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25 ヤンキー

 随分懐かしい夢を見た気がする。

 目が覚めた俺はそんなことを考えた。


 ところで今なにしてたんだっけ……?

 たしか石田と一緒に草原から街道へ移動したんだ。そこでアイツが「移動する馬車の用意をしたいんだけど、アイテムボックスのどこにあるかわかんなくなっちゃったから、ちょっと待ってて」って言われたような。


 そうだ。そのまま空間の隙間に手を突っ込んで「あれ? ここじゃない。ここでもないな……」とか言いながら、馬車を探すアイツを頬杖ついて見てるうちに寝ちゃったんだ。


 でも、ここはどこだ?

 俺と石田は街道沿いの草原で、さっき言ったやり取りをしていた。

 なのにここは草原とは別な場所。霞みがかった明るいような暗いような不思議な空間だ。


 って、ここ、前にも来たことあるよな? 時間にしたらほんの数時間前くらいにさ。



「よー、パシリ。どーよ、調子は」


「誰がパシリだ!」



 嫌な声が聞こえてきた。

 凄く可愛い声なのにチンピラっぽい口調。発音からテンポまで、なにからなにまでヤンキーとしか思えないその声が。



「オメーに決まってんべ」


「やっぱ、あんたかよ……」



 俺と石田を異世界に送り込んだ張本人。俺が女になってしまった原因を作ったタチの悪い異世界の神。



「なかなかカワイーじゃん? こーなってみっと、やっぱ母ちゃん似だな。悪かねーよ、オマエ」


「なにが母ちゃん似だ! つーか悪いことだらけじゃんか。俺にとっては」



 チンピラオーラ全開の、あのドヤンキー可憐美女神が、腕を組んだ偉そうなポーズで俺に笑いかけてきた。あんた、俺の母親の顔なんか知ってんのかよ? いい加減なコトばっか言いやがって。



「まー聞けよ、パシリ。オマエじゃねーとタツヤはどーにも出来ねーんだから。オマエがいなきゃ魔王もシメらんねーよ」


「どういうことだよ?」



 ヤンキーが要を得ないことを言う。

 俺がこの世界に連れてこられたのはアイツが出した条件だったから。

 つまりは厳密に言えば俺なんかいなくても、魔王退治にはなんら問題はない。



「タツヤって結構キテるじゃん?」


「あんたハッキリ言うのな。まあ、否定出来ないけどさ」


「だべ? アイツを一人でこの世界に寄こしたらシャレんなんねーと思ってさ。ワケわかんねーコトしでかして、三分で死んじまうかもしんねーじゃん? あーゆーイカれてるヤツって、キレっとなにすっかわかんねーしさー」


「本人いないトコで言いたい放題だな。じゃ、なんでそんな危なっかしいヤツにチート能力なんかやったんだ? 正義感があって勇ましいヤツにでも頼めば解決じゃねえか」



 ヤンキーは俺を見つめると可愛く小首をかしげた。

 最初に会った時もそんな仕草をしてたっけ。その後すぐにヤサグレたセリフを吐いたけどな。



「んー、あたしが与える力ってさ、波長みたいなもんがあって、いくら探してもそれがうまくかみ合う相手が意外と見つかんねーんだよ」


「相性みたいなもんか?」


「まーそんな感じ。で、いろんな世界を探してようやく見つかったのが、あのタツヤな」


「波長が合うヤツって、石田以外には絶対にいないのか?」


「そーなー、何千年か待てば、また見つかるかもしんねーけどな。こっちも、そんなチンタラ待ってらんねーのよ」



 まあ、魔王が暴れているであろう、この世界の情勢を考えたら茶でも飲んで気長に待つなんてことも出来ないか。



「だからタツヤを抑えるヤツがいなきゃマズイなって思ってさ、アイツに言ったんだよ。「能力が欲しかったら相棒を用意しろ」ってよ」


「で、アイツが選んだのがこの俺ってわけか」



 異世界物語が大好きな石田。

 俺がこの世界に来るハメになったのって、間接的にこのヤンキーのせいなんじゃないかな。



「いや? タツヤはオマエを選ばなかった」


「は? ……だ、誰を選んだんだよ」



 なんだ、アイツ。俺とこの世界に一緒に来たかったとか調子良いこと言っといて、最初は他の奴と行くつもりだったのかよ。

 あんだけ俺と一緒だとか言っといて。こっちは女にまでなったってのにさ。


 ……なんか泣きたくなってきた。なんであんなヤツのせいで泣かなきゃならないんだよ。



「誰も選ばなかったな」


「……なんだそりゃ」


「アイツ、異世界に魔王をシメに行ってくれって頼んだらよ、「能力? 馬鹿じゃないですか? 僕には関係ないし興味ないから行きたくありません」とか断りやがってな。あんまムカついたから、キャメルクラッチかましたくなったわ」


「なんでプロレス技なんだよ!」



 プロレス技とはいえ、このヤンキーのことだからガチで石田を真っ二つにしかねない。


 ふうん、石田は異世界行きにテンション上がってるんだと思っていたけど、じつは興味薄かったのか。じゃあ、なんで俺を引き連れてでも魔王退治に乗り気になったんだろう?



「で、頭の良いあたしは考えた。ちっと攻め方を変えよーってな」


「攻め方?」



 あんたが頭が良い? クソヤンキーのあんたがか?



「なんだ、その目は? 火ーついたヤニでも押し付けてやろーか?」


「普通に怖えわ! なんだよ、それ」


「根性焼きな。あたしは酒も飲まねーしヤニも吸わねーからタバコはここにはない。安心しろ」


「もうそういうのいいから! 早く話の続きを聞かせてくれ」


「チッ、ま、いっか。で、あたしはタツヤに言ったのよ。「オマエの好きな青山圭を連れてってもいいんだけどよ?」ってな」


「なんだそれ! アイツが俺を指名したんじゃなくて、あんたが俺を名指ししてんじゃねえか!?」



 やっぱ。このヤンキー、ろくでもない。

 俺が連れてこられたのは間接的じゃなくて直接的にコイツのせいだったよ!


 あと石田が俺のことを好きってなんだよ? アイツはそれを否定してたぞ。俺みたいな、なんちゃって女の子じゃなく、普通の女の子が好きだからな、ヤツは。



「オマエを連れてってーって話になったら、アイツ途端にノリノリになってな。そっから先は話が早かったわ」


「あんたが余計なコト言わなきゃ、アイツもその気になんなかったんじゃねえのかな!?」



 全ての元凶は、やっぱこのヤンキーだった。うわあ、凄えムカつく。

 なにが『選ばれし者』だ。フタを開けてみれば、アンタ本人が選んだ結果じゃねーか。



「他にもダチはいるっぽいけど、そんな深い付き合いのヤツはいねーみてーだしさ、タツヤ」


「たしかに石田が誰かと仲良く喋ってるのは見たことないけど……」


「そ。アイツが好きなヤツはオマエだけだ」


「好きってなんだよ。アイツは中身が男の俺には興味ないぞ? 俺は石田本人にそのことは確認したんだからな」


「あれ? タツヤが「青山君とは相思相愛だから、彼もきっと喜んで一緒に来てくれます!」っつってたぞ」


「アイツの冗談に乗っかんないでくれ! 俺も知らなかったけど、石田って結構冗談ばっか言うんだよ」


「ふーん……」



 ヤンキー女神が顔を近づけ、その大きな瞳で俺を覗き込む。

 宇宙にでも繋がってるんじゃないかと思える、その奥深い瞳に吸い込まれそうな気がしてくる。



「な、なんだよ」


「ふふ、いや、なんでもねーよ? やっぱ可愛いな、オマエ」


「可愛いとか言うな。怖いっての」


「女になったのが怖いか。うん、そーだろな。けど、いーんじゃね?」


「そういう話じゃねえし良かねえよ。大体なにが良いんだよ?」


「タツヤに守ってもらえばいーじゃん? で、アイツのことはオマエが守ってやってくれよ。オマエがアイツの鍵なんだからさ」


「なにが鍵だっての、守れるわけないだろ。こっちはなんの力もないんだぞ」


「守ってやってくれ。それがあたしからのお願いだ。頼むよ、圭」


 そう言うと、ヤンキーは頭を下げた。

 あの偉そうなクソヤンキーが深々と頭を下げる。嘘だろ? あり得ない。

 いや、待て待て。詐欺師は目的の為なら頭なんかいくらでも下げる。信用しちゃ駄目だ。


「……随分調子良いお願いだな。あんたはなにもしてくんねえのかよ」


「マジでワリー。あたし、オマエらがヤバいことになっても世界にヒョイヒョイ手出しできねーんだよ。なんてゆーか規則みてーのがあってさ」


「規則……制約みたいなもんか?」


「あー、そんなもんだ。あたしさ、誰かが死ぬのって嫌なんだよ」


「嫌っても、誰でもいつかは死ぬだろ」


「まーな。けど、不意にっていうか、いきなり死ぬことになるのを見ちゃうとさ? ついつい助けたくなんだよな。でも、神さんがそんなコトしたらマズイらしくてさ」


「そうなのか」


「はは、あたしみたいな性分のヤツは、放っとくと神の本分を果たせないんだとさ。だからあんま世界に目を向けちゃダメなんだとよ。キリねーし世界に干渉しすぎなんだと」


 寂しそうにヤンキーは俯いた。なんだかな……どうせ演技なんだろ?


「神なんて言ってもショボイもんだよ。ただ、オマエらのコトは気にかけてっからさ? いちお、あたしが頼んだんだしよ」


「…………」


「死なれちゃあたしが悲しいからさ。あたしが泣かない為には、おまえらには生きててもらわなきゃな」


「あんた……」



 コイツの悲しそうな顔は演技なんだろうか。

 詐欺師みたいなロクデナシのコイツの言葉を、どこまで信じればいいんだろう? これまでのことを思えば一切信用なんか出来ない、と思うんだけど……。



「誰だって急に死にたかねーべ。あたし、誰かがいきなし死んじゃうのが一番嫌いなんだよ」


「…………石田の家に火ぃつけようとしたヤツがよく言うよ」


「あれかー。タツヤに気合いれてやろーとしただけでさ。人が死ぬようなマネはゼッテーしねーよ? あたしの神の看板に誓ってな」



 なにが看板だ。ったく、ヤンキーめ。



「あたしは人が好きだからさ」


「…………人が好き、か」


「ふふ、オマエと一緒だな?」


「ッ……なに言ってんの? あんた。……バカなんじゃねえの」



 コイツ、凄い良い笑顔で微笑んだ。

 女神の慈愛に満ちた顔って、こういう笑顔のことを言うんだろうって思えるくらいに優しく温かい笑顔をしやがった。


 中身ただのヤンキーのクセに。ロクデナシ発言しかしないチンピラ神なのに卑怯すぎる笑顔だ。

 ……いや、まだまだ信用しちゃ駄目だ。



「その世界では人が沢山殺されたりしてんのか?」


「いや、まだだ。まだ魔王は動いていない。けど、動いてからじゃ遅すぎる。アイツがヤベーコトに手ー出してんのは間違いねーんだ。魔力の流れがおかしな具合になってるのは魔王のせいで間違いねーんだ」



 今は大丈夫だけど、これから魔王が世界を混乱させるような戦争でも始めるってコトか。



「全部おわったら、褒美に牛丼くれー食わせてやっからよ、気合入れてくれな?」


「報酬が安すぎんだろ!」



 ほらな! やっぱ信じちゃダメだったよ! 


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