが驚き、ベアトリクスが自信満々に答え……っていうかあのクッキー流出してたのっ?!


「肉球クッキー……」


 再び向く一同の視線。今度は全員。


 止めて、見ないで!

 だって可愛い方がベアトリクスたちが喜ぶかと思ったんだよ。べ、別に俺の趣味じゃないしっ!


 なんだかんだで話は盛り上がり、また手料理を食べたいという可愛い弟妹の催促には勿論(もちろん)肯定をし、「是非食べに来て(意訳)」と友人を誘う姿を微笑ましく眺める。



 いーですよ、可愛いウチの天使たちが喜んでくれるならいくらでも作りますとも!!




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