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ラストエピソード ――女顔のクラスメイトと異世界転移したら女になっていたよ。うん、俺が。―― act2

「で、どうやってお前にエネルギー? を渡せばいいの? そもそも俺は魔力とやらを取り込んでる自覚もないし、体内にエネルギーがあるなんて感覚もないぞ?」



 石田に額から力を送られた時には確かに凄い活力が漲ったけど、魔力と言われても自分の中でなにかが起きている感じはしない。体が女になったのは嫌になるくらいわかってるけどさ。


 俺が聞くと石田は下唇に右手の人差し指を押し当て小首をかしげる。そういうポーズを無意識に取れるのがコイツの怖いトコだ。揺れるツインテールが可愛すぎだよ、本来の自分になったお前。



「神様が言うには触れ合うと良いんだって」


「触れ合う?」


「うん、さっきケイちゃんが僕の汗を拭いてくれたでしょ。あの時スグに汗がひいたじゃない? 弱いけど力が回復した感じは確かにしたんだよね」


「ああ、あのGC処理してんのかってくらいに急に汗が消えた時か。まさかアレに、ちゃんとした理由があったなんて驚きだ」


「うん、完全に回復はしないけど、ちょっとダルさが取れたような気はしたの」


「よくわかってないまんま無茶しないでくれよな? お前に万が一があったら、どうしたらいいかわかんないじゃん。お前になにかあったら、俺もう生きていける気がしない」


「う、うん……ゴメンね」



 石田が熱を帯びた目で俺を見る。泣き腫らした目とは違った、別の熱量の瞳。なんでそんな目をするかな?



「ハンカチで拭くくらいだと弱いのか。なら、キチンと回復するにはどうすればいい?」


「えっとね、神様が言うには……その……」



 また言いづらそうにしてるよ。ったく。



「隠し事禁止!」


「ゴ、ゴメン……そのね? 触れ合いが大事なんだって」


「触れ合い? なにそれ」



 これからは友情を大切にしろとか、そんなのか。



「恋人がするみたいなコトをすれば良いって言われたの」


「…………は?」



 恋人同士でするコト。なんだそれ。

 石田は顔を真っ赤に染めると、恥ずかしそうに早口で言う。



「神様に言われたの。「どうせ付き合っちゃうんだし、オマエらも色々したいお年頃だろ? 大丈夫でーじょーぶだ。なんだかんだ言ってお前に本気で好かれたら、圭なんてソッコー堕ちちまうから押せ押せでイケな? アイツ、チョロいぞ、絶対」って……」


「なんだそれ! どんな根拠で俺がチョロいってコトになってんだ! あとお前もアイツの言葉を一語一句覚えてんのが、なんか怖いんだけども!」



 あのクソヤンキー絶対許さない! なにが色々したいお年頃だ! 石田にそんなデリケートな話題を言いやがって。今度会ったら引っ叩いてやるわ。



「まあ、アイツの言葉なんか気にすんな? けど、触れ合い、恋人同士……それってつまり……」


「う、うん、つまりは…………あ、あのね、憶測するよりも確認しよ? 今からマニュアルを読んでみるから、ちょっと待ってて」


「いや、いい。読むな。アイツの用意したマニュアルを確認すんのが凄え怖い」


「え、でも使い方を知らなきゃ困るし。それそこ万が一のコトがあってピンチになるかもしれないよ」



 万が一。なにが起こるかわからない。

 そんな世界に二人で放り込まれた。俺たちたった二人でだ。



「ったく、しょうがないなあ、もお! ……じゃあさ?」


「……うん」


「とりあえず、こんなのはどお?」


「あ……」



 手綱を握って馬を操る邪魔にならないように、石田をそっと抱き寄せる。

 小柄だと思っていた体が、今では俺とさほど変わらない。そりゃそうだ、俺の背が縮んだんだから。俺もコイツと同じで小さな存在になってしまった。


 能力があるとかないとかなんて関係ない。

 広い世界では俺たちは小さい存在だ。

 小さな二人が広い世界で生きていくには支えあっていかなけりゃならない。こんなふうに寄り添って。



「俺さ、お前に付き合うことにしたから。最後の最後までトコトンな」


「…………」


「俺だけはお前の味方だ。どんなことがあっても俺だけはお前の傍にいる。なにがあっても絶対だ」


「ケイちゃん……」



 石田の頬に自分の頬を摺り寄せる。

 自分でも不思議だが男相手なのに不快感はない。それはきっと、女のような可愛らしい顔をして良い匂いまで漂わせている石田が相手だからなんだろう。



「女が苦手なのに悪いな。恋人同士の触れ合いっても色々だろ? イヤだろうけどちょっとは回復出来たらなって思ってさ」


「ううん、ケイちゃんは苦手なんかじゃないよ。もっとして。もっと僕の傍にいてほしい」


「そっか」



 石田はなにか言葉を呟くと手綱を離す。体を俺のほうに向けると、離した手をそのまま俺へと広げ抱きついてきた。

 力を使い続けたせいか少し冷えた体が俺を包み込む。ったく、無茶してたのかな。よしよし、お前はよく頑張ったよ。だから、あんま心配させんなよ。



「もお、ケイちゃん。子供じゃないんだから頭ポンポンしないでよ」


「じゃあ、もっとしてやる。そんなことより馬は? 手綱離したらヤバくない?」


「馬さんにはゆっくり歩いててってお願いしといたの。しばらく道なりに進んでくれればいいよって」


「そんなん頼めるなら手綱の意味ねえし! って、そっか、馬と会話するにもチートの元のエネルギーがないと無理ってことか」


「そういうこと、さすがケイちゃんは察しがいいね。カワイイいよ」


「ったく……あのヤンキーの前ではカッコいいって言われたのに、今じゃ可愛いか。あれからまだ数時間しか経ってなさそうなのにさ、変わりすぎだろ。俺」


「ふふふ……あのさ、ケイちゃんは怒ってないの? 知らない世界に連れてきて女の子に変化までさせた切っ掛けの僕に」



 抱きついたまま石田が訪ねてきた。ヤツの体と声が震えているのがハッキリと伝わる。

 ホント、ツマンないこと聞いてくるよなあ、コイツは。



「アホか。怒らないわけないだろ、お前」


「だよね……」


「でもさ、俺、この状況って自分の鍛錬みたいに考えようかなって思ってる」


「鍛錬?」


「そ。俺って今まで凄く重要な所で本音を言えなかったりさ。琴の時は騙すような真似までしちゃってた」


「……」


「人付き合いに慣れて調子に乗ってた所もあるしね。だから変わっちゃった自分で、一から対人スキルを磨いたり……女の子の気持ちもわかれるようになれればって思ってさ」


「女の子の気持ち?」


「自分でもうまく言えないけどさ。うん、まあ騙したように付き合いだした琴に対する償いじゃないけど……女の子がどんな思いをするのかとか身を持って知りたい。あとは自分をもう一度見つめなおしたりさ、そんなかんじ? はは、なんか上手いコト言えないな」


「どんな危険が待ってるかもわからないのに? 現代っ子の自分探しみたいな、お気楽感覚で異世界を旅しようなんて危険すぎるよ」


「それを言ったらお前だってそうじゃん。鹿も倒せないクセになに言ってんだよ」


「あはは……そうだね」


「だからさ」



 俺は石田を抱く力を込めて言う。



「守ってくれよ、俺のコト」


「……うん、約束するね」


「信じてるから」



 俺たちはお互い無言で体を重ねる。

 正直言えば親以外と、こんなに密着したことなんて生まれて初めてだ。しかも相手は男。

 なのに、俺は今とても充実した気持ちになっている。未だ感じたことがないくらいの幸福感。胸がキュっと締め付けられる、痺れにも似た感覚が本当に気持ち良い。


 この心地よさは、女の体になった不安を安らげようとするものなのだろうか。それとも異世界効果とか魔力の成せる技なのだろうか。

 だとしたら異世界って結構怖いな。こんな状況が続いたら俺、戻れないポジションに収まっちゃいそう。



「どう? 力が回復した感覚とかあんの?」


「うん……なんだか体が温かくなってきて、凄い幸せな気分になってるの」


「そか。まあ、これからはあんま無理しないで? 俺が不安になるからさ。あとこんなのでイケそうなら、回復方法のマニュアルは読まなくていいから。内容が怖すぎる」


「あはは、けど、さすがケイちゃん。選ばれし者だけあって、本当に女の子に近づいてる感じするね」


「なにそれ?」



 石田は体を離すと、俺の顔を覗き込むように「僕もよくわらないんだけどね」と話をする。



「神様が言ってたの。魔力で女の子に変化したケイちゃんが、心身共に女の子になるには半日くらいかかるって」


「心身共にってどういう意味? 体はともかく心ってなんのこと?」


「さあ? 僕にもなんとも言えないけど、でも心なしかケイちゃんの言葉遣いが微妙に変わってない? ちょっと柔らかくなってる印象があるんだけど」


「なにそれ。女は乱暴な言葉は使うなって言うの? そういうのってセクハラにあたるんじゃないのかな?」


「えっとー、僕は自分でツッコミキャラじゃない自覚はあるんだけど、今のケイちゃんには凄いツッコミたい心境かなあ」


「またセクハラ発言してるよ! この男」


「違うからね? ケイちゃん」



 女はこうあるべきとかって、性差別に繋がるんじゃないかな? いるよね、そういう男って。余計なお世話だっての、ほっとけ。


 うん、なんで俺って、こんなコトでイラついたりしてんだろうね?




次話でラストです。

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